↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第二章 陛下の様子が変です

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/100

41 ヴィルヘルムの暗い過去

――ヴィルヘルムはまだ幼い頃の夢を見ていた。



物心ついた頃には実の母親はすでに他界していて、彼は父である国王と義母の王妃によって育てられた。

とはいっても、父はほとんど彼の育児には参加していなかった。

仕事が忙しいのと、類を見ない女好きだったこと。側室の一人だった母が亡くなったあとも、他に女を囲っては遊びを繰り返していた。



『ヴィルヘルム、お前は私の唯一の子だ。母親の身分など気にしなくていい。王太子として、気高く生きろ』

『……はい、父上』



会えば必ずと言っていいほど口にしたその言葉。

唯一の子、王太子として――それらは常に彼を縛り付けていた。



他に父の血を引く子供がいればまだ心も楽になっただろうが、王家の子はヴィルヘルム一人だけ。

お前の代わりはいないのだと、彼は常日頃から言われ続けた。



傍から見れば最低な父親だっただろうが、彼をより苦しめていたのは義母である王妃のほうだった。



『――ヴィルヘルム』

『……母上』



彼の記憶にある義母は、いつも優雅な笑みを浮かべている人だった。

貴族令嬢だった頃から社交界の華として知られ、公務も完璧にこなす彼女は王妃の鑑とまで言われていた。



――ヴィルヘルムだけが、彼女の本当の姿を知っていた。



毎晩のように王妃に秘密の部屋へと連れて行かれ、彼は言葉にならない屈辱を与えられ続けた。

まだ幼かったヴィルヘルムは、その行為を理解していなかった。なぜ、王妃がそれほどまでに自分を苦しめようとするのかも、全て理解できないままでいた。



『あなたは一体誰に似たのかしら?その顔……憎たらしくてたまらないわ』



まるで拷問のような仕打ちは、彼が五歳の頃から始まり、十五歳まで十年もの間続いた。

王妃はいつも、王妃宮にある隠された秘密の部屋を使用していたため、誰かが彼の苦痛に気付くことはなかった。



だから、王妃宮は今でも彼にとって憂鬱な気分になる場所だった。



彼女は躾と称し、彼に鞭を振るうことも多々あった。

心も身体もボロボロにされ、ヴィルヘルムはとうとう父王に助けを求めた。



『ヴィルヘルム、王妃がそんなことするわけないだろう?お前が何か悪さをしたんじゃないのか?』



国王は、たった一人の息子の言葉を信じることなく、笑った。

そして彼のことなど気にも留めず、また別の女のところへ向かうのだった。



しかし彼が十五歳を迎えた日、一人の王妃専属侍女の勇気ある証言により、彼女の罪は全て明らかになった。

真実を知った国王は王妃を捕らえ、処刑した。よって、ヴィルヘルムに危害を加えようとする者は誰もいなくなった。



だが、父は息子が負った心の傷からは目を背けた。

かつて彼の証言を信じなかった負い目があるからだろうか。国王は徹底的にヴィルヘルムを避け、出来る限り顔を合わせないようにした。



母も父も、周囲にいる人間たちから見放された彼は、人間不信になった。

特にヴィルヘルムの女性に対する嫌悪感は凄まじかった。

義母から受けた仕打ちは、永遠に彼の記憶に刻まれ、彼を苦しめ続けた。



ヴィルヘルムは今まで誰一人として愛することができなかった。

彼の心の傷は修復できないほどに抉られ、たとえ誰であろうと癒やすことはできない。



たしかに、そう思っていたのに――



「……」



自室のベッドの上で仮眠を取っていたヴィルヘルムは、ゆっくりと目を開けた。

時計を見ると、彼が眠りについてから、三時間ほどが経過していた。

こんなにも長く昼寝をするのは久しぶりだった。



「……またあの夢か」



彼は義母の死後四年が経過した今でも、たびたび幼少期の夢を見ることがあった。

あの一件は、ヴィルヘルムにとっては消えないトラウマとなっていた。



まだ部屋の中は明るいというのに、どうしてこんなにも暗い気持ちになるのだろうか。

この頃気が沈むと、彼はある人物の顔を思い浮かべるようになった。



「王妃……いや、マデリーン……」



彼女を下の名前で呼んだのは初めてだった。

結婚する前はセヴェランス令嬢、結婚後は王妃と、ずいぶん他人行儀な呼び方をしていたから。



「マデリーン……お前が恋しい……」



脳裏に彼女の眩しい笑顔が浮かび、ヴィルヘルムの胸が締め付けられた。



今すぐに彼女に会いたい。

彼女の温かい身体で、俺を包み込んでほしい。

そんなことを考えているうちに、マデリーンの幻影が見えたような気がした。



誰かを愛することがこんなにも辛いとは、想像もしていなかった。



「会いたい……」



夫が妻に会いに行くのは普通のことだが、今までマデリーンにしてきたことを思えばどうしても行動に移せなかった。

今さらどんな顔をして、彼女に会いに行けばいいんだ。

それに、マデリーンは既にヴィルヘルムへの愛など抱いていないようだった。



「次会えるとしたら、来週のボランティアのときか……」



会議をキャンセルしてでも行かなければ、とヴィルヘルムは心に決めた。

そのとき、部屋の扉がノックされた。



ベッドに座ったまま返事をすると、ダニエルが中に入ってきた。



「陛下、ご報告が」

「……どうした?」



ヴィルヘルムは落ち着いた様子でダニエルの言葉を待った。

だが、そんな彼にとんでもない事実が告げられた。



「――王妃陛下が騎士の男と会っていたようです」

「………何だと?」



マデリーンが俺以外の男と会っていた?

その姿を想像するだけで、彼はいてもたってもいられなくなった。



ヴィルヘルムはすぐに立ち上がると、そのまま全速力で王妃宮へと駆け出した――




読んでくださってありがとうございます!


ブクマ、いいね、評価などしていただけたら励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。