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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第二章 陛下の様子が変です

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40/100

40 薔薇の花束

王家主催の舞踏会が終わってからというもの、ヴィルヘルムの様子がおかしい。



「王妃陛下、国王陛下からお花が届いておりますよ」

「……薔薇の花束?どうしてまた急に……」



侍女の腕に抱えられてたのは、真っ赤な薔薇の花束だった。

その数、ざっと見ても百本はあるのではないだろうか。



「とりあえず、テーブルに置いといて。ずっと持っていると重いでしょう?」

「陛下ったら、なんてロマンチックなんでしょうね」



侍女はフフフッと笑みを溢した。

普通の男性ならロマンチックに思うところだが、相手はヴィルヘルムだ。

素直には喜べないというのが、マデリーンの本音だった。



「こんなにもたくさん、どうしろって言うのよ……」



マデリーンはテーブルの上の花束に、困惑していた。

前の舞踏会のときも、ヴィルヘルムはいつもと様子が違った。



マデリーンはできるだけ気にしないように生きたかったが、こうも自分に関わってくると気にならないわけがなかった。

明らかに前世とは違うことが起きている。彼女自身、理解が追い付いていなかった。



「――王妃陛下が変わられたので、国王陛下も興味を抱かれているのでは?」

「エマ……」



マデリーンの疑問に答えるように割って入ったのは、エマだった。



(今になって興味を抱かれても……私にはどうすることもできないわ……)



既にマデリーンの中で、ヴィルヘルムへの思いはない。

そのせいか、彼女はエマの考えを根本的に否定した。



「陛下とは二度と関わらないと、回帰したときに決めたのに……」



マデリーンはどうしても、花を自室に飾る気にはなれなかった。

愛情という花言葉を持つ赤い薔薇。どうしても、自分には相応しく無いと感じてしまうのだ。



「陛下……そういえば、もうすぐ国王陛下のお誕生日ではありませんか?」

「誕生日……そうだったわね」



そこでマデリーンは、数週間後にはヴィルヘルムが誕生日を迎えることに気が付いた。



本来、王族が誕生日を迎える際、国を挙げてその日を祝う。

王家主催でパーティーを開き、貴族たちは必ず贈り物を用意する。王都には国旗が掲げられ、全員が気高き王族の生まれた日を祝うのだ。



しかし、ヴィルヘルムはそのような祝いの場があまり好きではないため、国王になってからは一度も開いたことがなかった。

それどころか、彼は誕生日になるといつも公に姿を現わさなくなる。



(……やっぱり、母親の命日だからあまり外に出たくないのかしら)



ヴィルヘルムの産みの母親は、彼を出産すると同時に亡くなっている。

つまり、彼の誕生日が実母の命日だった。もしかすると、彼は母の命日を気にしてパーティーを開いていないのかもしれない。



マデリーンも目の前で実母を失っているせいか、彼の辛い気持ちが不思議と理解できた。



「陛下、プレゼントを用意しないといけませんね」

「そうね……何にしようかしら」



マデリーンは悩む素振りを見せながらも、それほど真剣には考えなかった。

以前は愛を込めて刺繍入りのハンカチなどを贈っていたが、今世に入ってから忙しい日々を送る彼女にそんな時間はなかった。



「まぁ、まだまだ時間はあるわけだし……そんなに急ぐようなことでもないわよね」

「そうですね、陛下」

「その通りですよ、国王陛下のことはできるだけ考えなくていいと思います」



侍女たちは基本的にマデリーンの味方である。

前世ではマデリーンの横暴に耐えられなくて辞めて行った彼女たちだが、今世は心優しいマデリーンを尊敬するようになった。



そのため、王妃宮にいる使用人たちはほとんどがヴィルヘルムアンチだった。

優しい王妃を冷遇する、酷い王。もはや王妃宮に彼の味方はいない。



一度部屋を出たマデリーンは、王妃宮の廊下を歩いた。

その道中、彼女はある人物と出くわした。



「……あら、あなたはたしか」

「王妃陛下!こんなところで会うなんて奇遇ですね!」



――マデリーンがたまたま出会ったのは、前にクッキーをあげた騎士のフレデリック卿だった。

フレデリック卿は平民出身で、マデリーンとはたまたま同い年の騎士見習いだ。近衛騎士団の下で騎士を目指し、日々鍛錬に励んでいた。



「元気にしてたかしら?何だかとっても久しぶりに感じてしまうわ」

「もちろんです」



マデリーンはあれからも時々騎士団を訪れていた。

命を懸けて国を守る者たちを気にかけるのは、上に立つ人間として当然のこと。



「実は私、今回正式に従者から一般騎士になることが決まったんです」

「あら、そうだったの?おめでとう!」



マデリーンはパチパチと両手を叩いて拍手をし、フレデリックの出世を祝った。



「近いうちに叙任式が行われるので、王妃陛下にどうしても伝えたくて……」

「そうだったのね。あなたの叙任式、楽しみにしているわ」

「陛下……ありがとうございます」



彼女の笑顔に、フレデリックは頬を赤く染めた。

彼の努力が報われたことを知り、マデリーンは純粋に喜んだ。



「私、もっと努力いたします。王妃陛下を守れるように……」

「そう、期待しているわ」



マデリーンはフレデリックの肩を手でポンポンと叩いた。

何気ない彼女の行動に、フレデリックの顔はさらに真っ赤になった。




読んでくださってありがとうございます!


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