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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第一章 回帰しました

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39 違和感

公爵とのダンスを終えたマデリーンは、席へ戻る前にある光景に目を留めた。



「――あらやだ、あなたったら。ご自分の立場が恥ずかしくないのかしら?」

「……」



彼女の視界の端に映ったのは、側妃ソフィアを取り囲んで詰る令嬢たちの姿だった。

側妃ではあるものの身分の低いソフィアは、高位貴族の令嬢たちから見下されていた。



「王妃陛下が会場にいるというのに、よくも堂々とこんな場所へ来れましたわね?」

「や、やめてください……私のお腹には陛下との子がいるんです……」



彼女たちのその行動は、かつてマデリーンがソフィアやその他令嬢にしていたこととそっくりだった。

まるで昔の愚かな自分を見ているようで、マデリーンは放置しておくことができなかった。ソフィアのためにも、彼女たちのためにも、止めるべきだ。



気付けば、マデリーンはソフィアを守るように彼女の前に立っていた。



「――何をしているの、やめなさい」

「お、王妃陛下……!?」



予期せぬ人物の登場に、令嬢たちは驚いた。

他の誰かならともかく、ヴィルヘルムの正妻であるマデリーンがソフィアを庇うだなんて。とても信じられなかった。



「陛下……あの女は身の程知らずです。王妃陛下より先に国王陛下の子を妊娠するだなんて……」

「あら……私のためを思って言ってくれていたのかしら?あなたってとっても優しいのね」



令嬢の顔をよく見ると、彼女はかつてマデリーンの取り巻きの一人だった。

取り巻きと言っても、マデリーンのことを慕っていたというわけではない。



『マデリーン様はとっても素敵ですわ――もっと濃いメイクをすれば、きっと王太子殿下に振り向いてもらえるでしょう。殿下は派手な装いの女性が好きだそうですよ』



耳元で囁かれた彼女の言葉が、脳内に蘇った。

マデリーンはその助言を真に受け、メイクを濃くした。



――ヴィルヘルムが派手な装いなど好まないことを、マデリーンはずいぶん後になって知った。



彼女は最初から、マデリーンを貶めて笑い者にしようとしていたのだ。

マデリーンはそんなこと知る由もなく、彼女だけが理解者だと疑うことさえしなかった。



「あなたがそこまで私のことを思っていてくれたなんて、知らなかったわ」

「へ、陛下……」



マデリーンの表情の変化を感じ取ったのか、彼女は顔を引きつらせた。



「ありがたいけど、余計なお世話よ。私はあなたに守られるほど、弱くはないから」

「……何を」

「――陛下の子を身籠る側室を貶めるだなんて、身の程知らずはどちらかしら?」



マデリーンはニッコリと笑い、そのままソフィアの手を引いた。



「お、王妃陛下……!?」

「それじゃ、私たちは失礼するわね。あなたに構っていられるほど暇ではないから」



ソフィアを引きずるように、マデリーンは彼らの前から立ち去った。

王妃の警告がよほど効いたのか、ソフィアを詰っていた令嬢たちは大人しくなった。



「何とかなったわね」

「王妃陛下、ありがとうございます……」



ソフィアは驚きながらも、助けてくれたことの礼を言った。

マデリーンは自分よりも背の低い、小柄な彼女を見下ろした。



「いえいえ、気にしないで。当然のことをしたまでだし」

「それでも……陛下に助けられたのは事実ですから」



先ほどの一件で、ソフィアのマデリーンに対する印象はガラリと変わったようだった。

マデリーンは彼女の膨らんだお腹を見つめながら口を開いた。



「お腹の子に何かあったら大変だから、安静にしてないと」

「陛下がそこまでこの子のことを思ってくださるなんて、嬉しいです」



ソフィアは腹に手を当て、愛しそうに微笑んだ。

前世では憎んだことさえあった子だが、今はもう何とも思わない。



「陛下は……以前とはずいぶん変わられたようですね」

「……そうね、私も大人になってまともな考えができるようになったのよ」

「……………まとも?」



その言葉を聞いたソフィアが、一瞬だけ眉をひそめたように見えた。



「そうですか……陛下がまともになっただなんて――何だか少し残念ですね」

「…………どういうこと?」



意味がわからずに、マデリーンは尋ねた。

そんな彼女に、ソフィアはニコリと笑った。口元は笑っているが、よく見ると目に感情が無い。

こんな顔をする人だっただろうか。



「いえ、何でもありません。ただ、陛下が私たちのことを応援してくださって嬉しいという意味です」

「……」



ソフィアは慣れない様子でカーテシーをすると、そのまま彼女の前から去って行った。

そんな彼女の様子を見ていたマデリーンは、得体の知れない違和感を覚えていた。



(……彼女には、何か秘密がある)



マデリーンは、ソフィアの小さな背中が遠ざかっていく様をじっと眺めていた。

そんな彼女に、ある人物が声をかけた。



「――王妃、もうすぐ舞踏会が終わる。部屋まで送っていこう」

「あ……陛下……」



マデリーンに話しかけたのはヴィルヘルムだった。

彼はソフィアを含めた誰とも踊ることはなく、早々に戻ることを提案した。

多くの男性と踊ったこともあって疲れていた彼女は、ヴィルヘルムの差し出した手を取った。



「はい……陛下……」



重ねられた手を見たヴィルヘルムは、安心したように笑った。断られると思っていたのだろう。

先ほど見たソフィアの無感動な瞳が、いつまでも彼女の頭から離れなかった。



そして、マデリーンはこの先あらゆる陰謀に巻き込まれていくこととなる――




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次回から第二章です!

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