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慣れてしまいましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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4 悪女は改心する

侍女を外に出した後、彼女は一人になった部屋で呟いた。



「私……改心するわ」



その瞳は、前世と比べものにならないほど力強く、未来への希望を僅かながらに映していた。

このときのマデリーンは、並々ならぬ決意を抱いていた。



自分の過去の行動はあまりにも酷く、見るに堪えないものだった。

多くの者を傷付け、苦しめてきた。マデリーンを三十年間放置したヴィルヘルムも、元はといえば彼女の被害者の一人だったのだ。



ヴィルヘルムはただ一方的な愛の犠牲となっただけだ。応えられない気持ちを拒否するのは当然のことで、彼には何の非もなかった。

二度目の人生において、彼女はようやくそのことを理解した。



今世では、絶対に愚かなことはしない。

ヴィルヘルムへの愛を捨て、私は今まで傷付けた人たちと自分のために生きる。



――二度と、彼を愛したりしない。叶うことのない恋で傷付くのは、もう御免だった。

今度こそ、私は真っ当な人生を生きたい。



マデリーンは拳を強く握りしめ、改心を誓った。







***





――マデリーン・セヴェランス公爵令嬢。

名門セヴェランス公爵家の長女であり、別名――王太子ヴィルヘルムの最恐ストーカー。



ヴィルヘルムに執拗に付きまとい、彼に近づく女を絶対に許しはしなかった。

ある日の舞踏会後、一人の令嬢がとある理由でマデリーンに目を付けられた。



『あなた、子爵令嬢の分際で王太子殿下とダンスをするだなんて何様のつもりかしら?』

『ヒ、ヒィ!ど、どうかお許しください!二度といたしませんから!』



マデリーンは王太子とダンスをした子爵令嬢を呼び出し、複数人で取り囲んで問い詰めた。罵詈雑言を浴びせ、さらには頭からワインをかけた。

そのせいで、令嬢は床に膝をついて惨めに命乞いをするという醜態を全員の前で晒す羽目になったのである。



『私はセヴェランス公爵家の令嬢よ?その気になったらあなたの子爵家なんて潰せるんだから』



オーホッホと高笑いをしたマデリーンを、周囲にいた取り巻きたちが持て囃した。

流石はマデリーン様ですわと。その言葉にいい気になったあの頃の自分は、内心見下されていることにすら気付いていなかった。



「……いや、イタすぎるしダサッ」



過去の自分に一言。

超が付くほどの黒歴史を思い出し、マデリーンは羞恥で顔を赤く染めた。



(大体、下位貴族のか弱いご令嬢を複数人で追い詰めるのがまずダサすぎるわよね)



弱い者いじめという言葉があるが、一人相手に大勢でかかっている時点で、弱いのはマデリーンのほうだった。

大人になってから気付くこともあるのだと、彼女はたった今学んだ。



「とにかく、まずは使用人たちへの贖罪をしないと!彼らの信頼を得ずしてこの王宮で生き残るのは過酷極まりないもの」



そう考えたマデリーンは、早速行動に移した。

使用人たちの彼女に対する怖いという印象を変えることができれば、必然的にマデリーンの評判も上がるだろう。



彼女はエマを呼び出し、彼女の手を借りて、王妃宮に配属された使用人たちを全員集めた。

ヴィルヘルムが住む本宮に次ぐ大きさを誇る王妃宮では、勤務する使用人の数も多い。



よく顔を合わせる侍女に執事、普段あまり関わることのないシェフや庭師が一堂に会した。見習いからベテランまで、身分や歴を問わず全員を呼び寄せた。



マデリーンは彼らに向けて、深く頭を下げた。



「――と、いうわけで……みんな、今まで何かと理不尽に怒っちゃったりしてごめんなさい」

「お、王妃陛下……!?」



当然、全員が困惑を隠しきれない。

悪女として有名なマデリーンが、突然そのような行動に出たのだから無理もない。

みんな頭がおかしくなったのではないかと思っているだろう。



(そうよね、今までの私の行動や言動を思えば受け入れられるわけがない)



元々、人の本質などそう簡単に変わるはずがない。

マデリーンは回帰という非現実的な経験をしていたが、話したところで余計に困惑させるだけだし、信じられないだろう。



「もちろん、すぐには信じてもらえないでしょう。みんなも知っても通り、私は陛下から相手にされていないから」



マデリーンは状況を打開するため、一芝居打つことを決めた。

お飾りの妻となっていることを頑なに認めなかった彼女だが、今回はあえて全員の前で自分を卑下してみせた。



「誰でもいいから私のことを見てほしかったの……私の味方は誰もいないから……みんなと仲良くなりたかっただけなのよ……」



マデリーンは視線を下げ、弱々しい声で言葉を発した。

わざとらしい演技のように見えるが、使用人たちと仲良くなりたいというのは本当の気持ちだ。



「仲良くなりたいって……私たちと?」

「あの王妃陛下がそんな気持ちを抱いていたとは……」



そんなマデリーンの姿に、侍女や執事たちは驚きを隠せなかった。もちろん、彼女を疑いの目で見る者も多くいる。

しかし、仲良くなりたいと言われて悪い気になる人なんていない。

使用人たちの警戒を解くため、彼女は最後の一押しをした。



「過去のことがあるし、今は信じてもらえなくてもいいわ――ただ、これからの行動でその気持ちをきちんと示すつもりだから」



悲しそうな目から一転、今度は決意に満ちた強い瞳を見せる。



「行動……?一体何をするつもりなんだ……?」



彼らはまだ、ただの王妃の気まぐれだと思っていた。

しかし、それからすぐにマデリーンの使用人たちへの贖罪は始まった――




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