5 変化する悪女王妃①
贖罪の気持ちを行動で示す――
マデリーンはその言葉通り、次の日から実行に移した。
まず、使用人たちへの八つ当たりが一切なくなった。
マデリーン王妃の癇癪は日常茶飯事で、今まで毎日のように理不尽に当たられていた侍女もいたほどだ。
(前世だと、この時期は特に酷かったわね……)
結婚して一年、ヴィルヘルムの訪れもなく、さらに側妃の妊娠が発覚。
マデリーンが相当精神的に追い込まれていた時期だったこともあり、以前にも増して他人に当たるようになった。
それが間違ったことだと、彼女は心のどこかで気付いていた。
しかし、誰かのせいにしなければメンタルを保てなかったのだ。
今まで信じ続けてきた愛を手放すことが、こんなに楽だとは思いもしなかった。
ヴィルヘルムへの気持ちを捨てたマデリーンは、心に余裕を持ち、穏やかな日々を過ごすことができるようになった。
「あら、ありがとう」
「は、はい……陛下……」
いかなるときにおいても、使用人たちへの感謝の気持ちを忘れない。
やってもらうことが当然ではないのだと、彼女は前世で身をもって知った。
回帰する直前のマデリーンは、身の回りの世話をする侍女なんていないも同然だった。
彼女の横暴に耐えきれず、次々と親身になってくれた使用人たちが辞めていき、残ったのは性格の悪い者たちばかり。
彼らは主人の世話をほとんどしないどころか、料理の味をこっそり変えたりとマデリーンに陰湿な嫌がらせまでしていた。
しかし、悪評のついた彼女の侍女を志願する者などおらず、クビにすることもできなかった。
「王妃宮に配属された使用人があなたたちで、本当によかったわ」
「は、はぁ……」
回帰前と比べたら、今はなんて恵まれているのだろう。
出される豪勢なディナーも、文句一つ言わずに世話をしてくれるのも、全て当たり前のことではない。
「シェフ、今日の料理はとっても美味しかったわ!」
「王妃陛下にお褒めいただけるとは……光栄です」
マデリーンの嘘偽りのない言葉に、料理長は嬉しそうに笑った。
今の彼女よりもだいぶ年上――五十近い彼だが、こんなふうに笑う人だったのか。何だか意外な一面を知れたようで、マデリーンは嬉しくなった。
「そうだ、これは普段のお礼よ」
「……こんなものを、よろしいのですか?」
彼女が料理長に手渡したのは、希少な調味料のセットだった。
原料として使われているのはドラゴンの鱗や、五十年に一度しか咲かない花など。滅多に手に入るものではなく、各国の料理人たちがこぞって欲しがるセットだった。
「ええ、ぜひ受け取ってちょうだい。ずっとあなたにあげたいと思っていたの」
「ありがとうございます、陛下。これからもっと精進して参ります」
料理長はマデリーンの前に膝をつき、彼女への忠誠を誓った。
マデリーンがプレゼントを渡したのは、料理長だけではなかった。
「あなたにはこれをあげるわ。とっても似合うと思うのよ」
「まぁ、いいのですか?素敵なブローチ……!」
若い侍女たちには今までのお礼として髪飾りやブローチなど装飾品を贈った。
執事や庭師にもそれぞれ贈り物をし、迷惑をかけたことへのお詫びをしたのだ。
彼女は王妃の権力を使い、急いでプレゼントの品物を各地から取り寄せた。
前世では必要ないことばかりに権力を濫用していたマデリーンだったが、今回は正しいことに力を使うことに決めたのだった。
さらに、彼女の贖罪はまだ続いた。
その日の昼、外で洗濯をしていた下女たちの元をマデリーンが訪れた。
「――大変そうね、私も手伝いましょう」
「お、王妃様!?」
予期せぬ来訪者に、下女たちはあ然とした。
王宮にいる使用人たちの中でも立場の低い下女。そんな彼女たちにとって、王妃マデリーンは雲の上の存在なわけで。
関わることもほとんどなければ、話したことすらない。
かごから洗濯物を一枚取り出したマデリーンは、下女たちに向かって微笑んだ。
「このペースじゃあ、いつまでも終わらないでしょう?私が手伝うから、残業なんてしなくていいのよ」
「お、王妃様……!」
大量の洗濯物に疲弊していた彼女たちは、まるで女神様が降臨したかのようにキラキラした目でマデリーンを見た。
元々マデリーンは美しい容姿をしている。そんな彼女に優しくされれば、女神に見えるのも仕方がない。
「さぁ、早く仕事を終えて休みましょう。お腹が空いたでしょう?」
「はい、王妃様!」
その声で下女たちはやる気を出し、異例のスピードで洗濯物が干されていく。
マデリーンの隣にいた下女は、おそるおそる彼女に声をかけた。
「王妃様、失礼ですが……ずいぶん手慣れているように思えます。洗濯の経験があるのでしょうか?」
「な、ないわ……ただ、普段あなたたちがやっているのをよく見てたから……自然と覚えちゃったのよ」
「まぁ、私たちを見てくれていらしたのですね!」
自分たちなんて眼中にもないと思っていた彼女は、嬉しそうに目を輝かせた。
今世ではできるだけ嘘をつきたくないと思っていたマデリーンだったが、今回ばかりは本当のことを言うわけにはいかなかった。
(前世では服を意図的に汚されるから自分で洗濯してました……なんて言えるわけない)
マデリーンは何とか笑って誤魔化した。
使用人の仕事をこなせる王妃など、きっと歴代でも彼女くらいだろう。
そして、その日から使用人たちの間で彼女の印象は変化していったのだった――
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