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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第一章 回帰しました

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37 舞踏会当日

それから時間は流れ、舞踏会当日となった。



「……この格好、変じゃないかしら?」

「変だなんてとんでもありません!よくお似合いですよ、王妃陛下!」



鏡の前に立ったマデリーンは、青と白を基調としたドレスを着ている自身の姿を何度も確認した。

上品なレースやフリルがふんだんにあしらわれているドレスは、まさに皇后の尊厳を保つのにピッタリと言えるだろう。



長い金髪は後ろでまとめ、耳には大きなイヤリングを着けている。



「首元が少し寂しいですね。ネックレスを着けましょうか」

「そうね……今日は公式行事だし、たまにくらいならいいかもね」



首元が重くなるのは好きではないが、公の場に出るときくらい華やかな姿でいるべきだろう。

どうせ年を取ったらこんな格好は似合わなくなるのだから、今のうちに着ておきたいし。



マデリーンは侍女の手を借りて、首に大きなダイヤモンドのネックレスを装着した。



「陛下からプレゼントされたティアラも、そろそろ着けましょう」

「そうするわ、ティアラを着ければ人々のくだらぬ噂も止むでしょうし」



最後にハーツホーン・ティアラを頭に着けたそのとき、ちょうど部屋の扉がノックされた。



「――王妃様!陛下がいらっしゃいました!」

「……中に通してちょうだい」



侍女がマデリーンの命令を受けて出て行ってから数分後、ヴィルヘルムが入れ替わるように姿を現わした。

扉を開けた彼は、入口の前で固まった。



「王妃……」

「陛下、ご機嫌いかがでしょうか」



マデリーンは石のように動かなくなる彼に、優雅なカーテシーで挨拶をした。

近頃清楚系に転身したマデリーンの、久々に見る煌びやかな姿。手を施さずとも美しい彼女だが、派手なメイクがよく似合う。



ヴィルヘルムは、マデリーンはこんなにも美しかったのかと、今になってようやく察した。

彼はこれまで彼女のことを、自身にしつこく付きまとう女としてしか見ていなかった。

性格が悪いと決めつけ、彼女のことをよく知ろうともしなかった。



――彼は今になって、自身の愚かな行いを後悔し始めた。



ヴィルヘルムはゆっくりとマデリーンに近づくと、彼女に手を差し伸べた。



「王妃、式が始まる。そろそろ行こう」

「ええ、そうですね」



マデリーンは驚きながらも、彼の手を取った。

触れた大きな手から感じられる温もりが、何だか新鮮だった。



「へ、陛下……?」



――そのとき、ヴィルヘルムが一瞬握る手に力を込めたような気がした。

マデリーンは驚いてヴィルヘルムを見るが、彼は普段と変わらない様子で行こうと口にするだけだった。



彼女は勘違いかと、深く考えないことにした。



マデリーンとヴィルヘルムは横並びで歩きながら、パーティーホールまで向かった。

いつも現地集合であるせいか、慣れないことに二人とも落ち着かなかった。



横を歩くヴィルヘルムの顔色を窺うマデリーンに対し、彼は全く違うことを考えていた。



どんな話をすれば、彼女の笑顔が見れるだろうか。

どんなことを言えば、彼女に喜んでもらえるかな。

いっそ、このまま誰の目もないところまで彼女を連れ去ってしまいたい。



なんて、どうしようもなくくだらないことばかりを気にしてしまっていた。

しかし、結局どちらも言葉にすることはできず、考えているうちに会場に到着した。



「――ヴィルヘルム・ルバーニ国王陛下と、マデリーン・ルバーニ王妃陛下がいらっしゃいました!」



二人はいつもと変わらない姿で、会場に足を踏み入れた。

主催者であり、ルバーニ王国のトップである彼らの入場に、招待客の貴族たちは臣下の礼を執った。



「ちょっと、王妃陛下が着けてるあのティアラ……」

「間違いないわ。ハーツホーン・ティアラよ」

「どうして王妃陛下が?」



マデリーンの頭上で輝くティアラに、人々は衝撃を隠せなかった。

国王陛下の仲の悪さは有名で、特にヴィルヘルムがマデリーンを毛嫌いしていることはここにいる誰もが知っていた。



そんな彼女が、別名『愛の証』とも言われるハーツホーン・ティアラを贈られたなど誰が信じられるだろうか。

マデリーンとしては今さら仲の良いアピールをする必要などないが、人々の噂が鎮まるのならありがたかった。



ヴィルヘルムはマデリーンをエスコートし、王妃の椅子にそっと座らせた。

――そのとき、彼の手が華奢な肩に触れた。



「……」



優しく気遣うようなその行動に、マデリーンは気まずくなって彼から目を背けた。

その後、ヴィルヘルムは一人壇上に上がり、主催者として挨拶をした。



(相変わらず堂々としていて威厳があるわね……)



そんな夫の勇ましい姿を、マデリーンは横目で眺めていた。

かつてのマデリーンは、王太子として壇上で挨拶をする彼に一目惚れした。



あのときもたしか、あんなふうに胸を張っていたっけ。

ヴィルヘルムは良い夫とは言えなかったが、王の器は誰よりもあるだろう。



チラリと会場の端に視線を向けると、側妃ソフィアの姿もあった。

こちらを見ていた彼女と目が合ったような気がするが、気のせいだろうか。



「――皆の者、今日は年に一度のめでたい日だ。楽しんでいってくれ」



ヴィルヘルムのその言葉で、舞踏会が幕を開けた。

会が始まると、人々がワイン片手に談笑を始めた。社交界の噂や商売の話など、会話の内容は人それぞれだ。



それから少しすると、管弦楽団によって音楽が奏でられる。

今からは楽しい楽しいダンスパーティーの始まりだ。



男性が女性たちをダンスに誘い、それぞれのパートナーと踊る。

当然、マデリーンは毎回踊る相手もいないため、椅子に座ったまま眺めているだけだ。



と、思っていたのに―――



「――王妃、俺と一曲踊ってくれるか?」

「え………?」



何とマデリーンは、一曲目からヴィルヘルムにダンスの誘いを受けたのだった。




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