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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第一章 回帰しました

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35/100

35 思い描く未来

炊き出しが終わり、マデリーンはボランティア活動の仲間たちと近くの飲食店で食事をしていた。

時刻はちょうど昼の一時。お腹が空き始めていた頃だった。



「汗水流して労働したあとのご飯って、こんなにも美味しいんですね」



市井にあるお店でご飯を食べるのは初めてだったが、なぜかとても美味しく感じられた。

マデリーンはパンを口に運びながら、フルーツジュースを飲んだ。



(一仕事終えたあとっていうのもあるんでしょうけど……一番はみんなで食べてるからよね)



正面には共に活動した仲間たちが並び、すぐ横にはウィリーが座っている。

彼は高位貴族の出身であるせいか、市井の飲食店の食べ物に手を付けようとしない。



「ウィリー卿、食べないんですか?」

「いや……」



せっかく同僚たちが奢ってくれたのにもったいないと思ったマデリーンは、彼の皿からパンを取った。



「ウィリー卿が食べないなら私がいただきますね。食べ物を残すのは気が引けるので」



前世では食事を残すことくらい何ともないと思っていたが、貧困地域の現状を見たあとではそんな考えなど吹き飛んだ。

マデリーンはウィリーの分のパンを迷うことなく食べた。



「マリーちゃんったら、よく食べるのね」

「ええ、私こう見えても大食漢なんですよ?食べるの大好きです」

「あらぁ、最近の女の子は食が細い子が多いのに、すごいわねぇ」



以前のマデリーンは、見た目を気遣ってあまりご飯を食べようとはしなかった。

大好きな甘い物も、太りたくないという理由で口にはしない。しかし、そんな彼女の気遣いなど無意味だった。



――年を取ったマデリーンは老け込んでやつれ、見るも無惨な姿になってしまったから。

あの頃に比べると、我慢しなくていい今の生活は天国のようだった。



(そのせいか、最近ちょっと体重が増えたのよね……幸せ太りってやつかしら)



マデリーンは元々細身であるため、多少体重が増えたくらいでは誰も気にならない。

むしろエマは健康的になりましたねと喜んでいたほどだ。



マデリーンが何の迷いもなく食べるところを見たせいか、ウィリーもようやくスープを一口運んだ。



「……美味いな」



何気なく呟かれた一言に、マデリーンが反応した。



「美味しいですよね。たまにはこういうご飯もいいなって思えます。家では―――あまり誰かと一緒に食べることがないので、みんなでの食事は楽しいです」

「…………そうだな」



マデリーンの幸せそうな笑顔に、ウィリーは切なそうに目を細めた。

彼は自身の犯した罪の意識で胸がいっぱいだったせいか、食事がどうしても喉を通らなかった。





***




食事が終わると、解散となった。

今日はいつもより時間が残っていたため、マデリーンは騎士の同行のもと、王都を散策することにした。



「いつ来ても華やかな場所ね……」



涼しい風に吹かれながら、マデリーンは呟いた。

ボランティアに参加するときにいつも訪れる王都だが、散歩をするのは久しぶりだった。

最後にここへ遊びに来たのはいつだったかな。少なくとも、結婚して王妃になってからは一度もなかったから、きっと三十年以上前だろう。



「せっかく来たんだし、何か買っていこうかな?」



マデリーンはすぐ傍にあったショップへと入って行った。

どうやら雑貨店のようで、中には髪飾りなどの装飾品、文房や食器などの日用品が売られていた。もちろん、平民でも買える安価な値段で。



マデリーンが真っ先に目を引かれたのは、装飾品売り場だった。

その中でも、彼女はあるものに釘付けになった。



「わぁ、このペンダント素敵ですね。デザインがとっても可愛いです」

「お客様は見る目がありますね。人気商品なんです。よくお似合いになると思いますよ」



マデリーンが手に取ったのは、フラワーペンダントだった。

淡いピンク色の花があしらわれた、可愛らしいデザインのものだ。



高価な装飾品類は大半売り払ってしまったマデリーンだが、こんなにも心奪われたものは初めてだった。

ここで買わないと、きっと後悔する。



そう考えた彼女は、ローブの中から金貨袋を取り出した。

マデリーンは店主に、ペンダントと金貨一枚を同時に渡した。



「気に入りました!買っていきます!」

「ありがとうございます、お客様」



マデリーンはフラワーペンダントを購入し、早速首元に着けた。

金貨一枚でもお釣りが返ってくるほど安価なものではあるが、彼女にとっては唯一無二の代物だ。



(幸せはお金で買えないんだって、前世で学んだもの)



前世で手に入らなかった幸せを、今世では掴み取りたい。

いつまでも前世の辛い記憶に後ろ髪を引かれている彼女ではない。



私がいて、エマがいて、他にも大切な人たちがたくさんいる。幸せに満ちた新しい世界で、マデリーンは生きていく。



彼女の思い描いた未来には、悲しいことにヴィルヘルムの姿はなかった―――




読んでくださってありがとうございます!


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