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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第一章 回帰しました

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34 夫はいません

「――っていうことがあったんですよ」

「……仲の良い女友達に恋人ができたから、嬉しい?それで今日はそんなに笑顔なのか?理解できない感情だな」

「それはウィリー卿に友達がいないからですよ」

「……」



数日後、マデリーンはいつものようにボランティアで会ったウィリーと作業しながらの話をしていた。

今日のボランティア活動の内容は、貧困地域での炊き出しだった。



「はい、どうぞ」

「ありがとう、お嬢さん」



高齢女性に器に入れたスープを渡すと、彼女は両手で受け取って微笑んだ。

無邪気なその笑顔を見たマデリーンの胸は、不思議とほっこりした。



「若いのに偉いねぇ」

「いえいえ、やりたくてやってることですから」



女性はチラ、と横にいたウィリーに視線を向けた。

当然、ウィリーも若いの枠に入っている。彼は何歳か知らないが、きっと自分と同じくらいだろうと彼女は予想している。



「お嬢さん、結婚とかしてる?すごく綺麗だから、ウチの孫と結婚してほしいくらいだよ」

「あら、プロポーズですか?嬉しいですね」



マデリーンは彼女の冗談に、フフッと笑みを溢した。

一方、ウィリーはなぜか気に入らないというような目で女性を見ていた。



炊き出しが始まった直後から、マデリーンは人々の視線を集めていた。

容姿端麗な彼女とウィリーは二人並ぶととても絵になる。若い男たちは汚れた地に舞い下りた女神のように美しいマデリーンに、こぞって夢中になった。



「お姉さん、綺麗ですね。初めて見たときからずっとあなたから目が離せません……」

「あ、ありがとうございます……?」



そのうちの一人の男は、受け取る際にちゃっかりとマデリーンの手を握った。

何とも大胆な行動に、彼女は驚いて固まった。さらに、男の大胆な行動は続く。



「マリーさん、このあとよかったらデートでも……」



言いかけたその瞬間、横から入り込んだ手がペシッと男の手を叩き落とした。



「……ウィリー卿」

「付き合ってもいない女性の身体を勝手に触るのはやめろ。無礼だ」



ウィリーは不機嫌そうな顔で、男に厳しい目を向けた。

男は彼ら二人の関係を勘違いしたのか、顔を真っ青にしながら身を引いた。



「ウィリー卿、そんな顔しなくてもいいでしょう?」

「……お前はナンパされて嬉しいのか?」



マデリーンはうーんと悩んだあと、ゆっくりと首を横に振った。

好かれて悪い気はしないが、愛してもいない人にしつこく迫られるのは少し困る。

その点で言えば、彼の行動は間違っていなかったのかもしれない。



「ありがとうございます、ウィリー卿」

「……」



ウィリーは微笑んだマデリーンからプイッと顔を背けた。

そんな二人の間に、同じくボランティアに参加していた女性が割って入った。



「――そういえば、マリーちゃんって恋人とかいるの?ずっと聞けてなかったけど」

「恋人……」



突然の質問に、マデリーンは目を見開いて固まった。

横にいたウィリーも再び彼女に目を向け、周囲の視線が集中した。



「……実は、結婚していて旦那さんがいるんです」

「あらぁ、そうだったの!?全然知らなかったわ!」



何て言うべきか悩んだが、マデリーンは正体を隠しつつ真実を打ち明けた。

マデリーンはまだ十九歳だ。いくら結婚の平均年齢が早いとはいえ、十九歳で既婚の平民女性はあまりいない。彼女は指輪をはめてもいなかったため、誰も既婚者だとは思ってもいなかっただろう。



女性たちは驚き、マデリーンを狙っていた男性たちは撃沈した。

三者三様の反応を示す彼らに、マデリーンは笑いながら口を開いた。



「まぁ、でも私……普段ほとんど夫とは会わないし!籍入れてるっていうだけで、夫婦らしいことは一度もやったことないので!そういう意味で言ったら、旦那さんいたことないです!」

「ええ!?何それ!?」



驚きと同時に、どっと笑いが起きた。

マデリーンは回帰してからというもの、場を和ますのが上手くなった。



しかし、旦那がいたことがないという言葉は、あながち間違いではなかった。

ヴィルヘルムに望まれて結婚したわけではないし、彼と夫婦の営みもしたことがない。そんな状況では、とても夫婦とは言えないのではないだろうか。



「独身ですよ独身!私は旦那さんいないです!」



彼女は笑いながら、冗談を続けた。

マデリーンにとってはただのジョークで、周囲にいる人々もそのことを理解していた。しかし、そんな中で一人だけ全く笑っていない人物がいた。



「……」



ウィリーは複雑な表情で、横にいる彼女をじっと見つめていた。

彼女は当然、そんな視線には気付いていない。



「旦那さんのことをそんなふうに言えちゃうなんていいわねぇ、喧嘩するほど仲が良いってやつかしら?」

「うふふ、ありがとうございます」



仲が良いわけではないものの、マデリーンは適当に相槌を打ってお礼を言っておいた。

一方のウィリーはというと、ずっと不機嫌なままだった。




読んでくださってありがとうございます!


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