33 愛の証
「――王妃陛下ぁ!私、成功しましたよ!やっと恋人ができたんです!」
「あらぁ、よかったわね」
滝のような涙を流しながらマデリーンの元へ駆け寄ったのは、前に恋人を作ると宣言したばかりのアイラ・ドールズだった。
マデリーンは感極まって泣き喚くアイラを優しく抱きしめた。
かつて六回も撃沈した彼女は、七回目にしてようやく気持ちを受け入れられたのである。
失恋で泣いてしまうアイラを何度も見ているからか、マデリーンまで感動してしまった。
「ところで、相手は誰なの?」
「レイランド侯爵家次男のセシル様です!」
「あら、なかなか良い相手捕まえたわね」
子爵家の令嬢であるアイラが侯爵令息を捕まえるとは、大したものである。
(レイランド家と言えば王家とも近い関係だし……次男のセシル卿は騎士として頭角を現していて将来有望よ)
性格も紳士的だと聞くし、アイラにとってはこれ以上ない相手なのではないだろうか。
七度目にしてハイスペックな男性と付き合えるとは、彼女自身も想像していなかっただろう。
「上手くいくといいわね、アイラ」
「ありがとうございます、陛下……」
アイラはマデリーンより一個上だが、年の割には外見も内面も少々子供っぽいところがある。
恋人を思って胸をときめかせる彼女を見ていると、何だか羨ましく感じた。
(私にも、いつかそういう人が現れるのかしらね……)
ヴィルヘルムと結婚してしまっている時点で叶わない夢ではあるが、希望を抱くことくらいはいいだろう。
そのとき、部屋に一人の侍女が入ってきた。
「――陛下、失礼します。国王陛下より、プレゼントが届いております」
「……プレゼント?」
部屋に入ってきた侍女の手には、大きな箱が抱えられている。
念のためもう一度確認を取る。
「国王陛下って聞こえたような気がしたけど、気のせいよね?」
「いえ、国王陛下から王妃陛下へのプレゼントでございます」
「……」
マデリーンは中央にあるテーブルの上に置かれた箱をじっと見つめた。
侍女たち含め、この場にいる全員が呆気に取られていた。
「……陛下が私にプレゼントですって?」
もちろん、一番驚いているのはマデリーンだ。
ヴィルヘルムが自分にプレゼントを贈ったことなんて、前世を含めても数えるほどだ。
記念日でも何でもない今日、どうして急に?そんな疑問が頭に浮かぶ。
何かを探るように机に置かれた大きな箱を眺めていた彼女は、何か思い付いたようにポツリと呟いた。
「……まさか、爆弾でも入ってるんじゃ」
「ちょ、ちょっと陛下!やめてくださいよ!」
ヒエエ!と部屋にいた侍女たちが悲鳴を上げた。
彼女たちはマデリーンの言葉を真に受けたのか、慌てて箱から距離を取った。
(ヴィルヘルム、とうとう私のことが憎すぎて抹殺したくなっちゃったのかしら)
しかし、いくらマデリーンが嫌いでも無関係な人間まで巻き込もうとするのは間違っている。
ここで爆発して、マデリーン以外に侍女たちが死んでしまったらどうするのか。
何とも後先考えないやり方である。
「いいわ、私が開ける!どうせ私宛のプレゼントだしね!」
彼女は意を決し、箱を固定するリボンに手をかけた。
「へ、陛下……!どうかご無事で……!」
部屋の隅にいた侍女たちは、マデリーンの無事を必死で願った。
――しかし、当然箱を開けたところで爆発は起きない。
「…………あら、綺麗だわ」
何気なく呟かれたマデリーンの声で、侍女たちはようやく我に返った。
彼女たちはそのまま、中を見るようにゆっくりと箱に近づいた。
「……まぁ、本当に素敵ですわ」
箱の中から姿を現わしたのは、ティアラだった。
数百個にもなるブリリアントカットダイヤモンドがあしらわれた、存在感のある一点。
「……陛下、これってもしかして」
「間違いないわ――――ハーツホーン・ティアラよ」
高位貴族として生まれ、王太子妃としての教育を受けたマデリーンは一瞬で確信した。
――ハーツホーン・ティアラ。
初代国王が最愛の王妃に贈ったとされる、国宝のティアラだ。初代国王は王妃が二十歳の誕生日を迎えた際、王家の象徴とも言えるティアラを彼女にプレゼントし、永遠の愛を誓った。
しかし、歴代王妃の中でもハーツホーン・ティアラを貰った者は数少ない。
そもそもハーツホーン・ティアラは愛をモチーフに作られたものであり、そのせいか歴代国王たちは心から愛する王妃にしか贈ってこなかった。
――そんなものを、私が?
マデリーンは信じられないと、ティアラに触れることすらできなかった。
届け先を間違えたと言われたほうがしっくりくるほどだ。
「本物のハーツホーン・ティアラ!?初めて見た……!」
「ええ、私もよ……本でしか見たことなかったわ」
箱に入っていたのはティアラのみで、彼からのメッセージカードは添えられていなかった。
そのせいで、ヴィルヘルムの真意がわからない。
困惑していたマデリーンに、侍女が閃いたというように声をかけた。
「陛下、もしかして国王陛下は……近いうちに開かれる舞踏会で、王妃陛下がこのティアラを着けて行くことを望んでいらっしゃるのでは?」
「……たしかに、ティアラを着けるときといえば公式行事くらいだし」
前世ではヴィルヘルムからこのティアラを贈られなかった。
ティアラどころか、他の贈り物すらほとんどされたことがない。そんな彼が突然、国宝を渡してきたのだから驚くのも当然だ。
中身がティアラだと知り、侍女たちは歓喜した。
「あらやだ、陛下ったら!本当は王妃陛下のことをとっても大切に思っていらっしゃるではありませんか!」
「このティアラに似合うドレスや装飾品を選ばないと!」
「……」
どうして、ヴィルヘルムは急に?
純粋に喜ぶ侍女たちをよそに、マデリーンはヴィルヘルムの意図がわからずに戸惑っていた――
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