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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第一章 回帰しました

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30/100

30 違和感

「――あら、陛下。なんだか嬉しそうですね」

「ええ、新しいお友達ができたのよ」



迎えにきた侍女の一人に、マデリーンは嬉しそうに言った。

お友達――というのはもちろんウィリーのことである。会って二回目で友人と言うのはどうかと思うが、彼といると不思議と気が楽だった。



(お互いに本当の身分を隠しているからかしら……)



彼の正体を、マデリーンは知らない。

しかし、ウィリーとはもうすっかり友人だった。

彼はどう思っているかはわからないが、良い関係を築いていけそうな気がする。



「今度私たちにも紹介してくださいね、どのような方か気になりますから」

「ええ、もちろん。実はね、男の人なのよ」

「お、男……!?」



マデリーンに男友達ができたことに、侍女だけではなく、騎士も驚いた。

いくらお飾りの王妃とはいえ、既婚者が他の男性と仲良くするのはあまりよろしくない。

マデリーンの身を案じているのか、侍女が不安げに口を開いた。



「陛下……男性と親しくするだなんて、よろしいのですか?」

「そうねぇ……浮気してるわけではないのだし、バレなければいいんじゃないかしら?」



マデリーンとウィリーは二人きりで会ったこともなく、少なくとも不適切な関係ではなかった。

それに、ヴィルヘルムが彼女の交友関係など気にするはずがない。



(私に他に男ができたと知ったら、むしろ喜びそうだけどな……)



両手を上に上げて泣きながら喜んでいるヴィルヘルムの姿が脳内に浮かんだ。

邪魔な女が消えて愛する人と一緒になれるのだから、それ以上嬉しいことはないだろう。



「陛下……出過ぎたことを申し上げますが、一線を越えないようになさってください」

「もちろん、そのつもりでいるわ。彼とはただの友人同士よ」



それ以上でもそれ以下でもないの――とマデリーンは軽く笑いながら付け加えた。

彼女は馬車に揺られ、王妃宮まで戻ってきた。



王妃宮へ入ると、大勢の使用人がマデリーンを出迎えた。



「――王妃陛下、お帰りなさいませ」

「ええ、ただいま」



彼女は挨拶を返しながら、部屋へと向かった。

その道中、マデリーンはあることに気が付いた。



「……あら?あんな花、あったかしら?」



王妃宮の廊下を歩いていた彼女は、違和感を覚えて思わず足を止めた。

マデリーンの視線の先にあったのは、チェストの上に置かれた花瓶だった。

花瓶には元気に咲いた花が生けられている。一見何の変哲もない光景だが、マデリーンは異変を感じていた。



(……あそこに花瓶なんて置かれてたっけ?)



気になった彼女は、通りかかった侍女に尋ねた。



「ねぇ、あそこに花を飾ったの?」

「あら、そういえば……いつの間にかありますね。私たちも気付きませんでした」



他の使用人たちにも聞いてみるが、花を飾ったことを知っていた者は誰もいなかった。

当然、王妃宮に勤める全員に聞いたわけではないが、マデリーンは何だか気味悪く感じてしまった。



「あの花瓶……処分しておいてもらえるかしら?」

「処分……でございますか?王妃陛下がお気に召さないのであれば……すぐにでもそういたします」



マデリーンの命により、花瓶はすぐに処分された。



***



その後、部屋に戻ったマデリーンをある人物が待ち構えていた。



「――王妃陛下、こんな時間までどちらへ行っていたのですか?」

「………ゲッ、あなた」



彼女の姿を見たマデリーンは、こみ上げる嫌悪感を隠しきれなかった。

マデリーンにとっては因縁の相手とも言えるのだから、そのような反応になって当然だろう。



「…………ケイト侍女長」

「王妃としてあるまじき行為なのではありませんか?」



――王妃宮の侍女長ケイト・ロビンソン。

王宮に仕えて三十年を超えるベテラン侍女であり、前世ではマデリーンを貶めた張本人だった。



彼女を見ると、前世の記憶が自然と蘇ってくる。



『陛下、ヴィルヘルム陛下がアスティ令嬢と一夜を共にしたそうです。アスティ嬢は王妃より愛されていると自慢げに周囲に話していたとか』

『な、何ですって……!?あの女、よくも!』



ケイトはマデリーンが気に入らないのか、彼女に告げ口をしては悪事を唆していた。

ヴィルヘルムが他の令嬢といたとか、誰かが彼女をお飾りの王妃だと言っていたとか。



―――それが全て嘘だと気付いたのは、彼女の周囲に誰もいなくなってからだった。



『はて?私、そのようなことを言ったでしょうか?』



問い詰めたマデリーンに、ケイトは知らないフリをした。

何とも高い演技力で、周囲は見事なまでに彼女の言葉を信じた。元よりマデリーンの評判が最悪だったことに加え、既に悪に手を染めすぎた後だったため、誰も彼女のことなど信じなかった。



「……ケイト侍女長」



彼女を前に、マデリーンは背中に隠した拳をギュッと握りしめた。

前世からの因縁の相手と、彼女は今二人きりで向き合っていた――




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