29 贖罪
それから数日後、マデリーンは再びウィリーとボランティア活動に励んでいた。
今日は教会の清掃ではなく、外の草むしりだ。炎天下での野外活動は正直言ってかなりキツい。
しかし、マデリーンもウィリーも文句一つ言わずにこなしている。
農作業をする用の服に、帽子をかぶったマデリーンは、少し遠くにいるウィリーに声をかけた。
「てっきりもう来ないかと思いました」
彼女のその一言に、ウィリーは手を止めて振り返った。
気のせいか、不機嫌そうだ。
「……そのほうがよかったですか?」
「いえ、そういうわけではないんですけど、普通は誰しも無給で労働するボランティアなんて嫌がるものでしょう?」
実際、マデリーンが所属するボランティア団体には若者はほとんどいない。
定年退職後のお年寄りが大半を占めており、マデリーンやウィリーのような若い人はかなり珍しかった。
(まぁ、若い子たちはやっぱり遊びたいわよね)
今もちょうど、商店街で遊んでいる同年代の女子たちの姿が離れたところに見える。
彼女たちを見て羨ましいなと思わないわけではなかった。
「そういうおま……いえ、あなたはなぜやってるんですか?」
今お前って言いかけたような気がするが、勘違いだろうか。
言葉遣いが無礼だと、あとでダニエルに言いつけようかな。
「なぜだなんて……決まってるではありませんか」
「……?」
マデリーンはウィリーを見ると、ニッコリと笑った。
「――社会に貢献したいんですよ、私」
「………貢献?」
理由を聞いたウィリーは呆気に取られていた。
別のきっかけを想像していたのだろうか。彼はマデリーンの正体を知らないから、説明がしやすかった。
「私、詳しくは言えないんですけど……過去にとっても大きな罪を犯してしまったんです」
「……罪?」
マデリーンは自身の暗い過去――前世のことを思い浮かべた。
嫉妬に狂い、無関係な人間を傷付けた日々。
自身の歪んだ感情と、愚かな行動で、最愛の人までも辛い目に遭わせてしまった。
あのときのことは後悔してもしきれない。
誰も幸せになることができなかった、マデリーン自身を含めて。
罪を犯した彼女は一人虚しく最期を迎えるかと思ったが、マデリーンは運よく回帰することができた。
彼女は死後、ようやく自身の犯した罪に気付いた。
過去を回想したマデリーンは悲しそうな顔で語った。
「大切な人たちを傷付けてしまって……そのことに気が付いたのはつい最近なんですけど」
「……」
ウィリーは何も言うことなく、ただ黙って彼女を見つめていた。
かつては、この世にいる全員から軽蔑の目を向けられていたマデリーンだった。
「今さら、遅すぎるのはわかっています。でも、せめて何かできないかなって……贖罪がしたいんです」
「……そのために、ここにいるのか?」
マデリーンはウィリーのほうを振り向くことなく、コクリと頷いた。
彼の顔を見る勇気がなかった。もしかすると、愚かな女だと思われているかもしれない。
あながち間違いではない。今はともかく、前世のマデリーンはたしかに愚かだったから。
「……こんなことしたところで、罪が消えることはないんですけど。私がやっていることは馬鹿馬鹿しいでしょうか?」
自身を嘲笑うように言ったマデリーンに、ウィリーは間をおいてから返事をした。
「――別に。そうすることが被害者に対する贖罪になるって思ってるんなら、それでいいんじゃないのか」
「…………え」
驚いて彼を見ると、特徴的な緑色の瞳と目が合った。
離れたところから、彼が柔らかく微笑んでいるような気がした。
(……誰かに似ている?)
――その顔が、マデリーンのよく知るある人物と重なった。
しかし、そんなはずはないと彼女は何だか照れくさくてぷいっと顔を背けた。
「ウィリー卿に慰められるとは、思ってもいませんでした」
「慰めたつもりはない。ただ……俺が思っていることを言っただけだ。いや……言っただけで、す」
無意識に敬語が外れていたことに気付いたのか、ウィリーは慌てて言い直した。
不自然だし、なぜか妙な違和感を感じる。
「敬語慣れてないなら、別に使わなくてもいいですよ」
「……そうか」
その一言で、ウィリーは敬語を使うのをきっぱりとやめた。
敬語を使い慣れていないということは、きっとどこかの高位貴族なのだろう。
そう考えれば、不思議には思わなかった。
(姓を名乗らなかったということは……彼もきっと本当の身分を隠したいってことよね)
素性を知られたくないのはマデリーンも同じなので、余計な詮索はしない。
彼女は遠くで草むしりを続けるウィリーの横顔を、バレないように見つめた。
敬語を外したからだろう。
ウィリーとの壁がほんの少しだけ取り除かれたような気がする。
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