28 側妃の秘密
人々が寝静まった頃、ルバーニ王国の後宮では――
ソフィアが国王ヴィルヘルムの側妃となって半年が過ぎた。彼女は部屋のベッドで座っていた。ちょうど室内に侍女はいなかった。
彼女はベッドサイドに座ったまま、膨らんだお腹をそっと手で撫でた。
側妃の妊娠が国民たちに発表されてから、三ヵ月となる。後宮に上がってから異例のスピードでの妊娠に、貴族たちは以前から関係があったのではないかと噂した。
真相は本人たちのみが知るところである。
ソフィアはベッドから立ち上がると、そのまま部屋に設置された窓の前に立った。
ちょうど、マデリーンの暮らす王妃宮が見えた。
マデリーンとソフィアは犬猿の仲だった。
ヴィルヘルムのストーカーとして有名だったマデリーンは、前から何かとソフィアに突っかかっていた。
彼女の被害者はソフィアだけではない。
(ここに来るとき、マデリーンのことだけが心配だったけど……)
ソフィアは少し前に見た彼女の姿を思い浮かべた。
先日会ったマデリーンは、まるで以前とは別人のようだった。
いつものように嫉妬と憎悪にまみれた瞳をソフィアに向けることもなく、優雅に彼女の前に佇んでいた。
それだけでなく、ソフィアとヴィルヘルムの仲を応援するとまで言い出した。
マデリーンの彼への愛の深さを、ソフィアはよく知っていた。彼女とはヴィルヘルムを巡って何かと争っていたから。
そんなマデリーンが突然身を引くと言い出したのだから、信じられないのも当然だ。
最後に見た彼女の表情が、何とも気にかかる。
相手にする価値もないと思っていたマデリーンだが、こんな形で彼女のことが気になってたまらないなんて。
(平気よ……あの女がどう努力しようが、ヴィルヘルムは私のものなんだから……)
ソフィアは自分に言い聞かせながら、再びお腹に手を触れた。
この子は紛れもなくヴィルヘルムの子で、私は彼の最愛の側妃。私たちは相思相愛で、他人の入る隙なんてない。
しばらく窓から見える王妃宮を眺めていたソフィアは、ふいに空に視線を移した。
真っ黒な夜の空に、無数の星が輝いている。これほどハッキリと星が出ているのは久しぶりだった。
ソフィアは目が離せなくなったように、部屋から空を見上げていた。
「綺麗ね……」
彼女はポツリと呟いた。
こんなにも美しい夜空を見ていると、無意識に彼のことを思い出す。
ちょうど今の夜空とそっくりな黒い髪の毛だった。
『君を愛している――たとえ身分の差が俺たちの前に立ちはだかろうとも、俺は全てを捨ててでも……君だけを生涯愛し続ける』
かつて、彼に言われた言葉だった。
ソフィアは急に暗い表情になり、ぷいっと夜の空から顔を背けた。
かと思いきや、部屋の中央に立つと、膨らんだお腹をぎゅっと両手で抱きしめた。
「――あぁ、愛おしい私とヴィルヘルムの子。どうかすくすく元気に育ってね。お父さんとお母さんが待っているわ」
その顔は、母性に満ちていた。
出産はまだまだ先ではあるものの、彼女は溢れ出る母の愛を抑えきることができずにいた。ソフィアはそのまま言葉を続けた。
「あなたはこの国の王になるのよ。ヴィルヘルムの子供なんだから、当然よね」
まるで自分とお腹の子に言い聞かせているかのような口ぶりだった。
傍から見たら異様な光景だろう。
その瞬間、ソフィアの顔から表情が消えた。
先ほどとは打って変わって冷たい目で腹にいる子を見下ろした。いつも穏やかな彼女からは想像もつかない目つきだった。
ソフィアは小声で囁いた。
「………は、もうこの世にはいないんだから」
読んでくださってありがとうございます!
ブクマ、いいね、評価などしていただけたら励みになります!




