25 新しい出会い
ヴィルヘルムとの朝食を無事に終えた翌日の朝、マデリーンは早朝から早速ボランティアに参加していた。
「マリーさん、そんなドブの中によく手を突っ込めますね」
「仕方ないでしょう?ブローチをなくしちゃったっていうんだから」
マデリーンは平民のマリーとして、今日は街の清掃ボランティアに参加していた。
若い子が珍しいのか、マデリーンは参加者たちの中ではちょっとした有名人になっていた。
「あった!ブローチ!泥まみれだけど、見つかってよかったね!」
「わぁ、お姉ちゃんありがとう!ママから貰った大切なものだったの!」
泥の中からブローチを見つけたマデリーンは、近くで見ていた幼い女の子に渡した。
子供にこんな泥仕事をさせるわけにはいかないと、マデリーンは進んで泥に手を突っ込んでいた。
(舐めないでよね!前世では嫌がらせとして侍女たちにドブの中に突き落とされたこともあるんだから!)
全身が汚泥にまみれるあのときの不快感に比べれば、こんなもの大したことはない。
近くにある水で手を洗ったマデリーンは、ホウキを手に清掃活動を再開した。
今は七月の下旬。
朝とはいえ、かなりの猛暑だ。
「これからもっと暑くなるのよね、憂鬱だわ」
「日傘を上から差しましょうか?」
「いやぁ、そんなことしたら逆に目立つし……」
掃除をしながら日傘なんて差したら、どこの貴婦人だよと思われてしまうだろう。
ようやく馴染めたというのに、そう易々と身分をバラすわけにはいかない。
(王妃だってことは疑われてないし、化粧をしていない私は平凡な見た目だもの)
マデリーンは美しい容姿で参加者たちの注目を集めてしまっていることに気が付いていなかった。
何とも、危機感が低い。
そのせいで、彼女は予期せぬ事態に遭ってしまった。
「――あれ?こんなところで何していらっしゃるんですか?」
「……?」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはマデリーンのよく知った人物が立っていた。
「え、ど、どうしてここに……」
決してここで会ってはならない人物との遭遇に、マデリーンは狼狽えた。
「………………オーウェン卿」
マデリーンに声をかけた人物、それはヴィルヘルムの側近のダニエル・オーウェンだった。
いつもヴィルヘルムの傍にいたはずの彼が、なぜこんな市井にいるのか。
「どうしてここにマデリー……」
「――ちょ、ちょっとこっち来て!」
マデリーンは自身の本名を言いかけたダニエルを慌てて引っ張った。
勢いよく引きずったせいか、彼の赤褐色の髪が揺れた。
「どうしたんですか?マデリーン王妃」
「ちょ、ちょっと黙ってなさい、あなた!」
ダニエルはヴィルヘルムの側近としては優秀な男だが、少々空気が読めないところがある。
あのヴィルヘルムにすら無礼な発言ができるのだから、マデリーンなど恐れもしていないだろう。
「じ、実はワケあってここでボランティア活動をしているのよ」
「ボランティア?陛下がですか?」
「ええ、そうよ。それより陛下って言うのやめてくれるかしら?ここではマリーってことになってるんだから」
そこまで説明すると、ようやくダニエルは彼女の事情を察したようだった。
「このことは陛下には黙っておいてほしいの……」
「ええ、もちろんです。特に悪いことをしているわけでもありませんから、陛下には言いませんよ」
その言葉に、マデリーンは安堵の息を吐いた。
「ありがとう、あなたって結構話のわかる人なのね」
「王妃陛下に褒めていただけるとは、嬉しいですね」
ダニエルは笑顔を浮かべてはいるものの、よく見ると目が笑っていない。
戦ってみたらヴィルヘルム以上に手強い相手なのではないかと、マデリーンは彼のことを昔からそう思っていた。
「ところで、オーウェン卿は何をしにここへ?」
「ああ、実は……ここらへんでボランティアをやっている団体があるという話を聞いたんです」
「ええ、それは私たちよ」
そこで、ダニエルは後ろに控えていた一人の青年のほうを振り返った。
ローブのフードを深くかぶり、顔は見えなかった。
(……誰だろう?)
背格好がヴィルヘルムに似ていたためもしや――と思ったが、一国の王がこんなところにいるはずがない。
ダニエルは彼を指差して笑った。
「実は、私の部下なんです」
「ッ……」
舌打ちの音が聞こえたような気がするが、気のせいだろうか。
フードを取ると、綺麗な銀髪が風になびいた。銀色の髪の毛に、緑色の瞳。どこかの王子様のように美しかった。
「初めまして、マリーです」
「初めまして……ウィリーです」
二人は自己紹介をしながら握手を交わした。
「実はコイツ、最近馬鹿やりすぎて私に迷惑ばっかりかけてるんですよ!それでちょっとお灸を据えようと思いまして、罰として社会奉仕活動をさせようかと」
「あぁ……そういうことだったのね」
マデリーンはウィリーと名乗った青年をじっと見つめた。
おそらく年は彼女とほとんど変わらないだろう、とても美しい見た目をした男性だった。
背は高く、スタイルが良い。突然の美青年の登場に、周囲の女性たちが狼狽えている。
(……まぁ、陛下に秘密にしてもらう代わりに受け入れるしかなさそうね)
ダニエルの発言からしてかなりの問題児なのだろうが、仕方がない。
せめて、彼が真面目になれるように私が協力しよう。
マデリーンはウィリーと名乗った青年を、仲間として受け入れた。
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