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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第一章 回帰しました

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24 セヴェランス家からの誘い

「――王妃陛下、ロベルタ伯爵様から例の女性を侍女として雇用したと連絡がありました。今、ちょうど研修中だそうです」

「そう、それはよかった。彼女ならきっと真面目に働いてくれるはずよ」



侍女からの報告に、マデリーンは嬉しそうに笑った。

助けてあげたいと思っていた人が助けられたのだ。彼女は喜びだけではなく、達成感も同時に感じることができた。



(私ったら、王妃の権力の使い方を間違えていたのね)



人助けをすることがこんなにも気持ちがいいとは、知らなかった。



「ロベルタ伯爵とはこれからも関わることになりそうだわ。仲良くしておかないと」

「伯爵は差別をしない、誠実な方で有名ですよ。深く関わって悪いことはないかと」



関わる人間はきちんと選ばなければならない。

マデリーンは前世において、そのことを身をもって知った。ただ自分をおだてて機嫌を良くしてくれる人間だけを傍に置いていればいいわけではないのだ。



そのとき、一人の侍女が部屋に入ってきた。



「王妃陛下……陛下にお手紙が届いております」

「手紙?」



マデリーンは侍女から一通の封筒を手渡された。

真っ白な封筒は、どこか見覚えがあった。



(もしかして……)



封筒をひっくり返し、マデリーンはやっぱりとため息をついた。

手紙の差出人のところには、セヴェランス公爵家の紋章が刻まれている。

つまり、この手紙はマデリーンの実家であるセヴェランス家の人間からという意味だ。



「セヴェランスがどうして……」



マデリーンは手紙に刻まれた紋章に、嫌悪感を隠すことができなかった。



セヴェランス家はルバーニ王国の名門公爵家で、西に広大な領地を所有している。

しかし、マデリーンはセヴェランス家で過ごした日々にいい思い出がない。



「……陛下、大丈夫ですか?」



セヴェランスの名が刻まれていることに気付いたエマが、心配そうにマデリーンに声をかけた。



「ええ、平気よ」



マデリーンは平静を装って答えたが、内心気が気ではなかった。

彼女は震えの止まらない手で封を開けると、中身に入っていた便箋を取り出した。



「差出人は……あら、お義母様……?」



手紙の送り主はなんと父の再婚相手である義母だった。

マデリーンの実父・セヴェランス公爵の現在の妻は彼女の母親ではない。



彼女の実母は幼い頃に亡くなり、父は母の死後一ヵ月で愛人と再婚した。

二人の間には男児が生まれており、現在その子がセヴェランス公爵家を継ぐ準備を進めていると聞いた。



実家のことを考えると、マデリーンはどうしても暗い気持ちになってしまう。



父と母がもう少し自分を見てくれていたとしたら、こんなふうにはならなかったのではないか。

たびたび、そのような疑問を抱くことがあったからだ。



後ろに控えていたエマはマデリーンに尋ねた。



「陛下、公爵夫人からはなんと……?」

「……久々に家族で過ごしたいんだと。近いうちに家に帰ってこないかって私を誘ってるみたい」

「今さら家族だなんてふざけたことを……」



セヴェランス公爵家の抱える事情を知っていたエマは、拳を握りしめた。

彼女は誰よりもマデリーンのことを知っている。彼女があの家でどれだけ辛い目に遭っていたかも。

実の姉のように、すぐ傍で全てを見てきたのだ。



「陛下……誘いは断ったほうがよろしいのでは?」

「……そうねぇ、どうしようかしら」



マデリーンは義母からの誘いを受けるかどうか、真剣に悩んでいた。

本音を言えば、もちろん行きたくはない。



「とりあえず、返事を書かないと……便箋を用意してくれる?」

「はい、陛下」



侍女に便箋を持ってこさせたマデリーンは、羽根ペンを手に手紙を書き始めた。



(そうだ、手紙といえば……)



とあることを思い出したマデリーンは、思わず書く手を止めた。

彼女は結婚前のヴィルヘルムに片思いしていた時代、毎日のように大量の手紙を書き続けていた。



『私の最愛のヴィルヘルム王太子殿下へ

殿下のことを考えない日は一日たりともありません。

毎日のようにあなたのことだけを思い続けています。

私にとって殿下は希望の光であり、太陽であり、この世で唯一愛した男性……』



思い出すだけでギャーと叫び声を上げてしまいそうなレベルの恋文である。

しかもその数――何と、二年で千通。あの頃のマデリーンは、一日に一通以上は必ず手紙を書いて送っていた。



(なんて迷惑なのかしら……二年で千通とか正気の沙汰じゃないわ……)



当然、そんなにも大量の手紙を忙しいヴィルヘルムがわざわざ読むはずがない。しかも送り主は最恐ストーカーとして有名なマデリーン・セヴェランス。

愛を込めて綴ったラブレターは、全て本人の元に届くことすらなく、焼却処分されていたそうだ。

何でもヴィルヘルム本人がマデリーンからの手紙を燃やすよう命じたのだという。



この件に関しては彼を責めることはできない。

二年で千通手紙が来るとか、恐怖でしかないから。



「陛下?どうかなさったのですか?」

「い、いえ……何でもないわ……」



マデリーンは気を取り直して、義母への手紙の返事を書き続けた。




読んでくださってありがとうございます!


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