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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第一章 回帰しました

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22 騎士団

ヴィルヘルムとの朝食を終えたマデリーンは、その後の執務作業を早めに切り上げた。



「大体は終わったし……この辺で休憩にしよう」



一度執務の手を止め、椅子に座ったまま伸びをした。

マデリーンは性格はともかく、王妃としてはかなり優秀だ。

大量の仕事も、彼女に手にかかればあっという間に片付いてしまう。



そのせいで前世では暇を持て余していたが、今世では正しい時間の使い方というものを彼女は学んだ。



「陛下、今日はあそこへ行かれるのですか?」

「ええ、最近は別のことで手一杯で、あまり行けてなかったし……久々に彼らのところへ行こうかな」



マデリーンは書斎の椅子から立ち上がると、そのまま部屋を出た。

書斎を出た彼女は、一直線に王妃宮の厨房まで向かった。



そこで軽く作業をしたあと、マデリーンはピクニックのバスケットを持ってある場所へ向かった。

近づくにつれて、野太い男たちの声がはっきりと耳に入った。



「――騎士団長!お久しぶりです!」

「……王妃陛下?」



呼ばれた男性が、マデリーンのほうを振り返った。

四十代後半と思しき彼は、若い頃戦闘狂の異名で恐れられていたナイジェル侯爵だった。



しかし、それもマデリーンが生まれる前の話。

年を取った今はすっかり落ち着き、ダークグレーの髭を伸ばした老紳士へと変わっている。



「今日は差し入れを持ってきたんです!」

「いつもありがとうございます、陛下」



彼女が訪れたのは、王家に仕える近衛騎士団の訓練場だった。

マデリーンは回帰してからというもの、たびたび騎士団の訓練を見学しに来ていた。



ナイジェル侯爵はニコニコしながら、マデリーンに声をかけた。



「王妃陛下がいらっしゃると、全員の士気が上がるんです」

「あら、そうだったんですか?嬉しいですね」



最初は怖がられていたマデリーンだったが、偉そうな態度を改めると、騎士たちも徐々に彼女に心を開くようになった。



「王妃陛下ではありませんか!」

「今日も差し入れをくださったのですね!」



ピクニックのバスケットの中には、マデリーン手作りのサンドイッチが入っている。

料理長から直々に教わって作った、彼女お手製のサンドだ。ハムや卵、フルーツなど、様々な具材が柔らかいパンに挟まれている。

彼女のサンドイッチは人気で、団員たちはすぐに群がった。



ヴィルヘルムが決して受け取らなかった差し入れを、騎士たちは喜んで食べてくれる。

マデリーンにとっては何よりも嬉しいことだった。



一切れのサンドイッチは、体力を使う仕事の騎士には到底足りないが、訓練中の補食としてなら十分だろう。

団員全員分のサンドイッチをきちんと作ったはずのマデリーンだったが、いつも決まってトラブルは起きる。



「ちょっと!俺の分ないんですけど!」

「あら」



全員分あることを確認してからバスケットに入れた彼女だが、毎回なぜか足りなくなる。

その理由を、この場にいる全員がわかっていた。



「誰か二個以上食っただろ」

「俺じゃねえよ、お前か?お前だろどうせ」

「ち、違いますって!」



騎士団は上下関係が厳しく、入って数年の騎士の立場は弱い。

そのため、このような理不尽な目に遭っても下の者は泣き寝入りするしかなかった。



「お前、運が悪かったな」

「そ、そんな……」



少し可哀相な気もするが、それが何百年も続く近衛騎士団の掟である以上、仕方がない。



(私が口出しするようなことではないのでしょうね……)



騎士は文官や使用人と違い、命に係わる職務を担う。

そのため、甘い世界であってはならないのだ。貴族令嬢として生まれ、王妃として暮らすマデリーンには想像もつかない世界だった。



(……だけど、私にも何かできたらいいな)



そう思ったマデリーンは、騎士団の訓練が終わったあと、再び彼の元を訪れた。

ほとんどの騎士たちが宿舎に戻った頃、一人だけ木刀を振るい続ける一人の青年の姿があった。



つい先ほど、先輩にサンドイッチを食べられた騎士だった。

流石は騎士というべきか、人の気配に敏感な彼は背後から近づくマデリーンに気が付いた。



「…………王妃陛下?」

「こっちこっち!」



目を見張る彼を、マデリーンは腕を引いて物陰へ連れて行った。

美人な女性と、人気のない場所に二人きり。男なら誰もが期待せずにはいられないシチュエーションである。



「これ、あなたにプレゼント」

「………これは、クッキー?」



マデリーンは懐からクッキーが入った包み紙を取り出し、彼に手渡した。



「昼のサンドイッチ食べられなかったから、代わりに何かあげたいと思って」

「王妃陛下……俺のためだけに、そんな……」



厳しい騎士団の環境の中にいた彼は、久々に感じる他人の優しさに、目に涙を滲ませた。

手に握られたクッキーから、温かみを感じる。



「王妃陛下……私は王妃陛下に忠誠を誓います……」

「あらあら、国王にもちゃんと誓ってよね」



泣いてしまう彼が何だか可愛らしくて、マデリーンは笑みを溢した。




読んでくださってありがとうございます!


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