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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第一章 回帰しました

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17 邪魔はしない

予想とはかけ離れたマデリーンの発言に、ソフィアはすぐに返事をすることができなかった。

マデリーンのヴィルヘルムへの執着は有名で、特にソフィアは間近で彼女の暴挙を何度も見ている。マデリーンの狂った愛の最大の犠牲者となったのが、まさに側妃ソフィアだった。



ヴィルヘルムがソフィアを愛していたこともまた、社交界ではかなり有名な話である。



先代の国王――ヴィルヘルムの父親は生涯で何人もの妃を娶ったが、なかなか子宝には恵まれなかった。

そんな彼が遅くに授かった子がまさにヴィルヘルムだった。

早くに側妃である母を亡くした彼は、先代の王妃によって育てられた。後継者問題で悩んでいた王妃は、婚外子である彼の誕生を喜び、快く息子として受け入れた。



唯一の後継者として父親と義理の母親から大切にされていた彼だったが、成人するまでなぜか婚約者を作らなかった。

あの頃はどうして王太子ともあろう人が婚約者を作らないのかと不思議に思っていたが、今なら理由がわかる。



彼は身分の低い男爵令嬢ソフィアに恋をしていたのだ。

当時、社交界にいた全員がそのことに薄々気が付いていた。もちろん、マデリーンも同じだった。



ヴィルヘルムが直接公言したわけではない。しかし、ソフィアを見る彼の目が、彼女への愛を物語っていた。

そして彼女もまた、彼を心から愛していた。



相思相愛の二人は、マデリーンの介入により一時的にだが離れ離れになってしまった。

なんて、なんて、最悪なことをしたのだろう。



マデリーンはソフィアの手を握ったまま、上下にブンブンと振った。



「言葉通りの意味ですよ、側妃様。私、考えを改めまして……側妃様と国王陛下の仲を応援することにしたんです」

「ど、どうして急に……」



信じられないのはともかく、ヴィルヘルムを愛するソフィアからしたら喜ばしいことに違いはない。邪魔をしてきた女が自ら身を引くというのだから、悪い気はしないだろう。

しかし、それでも表情が強張っているのは発言の真偽を疑っているからかもしれない。



(ここで疑いをかけられちゃあ困るのよね。信じてもらえないのも全て私のせいなんだけど)



マデリーンは今世、前世で何かと争ったソフィアと関わるつもりはない。



「側妃様はヴィルヘルム陛下を愛していらっしゃるのでしょう?」

「ええ、もちろん陛下のことは愛しています……」



ソフィアは顔を赤らめ、照れた様子で答えた。

ただ形が違っただけで、ソフィアはヴィルヘルムへの愛の深さならマデリーンにも負けていない。



「なら、私は身を引くことにしますね。そのほうが陛下にとってもいいでしょう?陛下は私のことを嫌っていますから」

「……まぁ、それはそうですね」



あっさりと肯定されたことに軽くショックを受けながらも、マデリーンは言葉を続けた。



「もう陛下にみっともなく会いに行ったりなんてしませんから、ご安心ください」

「……ですから、一体どうしてですか?」



ソフィアはまだ疑念を抱いているのか、神妙な面持ちでマデリーンに尋ねた。

理由を何て説明するべきか、マデリーンは悩み、言葉を詰まらせた。回帰したことを素直に言うわけにもいかないし、こういうときに限って何も思いつかない。



しばらく悩んだ挙句、マデリーンは自身の今の心境を率直にソフィアに伝えた。



「……私も大人になったんですよ、側妃様。どれだけ頑張っても手に入らないものがあるということ。そのために時間を使うのが勿体ないということを学んだんです」

「……そうだったんですね」



切なげに伏せられた彼女の目を見て、ソフィアは何かを感じ取ったようだった。

ようやく本当の気持ちが彼女に届いたのだろうか。



「そのほうが良いと思います。王妃陛下があのままでは、ヴィルヘルム様のためにもなりませんから――誰も幸せにならない恋は、終わらせるべきです」

「ッ……」



誰も幸せにならない恋――マデリーンの胸がチクッと痛んだ。

自分でちゃんと理解はしていたが、赤の他人に言われるとなぜか胸が締め付けられた。



(……彼女、こんな失礼なことをハッキリと言う人だったかしら?)



二人の立場を考えると無礼な発言ではあるが、間違ったことは言っていない。

ソフィアはただ、ヴィルヘルムを思ってそう言っているだけで自分を傷付けようとしているわけではない。むしろ傷付けたのは自分のほうなのだから、少しくらいは耐えなければ。



マデリーンは自分にそう言い聞かせることで、何とか心を保った。



ヴィルヘルム様と名前で呼ばれていることを許可されているのは、この国ではソフィアくらいだろう。

日常会話に現れる何気ない一言が、ヴィルヘルムの二人の扱いの差を如実に表していた。



「ええ、その通りですね。私もやっとそのことに気が付いたんです」



それでは失礼しますと挨拶をしたあと、マデリーンはソフィアから背を向けた。




読んでくださってありがとうございます!


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