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夫から三十年も放置されましたので、お飾りの妻は平気です~今さら愛されても困ります~  作者: 春乃りぜ
第一章 回帰しました

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16 側妃ソフィア

マデリーンが立ち止まると、側妃も彼女に気付いたようだった。

後ろにいた侍女たちを手で制し、彼女自身もまた、マデリーンの前で歩みを止めた。



――ソフィア・ルバーニ側妃。

マデリーンが王妃になる前、ヴィルヘルムを巡って戦った相手であり、彼が唯一心を許した女性でもあった。



真っ直ぐに下りた桃色の髪に、大きな空色の瞳。華奢で庇護欲をそそる見た目は、当時ヴィルヘルムを始めとした多くの男性を夢中にさせた。

元々男爵令嬢だったソフィアだが、ヴィルヘルムの寵愛を得て、彼の側妃にまでのし上がった。



美人系のマデリーンに対し、ソフィアは可愛い系だ。

おそらくヴィルヘルムの好みは彼女のような愛らしい見た目をした女性なのだろう。



ソフィアは同じ女であるマデリーンから見ても美しい人だった。



(こうして向かい合うのは久しぶりね……それも若い頃の彼女と)



ソフィアはマデリーンやヴィルヘルムと同い年だ。

そのため、前世で最後に彼女を見たときは、既に五十近かった。

それでも愛されている者が持つ心の余裕からか、マデリーンのように老け込むことはなく、年を取っても美しいままだった。



チラリ、と気付かれないように彼女のお腹を見た。

彼女が妊娠してから既に三ヵ月以上が経過しており、既にお腹は膨らみ始めている。



(あと半年後には彼女は元気な男児を産むのよね。その子がヴィルヘルムの次の国王となる)



ヴィルヘルムとの愛の結晶が宿ったお腹。

昔は苦しくてたまらなかったのに、今は不思議と何とも思わない。



王妃宮の庭で側妃と向かい合うという、前代未聞の展開。

お互いに衝撃を受けているせいか、どちらも一言も喋らない。



「……」

「……」



この場合、身分の低い側妃から挨拶をするのが正しい。

しかし、ソフィアは男爵家の出身のせいか、王宮における礼儀をあまり理解していないようだった。



「そ、側妃様……挨拶しませんと」

「あ、ご、ごめんなさい……」



背後に控えていた侍女の声で、ソフィアはハッと我に返った。

彼女は慌てて髪の毛と同じ色のドレスの裾を手で持ち上げ、礼を取った。



「――マデリーン王妃陛下にご挨拶申し上げます。陛下、ご機嫌いかがでしょうか」

「顔を上げてください、側妃様」



幼い頃から王妃教育を受けてきているマデリーンと違い、ソフィアはまだ王宮に上がってから半年しか経っていない。

多少の礼儀のなさは大目に見るべきだろう。



前世では顔を合わせるたびに嫌味ばかり言っていたマデリーンだが、今回は当然そんなことしない。

少し前に罵倒されたことがトラウマになっているのか、ソフィアは不安げにマデリーンを見た。



「あ、あの……王妃様……」

「あ、いいえ……何でもないわ」



彼女の細い肩がビクッと跳ね上がった。

少々大げさな気もするが、以前のマデリーンの行動を思えばそのような反応になるのも仕方がないかもしれない。



「楽にしてください、側妃様」

「お、王妃様……?」



初めて聞くマデリーンの柔らかい声に、ソフィアは空色の瞳を丸く見開いた。

何を言われるか、気が気ではなかっただろう。彼女をそんなふうに縮こまらせてしまったのは、間違いなくマデリーン自身だった。



「この間は突然部屋に押しかけて怒鳴ったりしてごめんなさい。あのときはどうかしていたわ」

「え、い、いえ……」



突然の彼女の謝罪に、ソフィアは呆気に取られていた。

そのような人々の反応を、マデリーンは回帰してから数十回は見ている。



ソフィアは彼女の言葉に何を感じたのか、お腹にいる子供を守るように腹に両手を置いた。

マデリーンがお腹の子を害するのではないかと、心配しているのだろう。もちろん、前世ではそんな最低な考えが浮かび上がったこともあったが……。



「それに、今までたくさん傷付けてしまってごめんなさい。反省しているわ」

「いえ……私は特に気にしていませんので……」



ソフィアは見た目だけではなく、内面までもが美しい女性だった。

ヴィルヘルムも彼女のそのようなところに惚れたのかもしれない。汚れた独占欲ではなく、聖母のような慈愛に満ちた愛。



マデリーンから逃げた先にいた全てが美しい彼女に、彼は恋に落ちた。

自分がソフィアを追い出しさえしなければ、きっと彼女が王妃となっていたはずだ。



(でも、今さら結婚したことを後悔したところでどうしようもないのよね……)



既に婚姻の儀は済ませてしまったし、彼女が正妻であるという事実は変わらない。離婚ができればまだよかったが、彼女が王妃である以上簡単にはいかない。



なら、今マデリーンがソフィアに言えることはただ一つ。

彼女はソフィアの手を突然ギュッと握った。一体何をされるのかと、ソフィアは思わず身構えた。



「側妃様、私――あなたと陛下の恋を応援いたしますわ!」

「…………………はい?」



衝撃の一言に、ソフィアだけではなく、侍女たちまで全員がポカーンと口を開けたまま固まった。




読んでくださってありがとうございます!


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