15 プレゼント
少しすると、マデリーンの前に小さなプレゼントの箱が用意された。
ピンク色の可愛らしい箱には、丁寧に赤色のリボンがかけられている。
「プレゼント……私に……?」
「ええ、王妃陛下と親しくなりたいと思って、全員で選んで用意したんです」
開けてみてください――と言われ、マデリーンは震える手でリボンを解いた。
蓋を開けると、中から出てきたのは、茶色いオルゴールだった。
「疲れたときには、音楽を聴くと癒されるんです。綺麗な音色の音楽は、心を落ち着かせる効果がありますから」
「嬉しいわ……ありがとう」
彼女たちは理不尽に怒りをぶつけたマデリーンに恨みを抱くのではなく、むしろマデリーンの荒れ果てた心を気遣っていた。
八つ当たりされたというのに、なんて優しい人たちなのだろうか。
『アンタ、ヴィルヘルム陛下に手出したでしょう!』
『な、何をおっしゃっているのですか……!?私は陛下と話したことすらほとんどありません!』
『そんなはずはないわ!彼女が言ってたもの!』
思い出される過去の記憶。
あらぬ罪を擦り付け、中には泣き出してしまった令嬢までいた。
前世で彼女がまともな判断ができなくなったのは実はとある理由があったのだが、そんなもの言い訳にはならない。
マデリーンはオルゴールを大事そうに箱に閉まい、使用人の一人に預けた。
「一生大切にするわ」
「喜んでいただけてよかったです、陛下」
感極まった様子のマデリーンに、夫人たちは笑みを溢した。
同じ既婚者であるからか、彼女たちはマデリーンの置かれた状況の辛さを理解していた。もし自分がマデリーンの立場であれば、同じように正気を失ってしまうかもしれない。
そのせいか、誰もが彼女を責めることができなかった。
お茶会が終わったあと、マデリーンは一人一人と仲直りの握手をした。
「今日はとっても楽しかったです、王妃陛下。王妃宮でこんなにも平和な時間を過ごせるとは思ってもいませんでした」
「それはよかったわ、また来てちょうだいね」
その約束を、全員が悩むことなくすんなりと受け入れた。
マデリーンとそう年齢の変わらない夫人たちは、彼女にとって初めての友人となったのだった。
***
お茶会が終わったあと。
「……王妃陛下、ドレスルームの中がすっからかんになっています」
「ええ、そうね」
王妃マデリーンのドレスルームは、結婚一年でパンパンだった。
ヴィルヘルムのためにドレスを新調し続けた彼女は、かなりの散財をしていた。
そんなマデリーンだが、今の彼女のドレスルームは以前の量の半分以下にまで減っている。
「気に入ったもの以外は売ったわ。あと、侍女のリリーが友達の結婚式で着るドレスがないって言うから、あげちゃった」
「あら、そうだったのですね。それなら、私たちに一言言ってくれればよかったのに」
「そうですよ、陛下。言ってくれたらこんなに驚くことはなかったですから」
以前のマデリーンならばあり得ない行動だが、今では全員が受け入れている。
特に驚くこともなく、そうだったのかで済ませていた。
「多すぎても困ると思わない?どうせほとんど着ないんだから」
「それはその通りですね」
ドレスだけじゃないのよ?――とマデリーンはドレッサーの上に置かれていた箱を開けた。
宝石箱となっているそれは、彼女が今までに購入したアクセサリーが入っている。
「ほら、前よりも少なくなっているでしょう?」
「あら、本当ですね」
装飾品類もドレスと同じように、気に入った数個を残して全て売り払った。
どうせいくら着飾ったところで、夫に見られることはないのだ。
「王妃陛下、何だか好みが変わったようですね」
「そうねぇ、私も年を取ったからかしら」
まだ十九歳のマデリーンのその言葉に、侍女はきょとんと首をかしげた。
前世で過ごした長い時間のことは、もちろん彼女以外には誰も知らない。
マデリーンは濃いメイクをやめただけではなく、身体中に身に着けていた大量の宝石も今は着けていなかった。
今、彼女が着けているアクセサリーはたった一つ。母の形見のブレスレットだけだった。
(前世で五十年という年月を過ごして学んだ……高価なものが必ず自分を幸せにしてくれるわけではないということを)
結局、彼女に最後の最後まで勇気を与えてくれたのは母親のブレスレットだけだった。
彼女はしばらく休憩したあと、ソファから立ち上がった。
「陛下、どちらへ行かれるのですか?」
「ちょっと外を散歩しようと思っているの。今日は天気も良いし……部屋にいても暇なだけだから」
「私もついていきます」
部屋から出たマデリーンのあとを、侍女が慌ててついて行った。
「日傘はよろしいのですか?」
「ええ、平気よ。あなたも手が疲れるでしょう」
日焼けするのを恐れて夏には手放すことができなかった日傘も、今はもう必要ない。日焼け止めを塗ってはいるし、片手が塞がるのは逆にストレスだ。
しばらく王妃宮の庭を歩いていると、マデリーンは正面からやってきたある人物に目を留めた。
「……あれは、もしかして」
数人の侍女たちに囲まれ、歩く小柄な女性。
マデリーンは彼女のことをよく知っていた。忘れられるはずがない。前世でヴィルヘルムを巡って争い、結局は惨敗してしまった因縁の相手。
「…………………側妃様」
――どうして、彼女が王妃宮にいるの?
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