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3話

 酒場に見覚えのある背中を見つけて、私は思わず声をあげた。


「アーク!」


 だいぶ待たせたにも関わらず、私の声に気がついた彼は、嬉しそうに笑って手を振った。自分みたいなのと会うのを、そんなに楽しみにしていてくれたのかと思ったら、なんだかすごく嬉しくて・・胸がきゅっとなった。


「ごめん、だいぶ待たせて」


「いや、エレンがいつも勤務時間関係なく働いてるのは知ってるし、俺が勝手に待ってただけだから。こっちこそ、疲れてるところ、わざわざ来させてごめん。長く付き合わせたりしないからさ。さくっと食事して帰ろう」


「え、別に大丈夫だよ。疲れてなんかないし!」


 私がそう言うと、アークはまた、嬉しそうに笑った。その優しい眼差しに、また胸がきゅっとした。


「そっか。奢るから好きなもの頼んで。付き合わせたお礼」


「あ・・う、うん。ありがとう」


 優しいな、アーク・・


 自分のこと大事にしてくれる人がいるのって、こんなに嬉しい事なんだな・・。


 食事とお酒を頼んで、二人でそれを楽しんだ。アークがその話を切り出したのは、すっかり食べ物が無くなって、酔いも回ってきた頃。


「この間の話、考えてくれた?」

 

 どきっとした。回りかけてた酔いが、どこかへ吹っ飛んでしまうくらいに。


「あ・・うん。一応・・」


 私が気まずそうに下を向くと、アークはこう言った。


「やっぱり、俺じゃダメかな?」


 私は慌てて顔をあげた。


「ち、違うんだよ、そういう事じゃないんだ。実は私、身体に大きな傷があるんだ!」


「え?」


「背中から脇腹にかけて、ズバッと。それにさ、ウチは伯爵位はあるけどそれだけって言うか、昔からすごく貧乏で。私の給金が無いと暮らしていけないんだ。だから結婚は、もともと諦めてたっていうか・・」


 私はまた下を向いた。


 普通の女性みたいに結婚して、子供を育てて・・そういうのに全く憧れがないと言ったら嘘になるけど・・。だけど今、家族を食べさせていけてること自体、幸運なことだから。


「私みたいのと結婚したいなんて言ってくれて、そんなの初めてのことだし、すごく嬉しかったけど・・でもそういう事情があるからやっぱり────」


「それって、俺が稼いでくるので、何か問題あるのかな」


「え?」


 私は驚いて視線をあげた。そこにあったアークの顔は、やっぱり優しい眼差しをしていた。


「・・でも・・私の家族の面倒まで見なきゃならないんだよ? 父と母、それに二人の弟も。すごい負担だよ?」


「賑やかでいいんじゃないか? まあ、俺も実家が金持ちな訳じゃないから、俺の給金だけじゃそんなに贅沢はさせてあげられないとは思うけど。それじゃ不満?」


「そんな事ないよ! ・・だって・・そんなふうに言って貰えると思って無かったから・・」


 目頭が熱くなったのを感じて、私はまた下を向いた。するとアークは、私の手を包み込むように握った。


「お金はあまり無くても、エレンとなら毎日楽しく暮らせそうだ」


「アーク・・」



 温かいな、アークの手・・

 

 この人は私の問題を一緒に背負ってくれるんだって思ったら、心までぽかぽか温められた気がした。

 幸せってこういう事なのかな。



 ずっと自分には縁遠いものだと思ってきたけど・・


 私、普通に子供を産んでお母さんになる夢、今更見てもいいのかな────・・






*****


 家に帰って、私は早速、父と母に相談を持ちかけた。


「────という事なんだ。もちろん家族が増える訳だし、今より生活は厳しくなるかもしれないけど、こんなふうに言ってくれる人はもう現れないかもしれないし、私としては前向きに考えられたらいいなって思ってるんだけど・・どうかな?」


 父と母は揃って目を丸くしたあと、こう言った。


「もちろん、エレンがいいなら賛成よ! ね、お父さん!」


「もちろんだよ。父さんが不甲斐ないばかりに、お前には苦労ばかりかけて、すまないね」


「やだお父さん、泣かないでよ。エレンとアークさんの間に子供が産まれる頃には、弟たちも働ける年になるだろうし、なんとかなるわよ、きっと」


 父と母もそう喜んでくれて、私はほっと胸を撫で下ろした。だけどその後、二人は思い出したかの様に、神妙な顔つきをした。


「だけどエレン・・殿下のお許しは、ちゃんと出てるのか・・?」


 私は笑顔でこう答えた。


「明日早速お話ししてみるつもり。殿下は多分、私の身体の傷のことを気にしてお側に置いて下さっていたのだと思うから、結婚が決まったと報告したら、きっと喜んで下さるはずだよ!」


「・・・・そうか・・そうだな」



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