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2話

 ────アークと「デート」の約束をした。


 と言っても、仕事帰りに街の酒場で一緒にご飯を食べようってだけなんだけど。


(あれ? でも「デート」って、この格好で行っても大丈夫なのか?)


 もっと女の人らしい服装で行かなきゃダメなんじゃ・・まずいぞ、着替えなんか持ってきてないし。でもそもそも家に女性用のお出かけ服なんて、お母さんが20年前に着てたワンピースくらいしか・・。いやいや、普段軍服着てる私が、いきなりそんなに頑張って女装しても、むしろ仕上がりがマイナスだったらどうする? 化粧の仕方も知らないし。そもそも、いつも同僚たちと飲みに行くような酒場だぞ。あの酒場に着飾った女の人なんて居るか?


 どうしよう。まさか自分が「デート」する日が来るなんて思ってもみなかったから、作法やマナーが全然分からない。女性のお友達なんかいないし、男性の同僚に、こういう事って聞いてもいいものなのか? 一体どうしたらいい・・!?


「おい、エレン。聞いてるのか?」


 ハッとして顔を上げると、そこには我が国の王太子で私の主君・ジオラルド殿下と、補佐のマクシム様が揃ってこちらへ怪訝な顔を向けていらっしゃる。

 ジオラルド殿下は三年前、学園を卒業してすぐの16歳の時に「国家警備局局長」として宮廷入りを果たした。補佐のマクシム様は私と殿下の二つ年上、学生時代から何かとお世話になってきた先輩で公爵家御令息、そして現在は近衛隊の総指揮官でもある。お二人とも大変に優秀で、お若くしてその敏腕たるや宮廷の重鎮達を唸らせ、信奉者を多く集めている。


 優秀な王太子を得て国の未来は安泰。そして容姿も大変お美しいジオラルド殿下は、国中から「完璧な王子」と讃えられる存在だ。


 殿下は執務用の大きな机に頬杖をつき、その麗しい紺碧の瞳に厳しい色を交えて、私へと向けた。


「エレン。今伝えた今日の予定、復唱してみろ」


「えっと・・すいません、一個も覚えてません!」


 マクシム様が無言で白い目を向けた横で、殿下は立ち上がった。そして苛立った表情で、私の顎をガッと鷲掴みにした。


「何ボケっとしてんだ、このバカ女! どうせまた飯の事でも考えてたんだろう。少しは栄養を脳みそにも回せ、この脳筋が!」


 ・・完璧な王子様は意外と短気で口が悪い。もちろんそれは、マクシム様や私、近い人間の前でだけなのだが。ストレス溜まってるんだろうなぁ。


「すみません! 次から気をつけます!」


「・・午前中は王立学園の式典へ出席する。昼は学園長との会食を兼ねて、教育カリキュラムについての意見交換。午後は軍部の最高幹部会だ。辺境を護っている将軍達も集まるので、今のような阿保面を見せる事のないように」


 いつも冷静なマクシム様が淡々と予定を繰り返す。私が「はい」と頷くと、殿下は私の顎から手を離した。


「夜は幹部らを労う宴が催される事になった。お前も同行する様に」


「え」


 思わず、声に出てしまった。ハッとして口をつぐむも遅く、殿下からは再び、厳しい視線が放たれている。


「何か問題でも?」


「いえ。全然、なんの問題もありません!」


「・・・・」


 

 ・・デートだから帰りたいなんて、職務怠慢だもんな。王太子付きの護衛なんて栄誉ある職に引き立てて下さった殿下の顔に、泥を塗るわけにはいかない。


 それに・・デートしたってこのまま、うまく行く訳なんかないんだ・・。



"エレンは可愛いよ"



 そんなこと言って貰ったの初めてだったから・・嬉しかったけど────。

 


「・・・・仕方ないよね」






 午前の式典にはアークも同行していたから、隙を見て断りを入れた。アークは「どうせ夕食を食べに行くつもりだから、期待せずに待っている」と言った。午後の最高幹部会は、護衛など必要ないほどの武人達が集まったけれど、いつ何が起こるかは分からない。私の仕事は、いつ何時でも殿下のお側で、その御身をお護りすることなのだから。

 結局宴が終わったのは、午前番の定時を大幅に過ぎた、すっかり夜も更けた後のこと。



「それでは殿下。私はこれで失礼致します」


 身支度を整え挨拶をした私に、殿下は怪訝な目を向けた。


「家に帰るのか? もう遅いし、いつものように城に泊まればいいだろう」


「あ、いえ・・。ちょっと取りに戻りたいものが、ありまして・・」


「・・・・そうか」



 王宮を出るなり、私は走った。多分もうアークは居ないだろう。居ないに違いないとは思いつつ、足はあの酒場へと向かって進んでいく。


 王宮で殿下がマクシム様に、こんな指示を出しているなんてことは、想像すらせず────。




「マクシム。・・エレンの後をつけろ」




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