1話
「お前は僕の子分にしてやる。ありがたいと思え」
まだ幼い6歳の頃、王子殿下のその一言で、私の人生は殿下の側付きとして進む事に決まった。それからというもの、常に殿下の隣りで学園生活を過ごし、貴族女性なら当たり前に進学する筈の「令嬢コース」ではなく、殿下と共に「騎士コース」へと進んだ私は、大人になった今も、殿下の護衛騎士として働いている。
同僚騎士のアークは聞いた。女だてらに騎士の道を歩んだ事について、後悔は無いのかと。
「でもお陰で、こうして男性と同等のお給金を頂いているんだから、ありがたい事だよね」
私の家は伯爵位を有してはいるものの、人の良い父はどうも事業が苦手で、私が幼い頃には借金を背負う苦しい生活だった。私の所属する近衛隊は、王宮での要人警護という仕事柄、騎士団の中でも家柄と実力を兼ね揃えた精鋭揃いの部隊で、もちろんだけど給料も最高クラス。家計を支えなければならない私にとって、それは大変な幸運である。
「騎士になってなかったら、どこかのご令息との縁談を纏めなきゃいけないってことでしょう。私みたいなバカのブスには、ちょっと難しそうだもんな。狩りは得意だけど家事は苦手だし。殿下は『お前みたいな奴には、どうせ結婚なんか出来ないだろうから』って騎士コースに進む手配をして下さったんだけど、きっと殿下には分かってたんだろうな、私には剣の腕しかないんだって。あの方は昔から、賢い方だから・・」
令嬢コースに進んでいたら、自ら働くなんて無理だろうし。結婚相手が見つからず、一家郎党飢えに苦しんでいたかもしれないと思うと、ちょっとゾッとする。当時は騎士の道を行くことについて、多少の複雑な想いもあったけれど・・今となっては良かったと思っている。
「・・エレンはバカでブスなんかじゃないよ」
「え?」
「むしろ可愛いよ。相手が見つからないなんて、そんな事はないと思うな」
「え・・か、かわいいって・・私が? あはは。そんなお世辞、言わなくてもいいってアーク! さっき言った通り、私は騎士になった事、後悔なんか全然────」
「お世辞じゃないよ。俺は本当に可愛いと思ってるし。なんならその・・俺のお嫁さんになってくれたらいいなって思ってる!」
「・・・・へ・・・・」
驚いてアークの顔を見た。すると彼はみるみる顔を赤くして、私から目を逸らしてこう言った。
「・・・・もし良かったら考えてくれないかな」
・・人生の、転機だ────。




