17話
今日の茶会は、庭に並べたテーブルで薔薇を鑑賞しながら、好きな茶菓子を選んでお茶と一緒に頂く、ガーデンティースタイル。
侍女がエレンを下座の席へと案内する。あの女が抗議したら、「侍女の落ち度で昔のままの家柄で席決めをしてしまった」と謝り、周囲からは冷笑が溢れる。ふふ、あの女、一体どんな顔をするかしら。
「お席はこちらです」
侍女が椅子を引くと、エレンは立ち止まり────普通にその席に座った。
「こんにちは。良いお天気ですね」
あの女は満面の笑顔で周囲の令嬢たちへ挨拶をした。な・・周りは男爵家とか子爵家の者ばかりなのよ? バカだから下座とか上座とか理解してないのかしら、あのゴリラ。周りの方が引いてるじゃないの。
「ハワード公爵家、セレーネ様のお越しでございます」
侍女の知らせを受けて、私はほくそ笑んだ。セレーネ様はジオラルド殿下の婚約者候補筆頭と言われていた、家柄も美しさも随一のお方。セレーネ様が選ばれていたら、みんな納得できていたはずなのに。それにセレーネ様も、殿下の婚約者が決まるまで他の縁談は蹴り続けていたから、今も寂しい独り身のはず。エレンに対して良い感情があろうはずがない。
「ごきげんよう、セレーネ様! ようこそお越しくださいました。本日はどうぞ、楽しんで行って下さいませ」
私が挨拶をすると、他の令嬢たちも席を立ち、挨拶をするため集まってきた。見なさいエレン。貴方との人望の差を。
「ごきげんようセレーネ様。今日の装いも素敵でございますね」
「いつもお綺麗ですものね。このお庭の薔薇の花も素晴らしいですけれど、セレーネ様の前では霞んでしまいますわね」
「わたくしセレーネ様にお会いできるのを、とても楽しみにしておりましたの。今日もためになるお話をたくさん聞かせて頂きたいですわ」
「・・ええ。ごきげんよう、皆さん。天気にも恵まれ、最高の茶会日和ですね。マリアンヌさん、お招き感謝致します」
ふふ。そろそろ地雷をぶっこんであげますか。
「こちらこそセレーネ様にお越し頂けて、とても嬉しいですわ! セレーネ様は皆の憧れですもの。殿下とお二人で並ばれたら、さぞや絵になるだろうと、皆楽しみにしておりましたのに・・」
「ちょっと、マリアンヌさん」
「やだ、ごめんなさいっ。私ったらつい・・」
うふふふ。さて、あの女どんな顔をしてるかしら? 悔しさで醜く歪めているかしら。それとも羞恥心で下を向いてる?
ニヤニヤを隠しきれず、私はあの女の方を振り向いた。しかし。
「本当ですよね。学生の頃から相変わらず、セレーネ様はお美しいもんなぁ」
ん??
私は我が目を疑った。振り向いてすぐ目の前にはなんと、誰よりも恍惚とした表情でセレーネ様に見惚れる、エレンの姿があったのだ。
な・・
この女・・プライドも無しに、自分から席を立って挨拶しに来たの? 基本的に高位の令嬢は、挨拶を待つ側なのに・・
「お久しぶりですセレーネ様。きちんとお目にかかるのは、学生のとき以来でしょうか。今日はお会いできて、とても光栄です」
あの女はまた満面の笑顔で丁寧に礼をした後、思い出したように勢いよく顔を上げた。
「あ! 私こんな格好をしてますが、エレンです、騎士やってた! 気づいてらっしゃいますか?」
は・・。
あまりのとぼけた一言に、目が点になった。
セレーネ様は口元に手を当て、顔を背けた。そして極々小さく、彼女がふっと息を吐く音が聞こえた。
「・・ええ、もちろんですよ、エレン様。久しいですね」
「良かったぁ。慣れない格好をしてるもので、すみません」
あの女はそう頭を掻き、セレーネ様と並んで歩いて行った。私は呆然としてしまって、その後ろ姿を見送るしか出来なかった。
セレーネ様・・いつもクールなあの方が、めちゃめちゃ笑い堪えてたわ。
何なのよ、あの女。全然堪えた感じもないし、一体どういう神経してるわけ? ゴリラってプライドとか羞恥心とか、元々持ち合わせてない動物なの・・?
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セレーネ様は席に案内されると、そこで立ち止まった。
「・・この席はエレン様に用意すべきでは?」
これはチャンス!
「そうですわね、申し訳ありません・・! 侍女の落ち度で、昔のままの家柄で席決めをしてしまったみたいですわ・・!」
私は口元に手を当て悲壮な表情を浮かべて見せた。周りからは、クスッとした笑いが起こる。今度こそ決まったわ!
「大変な失礼を致しました、エレン様。すぐにお席を改めさせて頂きます!」
「あー、いいですよ。全然ここで」
「え??」
ぽかんとした顔をすると、あの女はまた頭を掻いた。
「一番の上座なんて用意されても、正直慣れてないですし、個人的には家柄とかそういうの関係なく、みんなと仲良くさせて頂きたいなって。それに皆さんご存知のとおり、私は今更ながらお茶会のマナーとか勉強させて頂いてる身でして・・今日は皆さんに、色々教えて頂きたくて参りました。何か失礼がありましたら、是非ご指導頂きたく存じます」
そしてエレンは立ち上がり、一同に向けて頭を下げた。そしてその後、堂々とこう微笑んで見せた・・。
「不甲斐ない妃候補で申し訳ありませんが、皆さんに助けて頂きながら、成長していきたいと思っております。どうぞ皆様、これからよろしくお願い致します」
────な・・。
何ですって? 勉強中の身? 助けてもらいながら成長したい?
これから逐一アラを探して、攻撃してやるつもりだったのに。あの女の至らなさを露呈して、人望のじの字すら無いほど、辱めてやろうと思ってたのに・・。先にそんなこと言われたら、ただ教えてあげてる人になっちゃうじゃないの。
完全に封じられた。しかもなんか、細かいことに拘らない、おおらかで器の広い人間みたいに映ってる? やっぱりこれは全部計算なの? あの腹黒ゴリラ女・・!
「こうなったら最後の手段よ・・」




