13話
俺は手にしたラブレターの山を、ばさばさと机の上にばら撒いた。・・エレンの目の前で。
「あー、今日もこんなに手紙の山が。処理するのも大変だな」
「はぁ・・大変ですね。王宮までお持ちしましょうか?」
「そういえば、もうすぐ周年祭だもんな。みんな一緒に行く相手を探すのに、必死ってことか」
「ああ・・そういえばそうですね。みんな誰と行くって話、いつもしてますね」
「俺はこんなにモテてるけど・・お、お前が一緒に行く相手が居ないって言うなら、一緒に行ってやってもいいぞ。今年はマクシムも卒業して居ないし、二人で────」
「あ。そういえば私、ケインに一緒に行こうって誘われたんでした。今年も護衛って必要ですか?」
な・・
今なんて言った、こいつ。
ケインに・・誘われた・・?
「なぁぁぁにぃぃぃ────!?」
思わず叫び声をあげると、あいつはポカンとした顔で俺を見返した。
「どうしました??」
「どうしたもこうしたもない! 誘われたっていつ!?」
「えっと・・確か一昨日くらいだったかな・・?」
「それでなんて答えた、お前!?」
「ああ・・確か『いいね』って・・」
な────。
俺は蒼白した。
嘘だろケインあのバカ、俺がエレンのこと好きかもって、みんな触れないながらもうすうす感じてるのに、特攻するか普通? てゆうか、こいつもそんな簡単にOKする?
「お、お前・・ちゃんと分かってるのかよ! 後夜祭に一緒に参加するって事は、ケインの恋人になるって意味なんだぞ!?」
だけどエレンは・・
「え?? そうなんですか??」
な・・
なんだよ。知らなかっただけか。
心底ほっとした。これでケインの事が好きだとか言われたら、俺はもうどうしたらいいか・・
「何年ここ通ってるんだよ、このバカ女! 早く断ってこい!」
「そうなのかぁ。だからこんなに皆、誰と行くかって盛り上がってるんですね。あれ? でもいつもは私、殿下と回ってますよね?」
「そ・・それは・・だから、その・・」
「護衛だし誰も気にしてないかぁ。そういえば殿下は今年、どなたか誘われるんですか?」
「・・・・だ、だから俺はっ」
「やっぱり、皆が言うとおりセレーネ様ですか? とってもお似合いだもんなぁ」
────あいつはいつもの通りの満面の笑顔で、俺にそう言ったんだ。
そうだよ。俺がどうして何年もあいつに言い出せなかったのか。俺は誰より知ってるんだ。エレンは俺を好きじゃないってこと。
幼心の天邪鬼が消える頃・・周囲が見え始めたら、今度は怖くなった。
俺がこの気持ちを伝えたら、俺とこいつの関係は終わってしまうかもしれない。
責任なんか取らなくていいって面と向かって拒絶されたら、俺がこいつの側にいる理由は何も無くなってしまう。長い長い俺とエレンのこれまでが・・全部消えてしまう。
「俺は誰も選ばない。そしてお前は今年も、俺の護衛だバカ。ケインと行くのは許さない」
こうやって間違いを重ねながら・・逃げ続けて来たんだ。だいぶ前から分かってる。責任を取るなんて聞こえはいいけど、本当は俺がこいつを縛り付けてるだけなんだって────。
視界を遮る書類の山。だけど手は動かない。
"貴方と居るのが、もう辛いです"
ずっと目を背けてきた事実を、遂に突きつけられてしまった。いつからやり直せばこのラストを回避できたのか、思い返しても分からない。最初から出会わなければ、お互いに人生を曲げることなく、幸せになれたのかもしれない。
「・・あ。そういえばマクシム。アークの経歴について、再調査は済んだか?」
「はい。出身はベイリンガム、この王都ではなく西部の学校へ通っておりました。在籍を調べたところ、確かにアーク・ハスラーの記録は残されており、年齢や卒業の年次も一致しています。騎士団への入隊は三年前、本人は近衛隊への転属希望を出し続けており、入隊から一年後に評価基準を満たしたことから特殊訓練生に推薦されました。その後、昇格試験に合格し近衛隊へ転属。担当した教官らにも話を聞きましたが、揃って『勤務態度・私生活共に問題行動は無く、合格は妥当』と回答しております。書類上の経歴には、今のところ不審な点は見当たりません」
「・・・・」
"彼女と一度、話をさせて下さい"
本当ならばあのとき、どんなにこの手であの男を切り刻んでやりたかったか・・。今思い出しても、あの衝動が再び頭をもたげる。
エレン本人は知らないが、近衛隊の護衛対象にはエレンも含まれている。それだけ俺にとって特別な存在なのだと分かっているにも関わらず、エレンに言い寄るなど、余程の阿保でなければやる筈がない。
それに記録によればアークとエレンが任務で関わったのはまだ数えるほどで、深い仲とはとても言い難い・・何年もかけて厳しい昇格試験にパスしたというのに、こうもあっさりと立場を危うくするような行動を取るものだろうか・・。
(ただの馬鹿・・どう考えてもそうは思えないが。俺のこの危惧は、ただあの男が憎い故か・・?)
何にせよ俺は一国を背負う身、私情のままに奴を切り刻む訳にはいかない。奴を捕え処断するには、その悪意を証明しなければならない。もしもエレンに近づいた目的が俺にあるなら、恐らくはこれで終わらないはず・・。
「本人は何と?」
「もちろん、反逆の意思は否認しています。転属についても素直に受け入れる意思を示していますが・・。懸念と言えば、父親のハスラーへ聴聞の申し込みをしていますが、まだ返事がありません。なんでも現在は無職で不在がちだとか」
「・・ハスラー邸に張り込みを。ハスラーを見つけたら強制召喚する。奴は今日、予定通りギガバルトへ護送されたか?」
「はい。護送後も継続して監視するよう、手配済みです」
俺は頷き、席を立った。そろそろ日暮れを迎える。あいつはちゃんと食事をしただろうか。
「少しエレンの様子を見てくる」
「かしこまりました。ですがすぐにお戻り下さい。まだまだ進めて頂かなくてはならない書類作業が、山ほど残っております」
俺の代わりに書類作業を進めるマクシムの苦言を、無視する訳にはいかず、俺は頷いた。あれから寝室に塞ぎ込んでいるというあいつの様子を確認するだけだ。エレンも俺に会いたくないだろうし・・。
しかし。部屋にはエレンの姿は無かった。
「レイモンド伯爵家の茶会に・・?」
背中に何か寒いものが伝った。
マリアンヌ・レイモンド────学生時代にエレンへ嫌がらせをしていた、あの女か・・?
「どうして俺に何の報告もなく、エレンを行かせたんだ!?」




