↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
12/21

12話

 女の子の制服姿のエレンは確かに可愛いが、俺以外の男共からも注目されるのは嫌だ。あいつが可愛い格好をするのは、俺の前だけにして欲しい。


 多少の分別はついてきたとはいえ、当時の俺はまだ10歳の子供。そんな俺の、独占欲という名の欲望が爆発した。俺はエレンを連れて学園長室を訪れ、こんな無茶を言ったのだ。


「高等部上がって早速の事ではあるが、やはりこいつには令嬢コースではなく、騎士コースで学ばせたい」


 校長はぽかんとした表情をした。


「し、しかし・・エレン君は、女の子ではありませんか?」


「調べたところ、女子が騎士コースへ進んではいけないという決まりは無いようだが」


「それは確かにそうではありますが・・しかし女性に生まれた以上、無理に騎士を目指す必要は・・」


「こいつは普通の女じゃない。学園長も知っているだろう。こいつは6歳の子供の身でうさクマと戦って、勝利するような奴だぞ。俺もよくよく考えたんだが、こいつの類稀な才能を見込んで、こう申し出ているのだ」


「・・・・エレン君。君はどうなんだい?」


 エレンはきょとんとしていたが、学園長のその問いかけを受けて、こう頬を掻いた。


「・・えーと・・あんまり考えてませんで・・どうしよう」


「・・殿下。少し宜しいですか」


 エレンの反応を見て学園長は椅子から立ち上がり、俺の袖を引いた。そして俺に、こう耳打ちしてきた。


「殿下がエレン君を常に側に置きたい気持ちはわかりますが・・しかし本人の意思を無視してはいけません。例えそれが愛情でも、人の気持ちは無理矢理に動かせるものではありませんよ」


 その苦言を聞いたとき、自分の顔が赤くなるのを感じた。単純に間違いを指摘されたプライドもそうだが、エレンを好きな事を見透かされて、恥ずかしかったから。


 そして気づいたときには俺は、こう弁解を捲し立てていた。


「お、俺はこいつの為を思って言っているだけだ! こいつの身体にはうさクマと戦ったときについた、大きな傷があるんだ! それに酷い貧乏で、今までだって平然と男の制服なんか着やがって、こいつを女だって認識してる男なんか一人もいないぞ!? そんな奴が令嬢の嗜みなんか学んだところで、まともな結婚なんか出来る訳ないだろ? でも騎士になれば、俺が護衛として一生雇ってやるんだから、将来安泰じゃないか。これは俺から、命をかけて俺を護ったこいつへの、褒美みたいなもので・・」


 学園長が困ったような顔をしている。その後ろで、一瞬だけエレンが、傷ついたような顔をした気がした。どきりとして俺は、そこで言葉を止めた。


「ですが、これはエレン君の今後の人生に大きく関わる事です。一度エレン君自身に、よく考えて貰ってから・・」


「先生」


 気がつくとエレンは、またいつも通りの笑顔に変わっていた。


「私、騎士コースに行きます」




 ────登園一日目ではあるけれど、あいつは騎士コースに編入するため、その指導に耐えうる基礎的な体力や技能が備わっているかを確認するための、編入試験を受ける事になった。あいつはそれにあっさり合格し、過去前例のない女性騎士の道を歩むことになった。相変わらず山での狩りや農作業で鍬を振るっていたエレンの、副産物として得た戦闘能力は高く、最初は騒ついた学園内も、すぐに「ジオラルド殿下は彼女の才能を見抜いて騎士コースに引き抜いた」という話になんとなく落ち着いたのだった。





****


 15歳────学生生活の終わりも見えてきたこの頃、後の国のトップとしての自覚もかなりついてきていた俺には、「完璧な王子」という称賛が囁かれるようになっていた。

 学生たちは思春期真っ只中。そして多くの貴族はこの頃、婚約者を決める。周囲では親ぐるみでの婚約相手の品定めが激化していた。


 そしてそれは、俺もまた然り。



「そろそろお前も婚約者を決めないとな、ジオラルド」

「ほら、縁談の申し込みがこんなに」


 父母に呼ばれて行くと、目の前には山のような釣書が積み上げられていて、俺はこれみよがしにため息をついてみる。


「何度も申し上げているように、私の心は幼い頃から決まっています。エレン以外の令嬢を娶るつもりはありません」


「でもぉ・・結婚相手は力のある家の方が、何かと良いわよ? 後ろ盾っていうか・・ねぇ、陛下」


「そうだな。いくら王家とはいえ、無条件で皆が認めてくれるって訳じゃないからなぁ」


「しかし過去を鑑みるに、王妃の一族ばかりが優遇される専制的な政治が行われた結果、多大な腐敗を招いた歴史は数多い。我が国の発展の為にも、家族政治ではなく、実力評価の政治を行うという意思をきちんと示せば、それは一定の評価に繋がると思います。エレンも父親のカーチスも、誰よりも無欲で正直な人間です。欲に溺れて私の足を引っ張るような事はあり得ない。私にはそれが、稀有な利点と思えるのですが?」


「まぁ・・そういう考え方もあるか・・ね」


「お二人もご存じのとおり、今の私があるのは彼女のお陰です。しかし彼女は私の命と引き換えに、身体に大きな傷を残しました。その責任を取らずは王として以前に、人間として筋が通りません。そのような人間に、一体誰がついてくると言うのですか」


「うむ・・」


 父母が難しい顔で唸った、そのとき。俺の隣に付き従っていた男の放った一言が、俺の牙城を崩した。


「エレンは了解しているのですか?」


 グレンダーグ公爵家の令息、マクシム────文武共に優秀な二つ上の先輩でもあるこの男は、学生時代から俺のお目付け役として、何かと関わってきた気の置けない相手。


「も・・もちろん・・最終的には」


「今現状ではどうなのです? 少なくとも私の目には、恋人同士には見えていませんが。将来は殿下の護衛ではなく妃になると、本当にエレンは了解していますか?」


 ぐ・・こいつ・・逃げ場のない言い方を・・


「ちょうど今、了解を得ようと思っていたところだ!!」


 マクシムの目が、ものすごく冷たい。父と母も、呆れた様な顔をしている。


「・・早くそうなさって下さい。もしも()()()()ときは、他の令嬢との縁談を検討しなくてはなりません。一国の王子が行き遅れることなどございませんよう」


「お、お前なんかに言われなくても分かってるわバーカ! 今サラッと断られたときの話したか!? この俺が断られるわけないだろ! 謝罪しろ謝罪!」


「・・・・・・はぁ。このこと以外は『完璧』なのに」


「うるさい! その目やめろお前、絶対うまくいかせて、お前に謝らせてやるからな! 覚えてろよ!」



 マクシムの奴・・俺の完璧な答弁を台無しにしやがって。父上と母上にまでため息つかれたぞ。


 俺だって、本当にちゃんと考えてたんだ。


 季節はちょうど周年祭の時期。ここで行われる後夜祭では、異性を同伴する場合、それは恋人であるという意思表示とみなされるのが通例。俺がマクシムと一緒に騎士の制服のままのエレンも連れて行くのが「どっちなんだ」と毎年物議を醸しているのも知ってるし。対外的にもそろそろはっきりさせないといけない年齢なんだし。



(今年こそ・・エレンに告白する!)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。