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11話

 10歳を迎える年、学生たちは高等部へと進学し、選択したコース別に専門教育を受けることになる。男子学生は騎士コースと文官コースに分かれるが、女子学生のほとんどは令嬢コースへと進む。稀に学で身を立てようとする才女が、文官コースに進むこともあるようだが。


 10歳の多少分別のついた少年の俺は、その日エレンの家に来ていた。


「お前、進学の準備は出来てるのか?」


「進学の準備・・ですか?」


「一昨日、先生から説明があっただろう。ちゃんと聞いてたか?」


「あー・・まぁ、ぼちぼちですな。まあ大丈夫でしょう。制服も入手してありますし」


「見せてみろ」


「これです」


 エレンがペロンと広げたのは、近所のお兄ちゃんとやらから貰ったブレザーとズボン・・つまり男子の制服。俺は思いっきりツッコんだ。


「やっぱりじゃねーか! 令嬢コースで男子の制服着る奴があるか、このバカ女!」


「え? ダメですかね?」


「当たり前だ、淑女の嗜みを学ぶんだぞ!? 男の格好してる時点で淑女失格だわ! それにな、令嬢コースは揃える道具が一番多いんだ。裁縫道具に化粧道具、ダンス指導の際に着るドレス、それに選択制だけど楽器も」


「え・・」


 俺が教材のリストを突きつけると、エレンと側にいた両親は揃ってその紙を覗き込み・・こう言った。


「学校辞めます」


「諦めるな!」


 こんなことだろうと思ったわ・・。俺は呆れて、これ見よがしにため息をついてやった。


「今から街へ揃えに行くぞ。支払いは俺がしてやる」


「し、しかし、さすがにそれは・・」


「元々そのつもりで来た。行くぞエレン。暇ならお前も来い、カーチス!」


「は、はいっ」


 俺はエレンと、人が良いだけでうだつの上がらない父親・カーチスを連れて、まずは仕立て屋を訪れた。制服は出来上がるまでに時間がかかる。エレンの試着を待つ間、カーチスはいかにも申し訳ないといった風に、眉を垂れ下げていた。


「いつも本当に申し訳ありません、ジオラルド殿下・・。私が情け無いばっかりに・・」


「礼ならば傷を負っても俺を護った、お前の娘に言え、カーチス。以前から言っているが、俺は一生エレンの面倒を見るつもりだ。むろん、あいつの家族である、お前たちの事もだ」


「殿下・・」


 するとそこへ、試着室のドアが開いた。


「お待たせ致しました! お袖とスカートの丈は、このくらいで宜しいでしょうか?」


 仕立て屋の店員に付き添われ部屋から出てきた、女子の制服を着たあいつ。普通の女の子みたいにスカートを履き、いつもは無造作に後ろで纏められている髪を下ろし、ベレー帽を被ったその姿を一目見た瞬間・・自分の身体を、雷が突き抜けたかの如き衝撃が走った。



(かっっっっっっっっっっわ!!!!)



 一気に顔が熱くなるのを感じた。


 ま、まてまてまてまて。は? なにそれ超かわいくない? 嘘だろコイツ、普通に女の子の格好させたら、こんなにかわいいのか??


 それまでもエレンは一番大事な存在だったけれど・・このとき初めてこいつが『女の子』だってことを、強烈に意識したんだ。


「普通はこれくらいってことですよね?」


「ええ、標準的な長さに合わせさせて頂いてます。成長に合わせて10センチまでなら調整可能ですので、その際にはこちらにお持ち下さい」


「は、はあ・・じゃあこれでお願いします。よろしいですよね、殿下」


「え?」


 ハッとして正気に戻ると、皆が俺の答えを待って、こちらを見ている。


 満面の笑顔の店員の隣の、あいつと目が合った。するとあいつは、ニコッと俺に向けて微笑んだ。いつもと違う雰囲気のあいつに、ドキドキしすぎて上手く言葉がでてこないでいた俺に、店員の女がこんな煽りを入れてきた。


「もしかして見惚れちゃったかしら? ね、お似合いになりますよね?」


 バレてる────────!?


 動揺した俺は、気づくとこんな事を口走っていて。


「ま、まぁ、思ってたよりマシだな! お前みたいな奴でも、ギリギリ女に見えるじゃないか!」


 一瞬、あいつの顔から笑顔が消えた気がした。どきりとしたけど、あいつはすぐにまた、ニコッと笑顔を作った。




****


 高等部入学の日────男子は皆、教室の窓から校門の方を眺めていた。目的は一つ。制服も新たになった、可愛い女子ウォッチングだ。思春期の男たちは、どの子が好みだなんだかんだと、わいわい盛り上がっていた。


「あ、見ろよ。セレーネ様だ!」


「おお・・やっぱりセレーネ様が一番かわいいな」


「文句なし、学園一の美少女! ね、殿下。殿下もやっぱり、お気に入りはセレーネ様ですか?」


「ああ・・まぁ・・」


 俺はそう生返事を返した。俺の視線はハワード公爵家の令嬢セレーネの少し後ろを歩く・・初めて女子の制服で登園した、エレンをとらえるのに必死だったから。


「やっぱりなぁ。いいなぁ殿下は選びたい放題で。俺たちには高嶺の花かぁ」


(エレン来た・・やっぱり可愛いな、あいつ・・。今日から毎日女子の制服来たあいつと一緒に昼食食べるのか。なんかデートみたいじゃん。最高かよ高等部・・)



 しかし。



「あれ? ・・誰だあの子?」


 ん?


「どれ?」

「ほら、あのセレーネ様の後ろ歩いてる、肩くらいまでの赤い髪の子。けっこう良くね?」


 な────。


「え? ほんとだ、あんな子居たか?」

「編入生? どこの令嬢かな?」

「ほんとだ、かわいい!」

「俺さっそく話しかけてみようかなぁ」



 な、なんだと・・? 可愛くなったのはいいけど、俺以外の男まであいつに注目を? エレンがモテるなんて今まではありえなかったから、そんなの全く考えてなかったぞ。


 浮かれてる場合じゃない。これは何か・・マズイ展開なのでは・・。




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