第十九話 Eランクの証
昇格試験を終えた俺とミザリーは、ギルドの一室に案内された。白壁の小部屋、机の上には淡い光を放つ魔石板。これはステータス鑑定用の簡易装置らしい。ギルド職員が笑顔で促す。
「Eランク昇格おめでとうございます。ではまず、ご自身の現在のステータスを確認しましょう」
俺は深呼吸して魔石板に手を置いた。光が脈打ち、視界に半透明の文字が浮かぶ。
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名前:リーン・ボーン
年齢:九歳
属性:無(特殊)
HP:560
MP:200
力:90
耐久:85
速さ:88
賢さ:40
運:38
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思わず息を呑んだ。
(……すげぇ、跳ね上がってる)
一般的な大人男性の平均は「HP100、力15」程度。それが今の俺はHP500越え、力も90。つまり大人五人分以上の力を、もう持っているということだ。
「やっぱりか……」
俺は心の中で整理した。強敵との戦い、特にギータ兄やガルドとの戦闘で鼻を折られたとき、一気に強くなった。つまり――
(レベル差がある相手と戦ったほうが、鼻折れガチャと一緒にステータスの伸びも跳ね上がるんだな)
痛みの中に、確かな法則が見えてきた。
「リーン、すごいじゃない!」
ミザリーが歓声を上げる。
「いや……まあ、鼻折れのおかげだな」
「誇らしげに言うことじゃないでしょ!」
けど、確かにこれは俺の武器だ。鼻折れ王子――いや、鼻折れ王子様だ。
次にミザリーが魔石板へ手を置く。光が優しく瞬き、文字が浮かぶ。
――――
名前:ミザリー
年齢:九歳
属性:水・土(二属性)
HP:270
MP:320
力:18
耐久:27
速さ:35
賢さ:102
運:85
――――
俺は目を丸くした。
「……賢さとMP、もう大人を余裕で超えてるじゃねぇか」
「えへへ、やっぱり二属性だと成長が早いのかな」
ギルド職員もうなずく。
「ええ。二属性持ちは稀少ですし、通常よりもステータスの伸びが加速します。特に水と土の組み合わせは応用力が高い。若いのに、将来が楽しみです」
ミザリーが少し頬を赤らめた。俺は心底うらやましく思った。俺の無属性スキルは鼻を折る前提、彼女は努力すればするほど自然に伸びる。……まあ、それでも一緒に進めば心強い。
「よし、Eランクになったんだ。次は依頼だな!」
俺が拳を握ると、ミザリーも笑顔でうなずいた。
―
冒険者ギルドの掲示板は、依頼書で埋め尽くされていた。羊皮紙に殴り書きされた文字がずらりと並ぶ。Eランク欄には、見慣れない依頼がいくつもあった。
「薬草採取……これはもう経験済みだな」
「害虫駆除……ちょっと地味だね」
「荷馬車の護衛……街道沿いでモンスターに会いそう」
俺が依頼書をめくっていると、一枚の紙が目に留まった。
――Eランク依頼:ホーンディア三体の討伐。
討伐部位(角)持ち込み小金貨九枚。
丸ごと三体持ち込みなら金貨一枚、小金貨五枚。
「……ホーンディアって、前に倒したあの鹿型の魔物か」
「そうだね。Eランク魔物って言ってたよね」
「三体か……まとめて狩れれば、大きいな」
金貨一枚と小金貨五枚――十五万円相当。今の俺たちの財布からすれば夢のような大金だ。宿代に悩まされなくて済む。
「よし、これにしよう!」
「でも危ないよ? 三体もいるんだから」
「だからこそEランクだろ? 俺たちならできるさ」
俺は依頼書を剥がして受付に持っていった。
受付嬢はにっこりと微笑む。
「Eランクになったばかりで挑戦とは、勇気がありますね。くれぐれも気をつけてくださいね。ホーンディアは群れを成すことが多いので、油断すると囲まれますから」
「群れ、か……」
少し背筋が冷えるが、逆に言えば一気に三体狩れるチャンスでもある。
―
ギルドを出ると、ソルトレインの街は夕暮れに包まれていた。石畳の通りが赤く染まり、人々のざわめきと屋台の匂いが漂ってくる。
「なぁミザリー、ホーンディアを三体も倒せたら、しばらくは金に困らないぞ」
「ほんと? じゃあ……美味しいご飯、もっと食べられるね!」
「そうそう! 鼻折れ修行の合間に、飯で栄養補給だ!」
「……修行方法が狂ってる」
笑い合いながら、俺たちは宿へと向かった。
明日から始まる新たな挑戦――Eランクとしての初仕事に胸を高鳴らせながら。




