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第十八話 昇格試験

昇格試験はその日の午後、ギルド併設の訓練場で行われることになった。

石畳の円形闘技場、周囲には木柵があり、観戦席には冒険者やギルド職員がぎっしり。酒を片手に「坊主、鼻は守れよ!」なんてヤジまで飛んでくる。うるせぇ。


審判役のギルド員が声を張った。

「受験者、リーン・ボーン! 対戦者、ガルド・ストレイン!」


現れたのは渋い男だった。

肩幅の広い大柄な体躯、白髪混じりの顎髭。鎧は古びているが傷だらけで、ひとつひとつが歴戦を物語っている。腰には分厚い大剣。

観客がざわめいた。

「あれがガルドか……Eランクの古参だ」

「ずっとEに留まってるけど、実力はDに近いって噂だぜ」


ごくり、と喉を鳴らした。

「……よろしくお願いします!」

「おう、坊主。遠慮はいらん。全力で来い」

ガルドの低い声だけで背筋が伸びた。


審判が旗を振る――試合開始。


次の瞬間、目の前にいた。大剣の一撃が迫る。

「うわっ!?」

短剣で受け止めた腕が痺れる。二撃目は避けきれず肩をかすめた。重い。これが本物の戦士か。


「どうした坊主?」

「まだまだぁ!」


必死に距離を取る。だがガルドの歩幅は大きく、すぐに追い詰められる。剣の腹で殴り飛ばされ、転がった拍子に鼻を床へゴツン。


「ぎゃあああああ!」


《無属性スキル:見切り一瞬》


視界に、ガルドの剣の軌跡が矢印で浮かぶ。

「……これなら!」

初動を先に潰してかわす。三秒加速を重ねて、短剣で反撃。だが――


「まだ甘ぇ!」

大剣が弾き返す。吹っ飛んで再び床に叩きつけられた。


観客は爆笑。

「鼻折れ王子、またやられた!」

うるせぇ、これは進化の証なんだ!


ゴン、と再度鼻に衝撃。激痛に視界が揺れる。


《無属性スキル:踏鳴三拍子》


「な、なんだこれ……」

足裏に力が集まる。三歩限定で踏み込みと踏ん張りが強化されるらしい。


一歩――矢印通りに剣をかわす。

二歩――三秒加速を重ねて横へ回り込む。

三歩目――全力で突き出した短剣がガルドの鎧の隙間を抑える位置に止まった。


「そこまで!」審判の声。

場内がどよめきに変わった。


ガルドは大剣を下ろし、口の端を吊り上げた。

「見事だ、坊主。よくここまでやったな。特に最後の動きは凄かったぞ」

「……ありがとうございます!」

「だが覚えておけ。三歩目が止まったら次は死ぬ。生き残りたきゃ、四歩目を自分で作れ」


渋い言葉に鳥肌が立つ。俺は深く頭を下げた。

観客も「やるじゃねぇか鼻折れ王子!」と口々に叫んでいる。

……いや、やっぱりあだ名は直してほしい。



続いて名前を呼ばれたのはミザリー。

杖を抱きしめながら小さく息を吸う。


対する相手は、細剣を携えた若き冒険者――ライル・フェンサー。

金色の髪を後ろで結び、軽装の鎧。体を揺らしながら軽口を叩いた。

「よろしくな、お嬢ちゃん。俺は速いぜ? 魔法を唱える暇、あるかな」


審判が手を振り下ろす。


ライルの姿が一瞬で消えた。観客からどよめき。

「風みてぇに速ぇ!」

「こりゃ魔法使いにはキツいだろ」


実際、杖を構えた瞬間には、すでに剣先が目の前に迫っていた。

「くっ!」

水の膜を広げて受ける。だが衝撃に腕が震える。


「悪くねぇが、守りじゃ勝てねぇ!」

ライルが剣を振るうたびに光が走る。ミザリーは必死に距離を取った。


「……じゃあ、動きを止める!」

足元に意識を集中。土の魔法で石畳を盛り上げる。段差につまずいたライルの動きがわずかに狂った。


「ちっ……!」

「水、縛って!」


水が縄のように足首に絡む。だがライルは剣で切り払い跳躍。素早い。

その瞬間、杖を床に突き立てた。

「霧よ!」

濃い水蒸気が立ち込め、視界を奪う。


ライルの剣が宙を裂く音。だが足元は――滑った。

水で薄い氷膜を作っていたのだ。

「なっ……!」

バランスを崩した肩口に、杖の先端が軽く触れる。


審判が手を上げた。

「勝者、ミザリー!」


観客から大きな拍手。

「すげぇ……魔法をこんな使い方するとは!」

「二属性ってやっぱ応用が効くな!」


ライルは剣を納め、素直に笑った。

「参ったよ。お嬢ちゃん、立派な冒険者だ」

「……ありがとう。でも怖かった」

「怖くても前へ出た。それが冒険者だ」


ミザリーは肩で息をしながら、微笑んだ。



――結果。

二人揃って勝利。

ギルド員が高らかに告げた。


「結果発表――リーン・ボーン、ミザリー。両名、Eランク昇格を認める!」


歓声と拍手が広がる。

俺は新しい冒険者カードを受け取り、鼻を押さえながらミザリーと顔を見合わせた。


「やったな!」

「うん! これで一歩進めたね!」


鼻は痛いが、心は晴れ渡る。

俺たちの冒険は、ここからさらに広がっていく――。

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