第十七話 ギルドの驚きと昇格試験
「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……」
俺とミザリーは、ソルトレインの冒険者ギルドの扉を押し開けた。両手で縄を掴み、床をずるずると引きずっているのは――さっき仕留めた巨大な鹿型魔物ホーンディア。
全長三メートル近い巨体がギルドの床を鳴らし、館内の視線が一斉にこちらに突き刺さる。
「な、なんだあの化け物……!」
「おいおい、まさかホーンディアじゃねぇか!?」
「しかも引きずってんのガキじゃねぇか!?」
ざわめきが爆発した。酒を飲んでいた冒険者たちが一斉に立ち上がり、受付嬢までもが目を丸くする。
俺は額から汗を垂らしながら叫んだ。
「Fランク、リーン・ボーン! 依頼帰還だぁぁ!!」
ドサァッと床に落とした瞬間、腰が抜けた。
「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」
ミザリーも杖に体重を預けながら苦笑する。
「もう……ほんとに無茶するんだから」
―
受付嬢が慌てて駆け寄ってきた。
「こ、これは……! ホーンディア!? 信じられません! Eランク魔物を……Fランクの方が……!」
背後で冒険者の誰かが叫んだ。
「嘘だろ!? 俺たちでも苦戦する相手だぞ!」
「最近冒険者になったばかりのガキだろ!? やるじゃねぇか!」
「すげぇ!!」
場内は驚きでごった返した。
受付嬢は、俺の汗だくの顔と巨大な死骸を見比べて小さくため息をついた。
「……リーンさん。証拠としては角や牙など一部位で十分なんです」
「な、なんだって……! 三時間もかけて引きずってきたのに!」
「でも、丸ごと持ち込んでくだされば肉や毛皮も買取対象になります。値は張りますが処理が大変ですから……今回のように全部持ってきてくださる方は珍しいですよ」
俺は床にへたり込みながら笑った。
「よ、よかったぁ……苦労が報われた……!」
―
清算が始まった。
「まず薬草ですね。必要数十株、達成。そして追加分が四十株、合計五十株ですので……銀貨五枚となります」
「五千円……よし! 宿代一泊分だ!」
そして――受付嬢は改めてホーンディアを指差した。
「そしてホーンディアの買取ですが……角、毛皮、肉、魔石を合わせて……小金貨五枚です」
「……え?」
俺とミザリーの声が重なった。
「小金貨五枚!? 五万円!?」
場内がざわめく。
「おいおい、ガキ二人で小金貨五枚かよ」
「羨ましすぎる!」
俺は銀貨五枚と小金貨五枚を両手に抱え、震えた。
「こ、これで……しばらくは大丈夫だ……宿代も払える……!」
ミザリーも胸に手を当て、安堵の笑みを浮かべる。
「よかったねリーン……ほんとに頑張ったね」
―
そのとき、俺はふと思った。
「なぁ……俺たち、Eランク魔物を倒したんだよな? だったら……俺、ランクアップできたりしないのか?」
受付嬢は少し驚いた顔をしたが、やがて微笑んだ。
「確かに、討伐の実績は十分です。ただし――ギルドの規則で、ランクアップには昇格試験が必要です」
「試験?」
「はい。所属Eランク冒険者との模擬戦を行い、実力を認められれば昇格できます」
その瞬間、ギルド中の視線が俺に突き刺さった。
「おい、試験だってよ!」
「こりゃー見物だな!」
酒場のような空気が一段と熱を帯びる。
―
俺は短剣を握りしめた。鼻先がずきずき痛む。だが、その痛みこそ俺の強さの証。
「よし……受けてやる! 俺は、痛みによって強くなる男だ!」
ミザリーが横で笑った。
「ほんとに……止まらないね、リーン」
ざわめくギルドの真ん中で、俺は次の戦いへの決意を固めた。
鼻折れ王子の挑戦は、まだ始まったばかりだ。




