第十六話 初依頼は薬草採取
冒険者ギルドの掲示板の前で、俺とミザリーは唸っていた。
「うーん……やっぱりFランクは雑用ばっかりだね」
「犬の散歩、ドブさらい、薪割り……いや、冒険ってなんだよ!?」
貼られた依頼の中で、俺の目に留まったのは――薬草採取だった。
【薬草採取依頼】
必要数:十株
報酬:銀貨一枚
※追加十株ごとに銀貨一枚追加
俺は勢いよく指差した。
「これだ! 薬草なら俺でもできる!」
ミザリーも小さく頷いた。
「確かにこれなら安全そう。最初の依頼にはぴったりだね」
受付嬢が依頼書を受け取り、にこやかに説明してくれる。
「森の北側に群生地があります。ただし……魔物にだけは気を付けてくださいね」
最後の一言が妙に重く響いた。
―
街を出て、北の森へ向かう。昼下がりの森は鳥のさえずりが響き、木漏れ日が地面を斑に染めている。
「これが薬草か?」
「そうだよ。葉っぱの形がギザギザしてて、裏が少し赤いのが特徴なの」
ミザリーがしゃがみ込み、丁寧に葉を摘み取っていく。俺も真似して手を伸ばした。
「よし、一枚目!」
「リーン、薬草は“枚”じゃなくて“株”で数えるんだよ」
「……えっ、そうなのか!?」
俺のテンションは地面にめり込んだ。
―
それでも二人で着実に株を集め、気づけばノルマの十株を突破していた。追加報酬を狙い、さらに集める。
「二十株集めれば銀貨二枚、三十株なら銀貨三枚……」
「なんか計算してる顔がいやらしいよ」
「いやいや、これが生きる知恵だ!」
俺たちは夢中で薬草を摘んだ。だが、そんなときだった。
「……リーン、音がする」
ミザリーが小声で言った。地面を踏みしめるような重い音。ドスッ、ドスッ。
ガサッ、と茂みから飛び出したのは巨大な鹿のような魔物。額には鋭い二本の角。血走った赤い目。
「ホーンディア……!」
ミザリーが声を震わせる。
Eランク魔物。大人五人分の力を持つとされる存在だ。
「マジかよ……なんで薬草採取でいきなりEランク!?」
背中を汗が伝う。逃げようにも、もうこちらをロックオンしていた。
―
「俺が前に出る! ミザリーは援護だ!」
「わ、わかった!」
短剣を構えて突っ込む。しかし速い! ホーンディアの突進は矢のようで、横っ腹を掠められた瞬間、俺の体は宙を舞った。
「ぐはっ!」
「リーン!」
俺は鼻から地面に落ちた。
ゴンッ!
「ぎゃああああ!!」
《無属性スキル:体術・回避》
「……きた!」
次の突進を、ギリギリでかわす。体が軽い! 風をまとったように身がひらりと動く。
「ミザリー、今だ!」
「水弾!」
彼女の水の弾丸が鹿の脚を撃ち抜く。わずかにバランスを崩した瞬間、俺は短剣を握り直し跳びかかった。
「これで終わりだあああ!!」
角と首の隙間へ刃が突き刺さり、ホーンディアの咆哮が森を震わせた。
―
やがて巨体は大地に崩れ落ちる。俺は膝から崩れ、荒い息を吐いた。
「はぁ……はぁ……勝った……!」
ミザリーが駆け寄り、涙目で笑った。
「すごいよリーン! 本当に倒しちゃった!」
「ふっ……鼻折れガチャ、やっと役に立ったぜ……」
鼻血をすすりながら笑う俺に、ミザリーは呆れ半分、誇らしげに微笑んだ。
―
森を出るとき、俺たちは薬草の束と巨大な鹿の死骸を引きずっていた。
「これ……依頼所に持って行ったら、さすがに評価されるよね?」
「うん! だって普通はFランクじゃ絶対にやらない相手だよ!」
俺の胸は高鳴っていた。Fランクの雑用冒険者から抜け出すための、大きな一歩になるかもしれない。
「よし……これで俺たちの冒険は始まったばかりだ!」
森の風が鼻先をくすぐった。赤く腫れた鼻が痛む。でも――その痛みこそ、俺の力の証だった。




