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第十五話 初めての武器と宿代の現実

ソルトレインの街は、村とは比べ物にならない賑わいだった。石造りの建物、ひっきりなしに行き交う人と馬車、屋台から漂う肉やパンの匂い……歩いているだけで胸が躍る。


「すごいねリーン! 村とは全然違う!」

「ほんとだな……首が回らねぇくらい目移りする」

「でも鼻は回ってるね」

「うるせぇ!」


俺は胸を高鳴らせながら街を歩いた。ついに村を出て、冒険者として生きていくための第一歩。心が踊ると同時に、財布の中身を思い出して冷や汗もにじんだ。



まずは武器を買うため、武具屋へ入った。


店内には鉄の匂いとハンマーの音が満ちている。壁には剣や槍、盾が並び、重厚な雰囲気に飲まれそうになった。


俺は並ぶ武器を前に、迷わず言った。

「俺は……剣がいい」


ずっと憧れてきた。兄ギータが光の剣を振るう姿。俺もああなりたいと心から思っていた。


カウンターにいた鍛冶屋の親父は、俺をじろりと見て少し笑った。

「ほう、剣か。だがその体格じゃ大剣はまだ無理だな。短剣なら扱える」


差し出された短剣を手に取り、自然と構えをとった。

鼻折れガチャで得た剣術スキルが反応したのか、驚くほどしっくり馴染む。


「……これだ!」

「ははっ、いい目をしてやがる」


褒められた瞬間、胸が熱くなった。俺はついに“剣を持つ者”になったのだ。



一方のミザリーは、棚に並んだ杖をじっと見つめていた。

「私は杖がいい。魔法なら少しは役に立てるから」


そう言って差し出された杖を手にすると、彼女は目を輝かせた。先端に小さな魔石が埋め込まれた木の杖。握った瞬間、彼女の顔がふわっと明るくなった。


「わぁ……すごい、しっくりくる!」


俺は思わず笑った。

「似合うな! 立派な魔法使いに見えるぞ!」

「や、やめてよ! 恥ずかしい!」


頬を赤くしてうつむくミザリーに、俺の胸も妙にざわついた。



支払いのとき、俺は父からもらった餞別の袋を開けた。中には小金貨一枚と銀貨五枚。ミザリーは小金貨二枚を持っていた。


短剣の代金は小金貨一枚。

杖の代金も小金貨一枚。


「ぐぅ……俺の餞別、一撃で吹っ飛んだ……」

残ったのは銀貨五枚(=五千円)。ミザリーは小金貨一枚(=一万円)を手元に残している。


「リーン、大丈夫だよ。私が残ってるから」

「いや……冒険者って思った以上に金かかるな」


短剣を抱えながらため息をついた。冒険者の現実がひしひしと迫ってくる。



武器を買ったあとは宿屋を探した。表通りの立派な二階建ての宿屋に入ると、木製の看板に「一泊二食付き 銀貨五枚」と書かれていた。


宿屋の主人がにこやかに言った。

「二人かい? 一泊なら小金貨一枚だ」


俺は思わず頭を抱えた。

(銀貨五枚=五千円! 二人で一万円! 一泊で一万円!? 高すぎだろ!)



ここで、この世界の通貨を頭の中で整理した。

•小銅貨一枚=1円

•銅貨一枚=10円

•小銀貨一枚=100円

•銀貨一枚=1000円

•小金貨一枚=1万円

•金貨一枚=10万円

•白銀貨一枚=100万円

•白金貨一枚=1000万円


つまり――。


俺の残金は銀貨五枚=五千円。つまり一泊したら終わり。ミザリーの小金貨一枚を足しても二泊しかできない。


「……俺ら、下手したら路上生活だな」

「リーン、だからちゃんと依頼を受けないとって言ったじゃない」

「いやわかってるけどさ! Fランクの依頼、雑用ばっかりなんだよ!」


宿代の高さに、冒険者稼業の厳しさを改めて思い知らされた。



とはいえ、宿屋に泊まらないわけにはいかない。小金貨一枚を払って部屋に入った。


木造の小さな二人部屋だったが、布団はふかふか。窓から差し込む明かりも暖かく、村では味わえない安らぎがあった。


夕食に出てきたのはパンとシチュー。村の薄いスープに慣れた舌には、ご馳走以外の何物でもなかった。


「おいしい!」

ミザリーが笑顔でパンをちぎり、シチューに浸して食べる。

俺もがっついた。

「……くっ、金はかかるけど……うめぇ!」


鼻を鳴らしながら食べていると、ミザリーが呆れたように笑った。

「ほんとにリーンって鼻ばっかりだよね」

「うるせぇ! 俺は鼻で強くなる男だ!」



食後、ベッドに横になりながら天井を見つめる。

「……やっと冒険者としての一歩を踏み出したんだな」


財布はスッカラカン、これからの生活は不安だらけ。だが、胸の奥は不思議と高揚していた。


「よし……明日から依頼だ! 雑用でも何でもいい、日銭を稼ぐ!」

「うん! 頑張ろう!」


窓の外に広がるソルトレインの夜景に胸を高鳴らせながら、俺は固く誓った。

鼻を折ってでも強くなり、稼いで、冒険者として生き残る――。


その鼻先はすでに少し赤く腫れていたけれど、痛み以上に心が熱く燃えていた。

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