第十四話 ソルトレイン到着と冒険者ギルド
俺とミザリーは三日間歩き続け、ついに目的地の街――ソルトレインへたどり着いた。
目の前に広がるその光景に、俺は思わず口を開けたまま立ち尽くした。
「うわぁぁぁぁぁ……でけぇ……!」
高い石の城壁が延々と伸び、その上には見張りの兵士が巡回している。門の前には荷馬車が列をなし、商人たちが検問を受けていた。村の掘っ立て小屋とは比べ物にならないほどの建物が並び、遠くからでも屋根の赤や青の色鮮やかさが目に飛び込んでくる。
「すごいね、リーン! 人がこんなにたくさん!」
ミザリーが目を輝かせて言った。確かに門前には村人の何十倍もの人が行き交い、服装もさまざまだった。旅人、商人、兵士、そして武器を背負った冒険者らしき人々。
「……やっと来たんだな、俺たちの冒険の拠点に」
胸が高鳴った。村を出るときは不安もあったが、こうして街を目の前にすると「ここで何かが始まるんだ」と直感できた。
―
門をくぐると、さらに驚きの連続だった。
「うわっ、馬車が多すぎて道が渋滞してる!」
「屋台の匂いやべぇ! 肉の焼ける匂いが鼻に直撃する!」
「リーン、鼻のことはもういいから」
広い石畳の大通りには、商店や酒場、露店がぎっしりと並んでいた。道行く人々の話し声、笑い声、楽器の音、家畜の鳴き声――すべてがごちゃまぜになって俺の耳を刺激する。
「村と比べて騒がしいな……けど、悪くない」
「うん! なんだかワクワクする!」
目的地は一つ。俺とミザリーは街の中心近くにある冒険者ギルドを目指した。
―
ギルドの建物はでかかった。三階建ての石造りで、壁には巨大な剣と盾の紋章。扉を開けると中は酒場のように賑やかで、木のテーブルと椅子が並び、冒険者たちが酒を飲みながら談笑している。
カウンターの奥にはギルド職員の女性たちが立ち働き、掲示板にはびっしりと紙が貼られていた。
「これが……冒険者ギルドか」
「すごいね、掲示板にいっぱい依頼があるよ!」
俺たちは受付に向かった。若い女性職員がにこやかに迎えてくれる。
「いらっしゃいませ。冒険者登録ですね?」
「はい!」
受付嬢は説明を始めた。
「冒険者はランク制になっています。下からF、E、D、C、B、A、S、そしてSS。全部で八段階です。登録したばかりの方はFからのスタートになります」
俺はごくりと唾を飲んだ。
「ランクの目安は、同ランクの魔物に対応できるかどうかです。Fは初心者。Eは成人五人分の力に相当する魔物。Dは十人分。Cは百人分。Bは一体で街が壊滅するレベル。Aは国単位での対策が必要。Sは複数の国が協力しないと対処できません。そして……SS。これはまだ確認されていませんが、もし現れれば世界が滅ぶとされています」
俺とミザリーは息をのんだ。
(Sランク……そんな奴、本当にいるのか?)
受付嬢はさらに続ける。
「ちなみに、冒険者としてSランクに到達した人は歴史上たった一人だけです」
「ひ、一人!?」
「ええ。今はSどころかAランク冒険者ですらそう多くはありません」
ギルドの空気が一瞬だけピリッとした。酒場で笑っていた冒険者たちも、Sランクの話になると真剣な顔になっていた。
(……すげぇ世界に来ちまったな)
―
「では、お二人のステータスを計測しますね」
受付嬢は水晶玉を取り出し、机の上に置いた。俺たちは順番に手をかざす。
まずは俺。
名前:リーン・ボーン
年齢:九歳
属性:無
HP:132
MP:44
力:21
耐久:18
速さ:25
賢さ:15
運:5
「九歳でこの数値……大人並みの基準を満たしていますね」
受付嬢は驚きつつも記録をつけた。
(よっしゃああ! やっぱ鼻折れ修行の成果だ!)
続いてミザリー。
名前:ミザリー
年齢:九歳
属性:水・土(二属性)
HP:88
MP:142
力:9
耐久:11
速さ:12
賢さ:28
運:10
「……すごい! まだ九歳で、既に大人以上の魔力量と賢さを持っています!」
周囲の冒険者がざわめいた。
「二属性か……」「ガキにしては大したもんだ」
俺は心の中で苦笑いした。
(やっぱりミザリーはすげぇな……俺なんか鼻折って泥臭く頑張ってるのに)
だが悔しさはなかった。むしろ誇らしかった。
―
こうして俺とミザリーは正式に冒険者登録を済ませた。ギルドカードを受け取り、受付嬢に頭を下げる。
「これからよろしくお願いします」
「頑張ってくださいね」
ギルドを出ると、夕陽が街を照らしていた。
「リーン、私たち……本当に冒険者になったんだね」
「ああ。ここからが本番だ。鼻を折ってでも強くなる!」
「ふふっ……その覚悟は立派だけど、鼻は大事にしてね」
俺はカードを握りしめ、空を見上げた。
(冒険者としての道が始まった。俺はまだFランクだけど、絶対に上に行ってやる。鼻折れ王子から――本物の冒険者へ!)
ソルトレインの街で、俺たちの新たな物語が幕を開けた。




