第十三話 初めての共闘と剣術スキル
俺とミザリーは村を出て、最初の大きな街ソルトレインを目指して歩いていた。冒険者ギルドに登録するためだ。街までは三日ほどの道のり。道中は比較的安全だと言われていたが、それでも魔物が出ないわけじゃない。
森の中を進んでいたとき、茂みから低い唸り声が響いた。
「ブモォォォォ!!」
現れたのはイノシシ型の魔物だった。大人の牛ほどもある巨体に、牙は槍のように鋭い。鼻息を荒げ、地面を掘り返すたびに土が舞い上がる。
「やっべぇ……!」俺は思わず声を漏らした。
ミザリーが怯えた顔で言う。
「ど、どうするのリーン!?」
「俺がやる!」
「えっ!?」
「お前は下がってろ! 二属性でも戦ったことないだろ!」
俺は木剣を構えてイノシシに立ち向かった。だが勢いが違いすぎた。突進を受けるだけで腕がしびれ、木剣が吹き飛びそうになる。
「ぐぉぉ……つ、強ぇ……!」
イノシシはさらに突っ込んでくる。避けきれず地面に叩きつけられ、鼻を石にぶつけた。
「ぎゃあああ!!!」
脳裏に声が響く。
《無属性スキル:剣術初級(攻撃精度と斬撃速度が向上)》
「きたあああ!!!」
木剣を握り直す。腕の中に力がみなぎり、剣の軌道が驚くほど滑らかになった。振るうたびに空気を切り裂く音が鋭くなり、イノシシの牙を受け止めても押し負けない。
「これなら……いける!」
イノシシが牙を突き立ててきた瞬間、俺は剣を滑らせて弾き返した。勢いのまま横薙ぎに一閃――毛皮を浅く裂いた。
「ブモォォ!!」イノシシが怒り狂い、土煙を上げて暴れる。
ミザリーが震える声で叫んだ。
「リーン! 危ないよ!」
「大丈夫だ! 今ならやれる!」
俺は必死に斬撃を繰り出す。だが巨体を完全に止めるには力が足りない。じりじりと押され、足が地面を削った。
そのとき、ミザリーが両手を掲げた。
「土よ、動いて!」
大地が揺れ、イノシシの足元の土が突然沈んだ。片足がずぼっとはまり、体勢が崩れる。
「今だ!」
俺は全力で駆け、木剣を振り下ろした。鼻先に直撃し、イノシシが悲鳴をあげて倒れ込む。
「ブモォォォォ……!」
やがて動かなくなり、静寂が戻った。
―
俺は肩で息をしながらミザリーを振り返った。
「ミザリー……助かった」
「う、うん……私も、やれることをやらなきゃって思ったの」
彼女の顔は恐怖と興奮で赤くなっていた。震えてはいたが、その目は強い意志を宿していた。
「お前……やっぱすげぇよ。二属性ってだけじゃない。度胸もある」
「そ、そんなことないよ! ……でも、リーンが必死に戦ってるの見て、私もやらなきゃって思ったの」
俺は鼻を押さえながら笑った。
「俺は痛みで強くなるからな。鼻が砕けりゃ砕けるほど強くなるんだ」
「ふふっ……それ、変な理屈だよね。でも……リーンらしい」
二人で顔を見合わせて笑った。
―
倒したイノシシの死体を見て、俺は胸が熱くなった。
(初めて……俺たちだけで魔物を倒した……!)
今までは父や兄の背中を見てばかりだった。でも今日は違う。俺とミザリーの力で勝ち取った勝利だ。
「よし! これでソルトレインでも胸を張ってギルドに登録できる!」
「うん!」
鼻を押さえながら、俺は空を仰いだ。痛みとともに、冒険者としての第一歩を踏み出した実感があった。
俺たちの旅は始まったばかりだ。




