第十二話 無属性と二人旅の始まり
俺の名前はリーン・ボーン。世間からは“鼻折れ王子”なんて呼ばれているが、真実は俺だけの秘密だ。鼻が折れるたびにスキルガチャが回り、ランダムで新しい力を得られる。
そんな俺もついに九歳になった。今日は村の教会で行われる「属性鑑定」の日だ。これで正式に俺の属性が確定する。兄ギータのときは光・闇・風の三属性という大事件だったが、俺はどう出るのか……まあ、予想はついている。
教会の中は人でいっぱいだった。俺と同じ年の子供たちが家族と一緒に並び、順番を待っている。幼なじみのミザリーもそこにいた。
「リーン、ドキドキするね」
「ま、まぁな」
順番が来て、ミザリーが祭壇に立った。水晶に手をかざすと――青い光と茶色の光が同時に輝いた。
「なっ……!」
「二属性だと!?」
「水と土……すごい! 滅多にいない才能だ!」
教会はざわめきでいっぱいになった。ミザリーは驚いたように目を丸くしていたが、みんなから祝福されて頬を赤く染めていた。
(すげぇ……ミザリーが二属性なんて……!)
続いて俺の番が来た。緊張しながら水晶に手を置く。
……静寂。
しばらくして、水晶からぼんやりと灰色の光が漏れた。
「無属性か……」
「やっぱりな」
「鼻折れ王子にふさわしい結果だ」
人々の声が笑い混じりに聞こえてきた。
司祭が言った。
「無属性の者は通常、特殊なスキルを一つだけ授かります。身体強化や集中力強化など……リーン、お前はどんなスキルを持っている?」
周囲の視線が俺に集まる。心臓がドクンと跳ねた。
(やばい……鼻折れガチャのことは絶対に言えない! バレたら何をされるかわからない!)
俺は慌てて口を開いた。
「あー……えっと、その……鼻が強くなるスキルです」
「ぷはっ!」
誰かが吹き出した。
「さすが鼻折れ王子!」「鼻に関するスキルとか笑えるな!」
「やっぱり無属性は変なのばっかだ」
村人たちは笑いながら俺をからかった。司祭も苦笑して「まあ、健康であれば十分だ」とだけ言った。
(ふぅ……ごまかせた……)
普通、無属性のスキルは一人につき一個。それ以上は増えない。だが俺は違う。鼻を折るたびに無限にスキルを獲得できる。当たり外れはあるが、これははっきり言ってチートだ。だからこそ絶対に秘密にしなければならない。
―
数日後、俺はついに村を出て冒険者になる日を迎えた。
父バーバリーは厳しい顔をしながらも言った。
「リーン、約束は守ったな。九歳になるまで待った。……だが忘れるな。冒険者の道は厳しい。鼻を折ったくらいで笑って済む場所じゃないぞ」
「わかってます。絶対に強くなって帰ってきます!」
母キヨルは目を潤ませて抱きしめてくれた。
「体に気をつけるのよ。ご飯はちゃんと食べて、夜更かししないで」
「大丈夫だって!」
兄ギータは王都から帰省しており、出発に立ち会ってくれた。
「リーン、ついに冒険者か。……お前は俺とは違う道を行く。でも、自分の信じる道なら胸を張れ」
「兄上……ありがとう!」
村人たちも集まり、俺を見送ってくれた。もちろん中には「鼻折れ王子が冒険者とか笑える」なんて言う奴もいたが、俺は笑って受け流した。
旅立とうとしたそのとき、背後から声がした。
「リーン、私も一緒に行く!」
振り返るとミザリーが立っていた。決意に満ちた目で俺を見ている。
「えっ!? ミザリー、お前まで?」
「だってリーン一人じゃ心配だもん。すぐ鼻を折るし」
「いや、それ俺のアイデンティティだから!」
「それに……私、水と土の二属性だから。きっと役に立てるよ」
村人たちがざわめいた。
「ミザリーまで行くのか……」
「二属性持ちがいれば心強いな」
父は腕を組んでしばらく考え、やがてため息をついた。
「……止めても聞かんだろうな。いいだろう。ただし互いに助け合え。無茶はするな」
「はい!」
俺とミザリーは声を揃えて答えた。
―
こうして俺は村を出て、冒険者としての第一歩を踏み出した。鼻折れ王子と二属性少女――なんだかギャグみたいな組み合わせだが、俺は胸を高鳴らせていた。
(ここからが本当の始まりだ。俺は痛みによって強くなる! 必ず冒険者として大成してみせる!)
鼻を押さえながらそう誓い、俺はミザリーと並んで村をあとにした。
俺たちの二人旅が、今始まった。




