ミハイルからの電話
メルア大陸へ来て約3ヶ月後、ミハイルから電話があった。
「元気にしてる?」
「ええ、元気よ。」
「…侯爵の結婚式が終わったよ。」
…そうか。考えないようにしていたけど、ついに終わったのか…。
「私も君の変わりに出席してきた。彼は以前ビジネスの顧客だったし、フリッツの側近だから…。」
「そう…どうだった?」
「うん、侯爵も笑っていたよ。ちゃんと幸せになれると思う。相手の人はかなり地味で、顔も一回見たくらいじゃ覚えられないくらいどこにでもいそうな人だったけど悪い印象はなかった。」
「ひどい言い方。」
「…まぁ君に比べたら大抵がそうなっちゃうんだけどね。」
心配して連絡を入れてくれたんだわ。
ミハイルはなんだかんだ言って私に優しくて、
こちらに来てからも定期的に連絡をくれる。
彼がいてくれて良かった…。
「…スクールはどう?」
「少しずつ慣れてきたわ。デイヴィッドも同じゼミよ。」
「…デイヴィッドさんが?」
「ええ。よくうちにも来てるわ。週末はみんなで遊びに行っているし。」
「…」
ミハイルが黙ってしまった。
「大丈夫よ。リネアの事を何か思っているような感じもないし。」
「…そう。」
やっぱりリネアを心配しているのね。
「彼は一見物凄く普通の人に見えるけどそうじゃないから。君も気を付けるんだよ?」
「私を心配してくれるの?」
「そりゃ君は私の婚約者だからね。悪い虫がつかないようにしないと。」
虫…。
「嬉しいわ。気を使って言ってくれているのだとしても。」
「本気だよ。で、週末はどこへ行ったりしてる訳?」
「珍しいレストランに行ったり、この前は有名なテーマパークへ行ったわ。」
「ああ、あのネズミの…。土産だと言って耳のついた帽子がフリッツと私の分と送られてきたよ。」
「リネア…。楽しい人ね。」
「…とりあえず、君がわりと落ちついて話せているから安心した。」
「ありがとう。こちらでの生活が忙しくて丁度良かったんだと思う。それにあなたが連絡をくれるし。」
「うん…。じゃあまた連絡する。君も不安になったら私に連絡してくれればいいから。」
「ありがとう。」
電話を切ってからすぐ隣のテラスから声が聞こえた。
リネアが電話をしているようだ。
何故か胸が苦しい。
「…うん。そう、それでフリッツと帽子かぶってくれた?…写真送ってよ?」
…聞いちゃいけないのについ聞いてしまう。
やはりミハイルと話をしているみたい。
「ははっ。可愛い。待ち受けにしようかな。」
「…うん、…そうだね。…うん、私も会いたいよ。」
…私も…か。
「…え?…もー。駄目だよ。フリッツにも言われたし。…言葉でも駄目。」
…絶対に甘い言葉を言っている気がする。
「はい、私もです。…え?…だから、私も愛してるってば。…もー、ユーラは本当に甘えんぼうだよね。いい加減これを挨拶代わりにするのやめない?」
リネアがクスクスと笑う。
…やっぱり…。
ゲオルグの結婚の話もショックだった。
だけど胸が苦しいのはそのせいではないようだ。
私はいつの間にかあれほど好きだったゲオルグの事よりミハイルの事を気にしているらしい。
私には紳士的に優しくしてくれるけどリネアへのものとは明らかに違うと分かる。
フリッツは一体何をしているの?
何故フリッツよりミハイルの方が頻繁にリネアに電話している訳?こんなふうだからいつの間にかミハイルにとられたのよ。
ミハイルはまめだし気遣いもすごい。それに比べてうちの弟は本当に仕事バカだ。ゲオルグに至ってはあれから一度も手紙さえくれない。なんだか腹が立ってきた。
「…もう…。ユーラの馬鹿。そんなことばっかり言うならもう切るよ?」
どんな事を言っているのか気になってしまう。
「…分かった。もう言わないね?じゃあ、この前言っていた不動産の話だけどさ…。」
リネアは話をしながらテラスから部屋へ戻って行った。
ミハイルは相変わらずリネアが可愛くて仕方ないんだろうな。
私が彼の優しさを独り占めしたい。
無理だと分かっているのに
そんな事を思ってしまった。




