ヴィクトリアと私
「バカだな、君は。」
「あなたに言われたくない。」
病院を退院した後、ヴィクトリアを一人にしておけなくて私は家に彼女を滞在させる事にした。
幸い怪我はそこまでひどいものではなかった為、私たちが帰国した時には彼女は退院できた。
「ヴィクトリア、手首を切って死ぬなんていうやり方はどうかと思うよ?君はあの侯爵の気をひきたかったんだろうけど。」
「うるさいっ。あたしは病人なのよ?もう少し気を使ったら?」
「…十分気を使ってるじゃないか。」
「…フリッツは?」
「仕事に出かけたよ。」
「あなたは?」
「スクールを休んだよ。まあ念のため。…それで?侯爵は来てくれた?」
「…来たわよ」
「なんて言ったの?」
「会ってないわ。会っても仕方ないもの。」
「ただ彼に心配してほしかったり迷惑をかける為だけの行為なら止めた方がいい。」
「自殺をほのめかして無理やり婚約したあなたがそれを言う?」
「…それは作戦じゃないか。君も婚約前にそうすればよかったんだよ。今からじゃ遅い。ただ彼を苦しめるだけだ。尤も婚約破棄をさせるつもりなら話は別だが、どちらにしても君は駆け落ちでもしない限りフレーデル王国で彼と一緒になるのは難しいだろうね。」
「…とことん嫌みな奴よね。」
「…期待させるような言葉をかける理由もないからね。食事はできそう?」
「…何?」
「野菜のスープにしたよ。」
「…いただくわ。」
気高くて、おおらかな彼女がこんなふうになってしまうなんて…。小さい頃からずっと知っていた分複雑だ。彼女はいつも私にも普通に接してくれた数少ない人間の一人だった。
それに最愛の人と一緒になれず絶望した気持ちは痛いほど分かる。
「たまたま街で…彼が婚約者といるところを見かけてしまったの。辛すぎて…。気を引きたかった訳じゃないの、衝動的に…。」
ヴィクトリアがベッドに顔を伏せて震えた。
「…落ち着いたら下にきて食事を食べに行くといい。」
「…ありがとう。」
どうしようもない事
貴族や王族に生まれたら望み通りの結婚なんてできないのが当たり前だ。特に王族は…。
だけど…。
ずっと好きだった、愛していた…その気持ちは簡単には消せない。
◇◇◇
私は夕方リネアに電話して、ヴィクトリアの話を報告した。
「…それで?」
「…今は落ち着いてる。フリッツと定期的に様子を見に行ってるから…。」
「…心配だね。」
「そうだね、あと3ヶ月したら侯爵が結婚するから…しばらく注意が必要だろうね。…君はどう?今日は何かあった?」
「私は…今日イーチェンと会ったよ。」
「まさか、二人で?」
「うん。」
「…リネア…。本当にやめて。」
どうしてこの人はこういうふうなんだ…?
「…大丈夫、店でしか会ってないし、彼も大分まともな感じになったよ。」
「以前もまともな感じだったじゃないか。本当にまた連れさられたら困る。とにかく二人は駄目だ。」
「…ちゃんと注意してる。」
「馬鹿かお前は」
フリッツが横から画面にうつりこんできた。
最近は私が電話していると会話に入ってくる。
「…フリッツ…。ユーラの部屋に住み始めた?」
「リネア、お前はどうして警戒心が乏しいんだ?」
「もー、最近はフリッツまで保護者みたい。」
「あのなあ、今まではお前が遠くにいても確認できなかっただけだろう?」
「切りますよ?」
「切るな。」
フリッツとリネアの言い合いが始まった。
何だかんだ言って二人とも楽しんでいるのが分かる。
少し面白くない。
「フリッツ、私はヴィクトリアの様子を見てくるから…。ちゃんとリネアに言い聞かせておいて。」
「分かった。ミハイル…ありがとう。」
「いや…。ヴィクトリアは私のはとこだし、君の姉だからね。」
私がダイニングに行くと食事を終えたヴィクトリアが物思いにふけっていた。
「ちゃんと食べた?」
「食べた。ありがとう…。本当に料理上手よね。」
「…慣れだよ。最初は苦手だった。」
「そうなの…?」
「なんでも慣れる、努力すれば。」
「…なんでも…。」
「新しい恋でも見つけたら?」
「簡単に言わないでよ。」
「…そうだね。紅茶でも入れようか?」
「ありがとう。あなた…リネアと電話してた?」
「してるよ。今フリッツとリネアが話をしてる。」
「いいの?」
「いいよ。」
「余裕なのね。」
「…そうでもないけど、君が心配だったし。」
「ミハイルって意外に優しいのね。」
「フリッツの姉だから。」
「ふうん…?」
リネア達が何を話しているか気にならなかった訳じゃない。
だけど、今は自殺をしようとしたヴィクトリアが気がかりで一人にしておけなかった。
私とヴィクトリアはその日遅くまで話をした。
早く彼女が元気を取り戻すといいが、結婚が間近に控えている分精神的にきついだろう…。




