フリッツの葛藤
リネアと同じ部屋にしたかったが、そうもいかずちゃんと人数分の部屋をとってしまった。
リネアは食事の前にシャワーをしてくると言って俺の隣の部屋に入って行った。
俺も泥まみれだったからシャワーをすることにした。
「結婚…。」
リネアもあと二年で二十歳だ。結婚してもおかしくない年齢だ。
知り合ったのが13の時でそれからもうそんなに時が経ったのか。
嫌だ…。
リネアが本当に他の男のものになってしまうなんて。
耐えられない。
ヴィルの時も婚約まではなんとか受け入れられたが、
結婚となると…。
シャワーを終えて着替えを着ると無意識に冷蔵庫にあった酒を手にした。嫌な事があるととりあえず酒を飲む癖がついたようだ。
飲み始めると止まらなくなるがこのまま酔って寝た方がいい。
リネアにあったら手を出してしまいそうだ。
部屋をノックする音が聞こえたが俺は無視をした。
さらにしつこくノックが続く。
「うるさい。」
俺がドアを開けるとリネアがドアの前に立っていた。
「…お前か。」
「フリッツ…飲んでるの?」
洗ったばかりの濡れた栗色の髪
シャツとパンツのシンプルな服装。
エメラルドグリーンの丸い瞳
形の良い唇
俺のだったのに
ずっと俺のものだったのに…。
思わず俺はリネアの腕を引っ張ってリネアを抱き締め部屋の中に入れてしまった。
「…嫌だ。」
「…。」
「渡したくない。」
「フリッツ。」
「俺のだったのに。」
「フリッツ…。」
「ミハイルが卑怯なせいで結婚できるなんて納得できない。俺だってリネアがいいのに。」
「…。」
「なんで部屋に来た?来たらどうなるか分かるよな?」
「…。」
リネアが困っている。
困りながら俺の頭を撫で俺を抱き締めた。
…好きだ…。
目を閉じてリネアに撫でられていると柔らかい唇が俺の唇に触れるのが分かった。
目を明けるとリネアの瞳から涙がこぼれていた。
もっと…したい…。
だが
ここまでだ。
俺はリネアの頬にキスをして彼女から離れるとリネアがじっと俺を見ていた。やっぱり犬みたいだ…。
俺はさらにビールを開けてリネアに渡した。
「飲むぞ」
「フリッツ…もうやめた方が…。」
「飲めよ。どうせこんなのも最後だし。」
「うん…?」
リネアは少し考えてから自分の部屋へ戻って冷蔵庫の酒を全部持ってきた。
「飲もう。確かにこんなのもう最後だもんね。」
リネアが笑って俺の隣でビール飲み始めた。
それから俺たちは出会った頃から今までの色々な話をしながら酒を飲んだ。途中で足りなくなって近場の居酒屋に行ってまた酒を飲んで朝まで話をした。
くだらない話をして腹が痛くなるまで笑って、ついには音楽に合わせて躍りだし店の客や店主まで巻き込んで明け方まで騒いだ。
帰りの馬車の中でついにリネアは寝てしまい、俺は彼女を引き寄せた。
こいつも絶対俺の事好きだよな…。ミハイルの事も好きなんだろうけど俺といる時が一番こいつらしいと思う。
俺と踊っている時、仕事をしている時、勉強している時、どんな時も楽しかった。一緒にいれる時間が長くなるほどもっと一緒にいたいと思った。
騒がしくてお調子者で明るくて優しいリネア、
スモーランドで見つけて俺がここへ連れてきた。
ミハイルがいなかったら…。
そんな事思うだけ無駄なのに、そう思わずにはいられなかった。
馬車が寮へ到着した時、寮の前にミハイルが立っていた。
いきなり会いたくない奴がいる。
ずっと待っていたのか…?
…まだリネアは眠っている。
「今度はフリッツが誘拐したのかと思ったよ。」
「…そうできたら良かったんだが。」
「…彼女は私のだからね。」
ミハイルは冷たい目で顔で俺を睨みリネアを馬車から抱えて下ろした。
「…卑怯な手を使った癖に。」
「…なんとでも言えば?一番チャンスがあったのに何もしなかった君に言われたくない。フリッツ、ゲームは終わりだよ。もう私の勝ちだ。リネアから聞いた?正式に婚約するって。」
「…聞いた。」
「父から解放してくれて感謝してるよ。父に言われてじゃなく彼女の意思で決めて貰えたんだからね。」
「自分の意思…ね。」
「外泊許可とっておいてくれる?今日はうちで休ませるから。」
「…。」
「何もしていないよね?」
「してない。」
「ならいい。」
ミハイルが俺を見る。
「…正義が必ず勝つって訳じゃないんだね。明るくて人気者の君が選ばれないっておかしいって思ってるよね?」
「思ってる。陰気で卑怯な奴が勝つなんて物語ならあり得ないだろ?」
「そうだよね。でも努力はしたんだよ?」
「…それは分かってる。」
「大切にするから。」
「…当たり前だ。」
「フリッツ…。感謝してる。」
「…全く嬉しくない。」
「リネアがいなくなったら私がリネアの担当を引き継ぐからお手柔らかに頼むよ。」
「はー…。お前とか。」
「カジノもライヒ王国の件もあるしね。それから…私は、父の跡を継ぐことと王政を目指してみようと思ってる。」
「え…。お前?」
「君を見ていたら私も政治に取り組んでみたくなったんだ。」
「…王政に…って。」
「君達と、一緒に世界を動かしてみたい。」
ミハイル…。
「ここにいる間、勉強させてもらえたらありがたいよ。」
ミハイルは笑ってリネアを抱えたまま帰宅してしまった。
複雑だな…。
悪役キャラに徹してくれたら憎みやすいのに。
なんで俺は好きな女をとった男と協力していかなきゃいけないんだ…?!
俺の再従兄弟で
最強のライバルで
頼りになる悪友だ。
「…最悪だな。」




