口論
フリッツの執務室を出てからユーラの家に向かった。
ユーラは夕食の用意をするところだったようだ。
「珍しいね?今週はランチにもこなかったのに。」
「うん、たまたま早く終わって帰れたから。ケーキも買ってきたよ。」
「ありがとう。」
ユーラと二人になるのはまだ少し抵抗があったけど、しっかり話をして前に進みたいと思う。
「今日はカレーを作るつもりなんだ。」
「いいね、手伝っていい?」
「もちろん。」
ユーラがスパイスの話をしながらカレーを作る。いくつものスパイスを炒めているうちいい匂いがしてきた。
「…ユーラ、あのさ。」
「ん?」
「今度の週末…サークルでスケートに行くんだけど行ってきていい?」
「…。週末は私とビジネスの話をするって言ってなかった?」
「そうなんだけど、久しぶりにみんな来るから行きたくて。ユーラも一緒に…駄目?」
「…ここへ来た目的覚えてる?君は平日は宿題とフリッツの仕事に追われてほとんど私とビジネスの話を進められていないんだよ?あと一年でここから出ようとしているのに君は何故普通に学生生活を満喫している訳?スモーランドから来た書類もたまってるよ?」
「…おっしゃる通りです。」
「頑張ったらスケートくらい私が連れていってあげるから。」
そうじゃなくてみんなと行きたかったのに…。
だけど、ユーラの言うことは間違ってない。
僕はフレ-デル王国の居心地がよくて来た目的を忘れそうだったのは確かだ。
「…今から書類やるよ。」
「ご飯食べてからでよくない?手伝うって言ったよね?」
なんかユーラが母上みたいだ。
僕はサラダを作りながらユーラに話しかけた。
「ユーラ。」
「何?」
僕はユーラの背中にもたれた。
「私はユーラが好きだから、ちゃんと側にいるから。」
「…うん」
「だから、束縛しないで。」
「…」
「信じてよ。」
「…」
ユーラが無言だ。
「君が我慢するか、私が我慢するかの違いだよね?」
「え?」
「君は自由にみんなと遊びたくて、私はそうして欲しくない。私の方が君が好きだから私が妥協しなきゃいけない、そういう事?」
「そんな事言ってないよ。私は、ユーラとこれからも一緒にいるつもりだから妥協点をみつけたい。どちらか一人が我慢するなんてそんなのおかしいよ。」
「…妥協点…。私はすでに君がフリッツと平日毎日仕事をしている事を十分我慢しているつもりだったけど、週末も妥協しろと。」
「うっ…。」
「じゃあ一体私は、いつ恋人に会えるんだろう?電話?メール?」
「…。」
「君が平日フリッツと仕事してる間私はチャーリーズやカジノ、スモーランドの件も進めてるけど。」
「…スケートは断ります。」
母上だ…。母上がいる。
「好きだと言ってくれるのは嬉しいけどちゃんと行動で証明してくれない?君は行き当たりばったりだし、すぐその場のノリに流されらから。」
「母上、ごめんなさい!…あっ!」
しまった…。
「兄からついに母に昇格か…。」
ユーラが僕の頬をつねって僕にキスをする。
ユーラは僕の好きなキスを良く知ってる。
甘くて優しいキス…
僕はユーラの首に腕を回した。
「ん…。」
「…もう寮からでてもよくない?毎晩こうしたい。」
「…。」
「リネアは?」
…寮の方が気楽だけど…、そんな事言ったらまたどうなるか…。
「…うん、そうだね。」
少しずつ、本音が言えなくなって
嘘をつくようになるんだろうか?
ユーラを不安にさせないように
怒らせないように…
これでいいんだろうか?
「リネア、朝まで一緒にいたい。…駄目?」
「駄目じゃないよ…。」
ユーラが僕をソファーに押し倒した。
「…フリッツの所にいた?」
「いたよ?書類作ってた。なんで?」
「フリッツの香水の匂いがする。」
ユーラの目が怒った目になった。
「私の所にはこれなくて毎日フリッツの所には行くんだ?」
また始まった…。
「…。」
僕は目を反らした。
「何か言ったら?」
…駄目だ、我慢できない。
「あのさ。ユーラ…、私、そういうの嫌だ…。」
「そういうの?」
「私は、そういう面倒なの嫌なんだよ。分かるよね?私とずっと一緒にいたんだから。束縛とか嫉妬とか苦手なんだよ。ユーラが好きで一緒にいるって決めたのに、気持ちを疑われたり言う通りにしなきゃいけないとか、窮屈なのは嫌なんだ。…分かってよ。」
「でも君が実際一緒にいるのはフリッツじゃないか。」
「それは…。」
「私がエンゲル王国にいた時もフリッツの婚約者にされたらそれを結局受け入れてた。」
「…。」
「私はただ君の側にいたいだけなのに、それが嫌だって言われたらどうすればいいわけ?好きな人の側にいたいと思うのが悪い?離れたくないと思ったらいけない?」
「だってユーラ、前はそんなじゃなかった。私が好きにしていても何も言わなかった。」
「だから…恋人になる前の話だよねそれ?恋人じゃない人にあれこれ言う訳がない。」
「…そうだけど…。」
「ここへ来た目的と、現状の行動を考えたらおかしいのはリネアの方じゃないか!私とミッションをクリアする為の時間は後回しでフリッツに頼まれた仕事ばかりして、私に言わせれば君こそいい加減にして欲しい。君の私への気持ちは…。」
珍しく声を荒らげて僕を叱責した後、
ユーラの瞳から涙がこぼれた。
…ユーラを…僕が泣かせてしまった…。
普段物静かで穏やかな人を…。
物凄い罪悪感だ。
「…ユーラ…ごめん。確かに私が悪い。我が儘で自分勝手なのは私の方だ…。」
僕はユーラを抱き締めながら、組合わさったパズルのピースが壊れていくような感覚を感じた。
…なんだろう…。
「リネア…。」
「ん?」
「来月うちの父と君の父上が来たらさ…」
「うん?」
「婚約しよう。」
ユーラが僕にキスをしながらそう言った。
「リスラ共和国に帰って父の跡を継ぐ。一緒に来てくれるよね?」




