もう一人のフリッツ
「…ただいま?」
「…おかえり?」
僕が寮に戻るといきなりフリッツに鉢合わせしてしまった。
お互いめちゃくちゃ気まずい。
「フリードリヒ殿下、お久しぶりです。」
「ああ。ユリア殿。久しぶりだな。部屋を寮長に案内させよう。」
「ありがとうございます。」
「あ、じゃあ私もまた…。」
「リネア、お前はこっちだ。」
フリッツは僕の服の裾を引っ張ってスクール内にあるフリッツの執務室に連れて行った。
フリッツは部屋に入るとコーヒーを側使いの人に頼んでくれた。
「…休暇は楽しかったか?」
「うん、まあ。…フリッツは?」
「仕事してた。」
「…そう。」
めちゃめちゃ緊張する。何を話していいか言葉が出ない。
「さっそくだが…」
フリッツはそういうと大量の書類を僕の目の前に積み上げた。
「お前がやってみたいと言った案件の書類だ。」
「こんなに?増えてない?」
「いや、最初からだ。」
フリッツが楽しそうだ。
僕はソファーに座って書類に目を通す。確かに僕がやりたいと言ったものばかり。ただ、微妙に件数が増えている。
「…これ以上は無理だよ?」
「ああ。お前がやってくれたら助かる。給料は変わらず出すから。」
「うん。仕事をさせて貰えるのはありがたいけどね。」
「これは持ち出し禁止の物ばかりだから以前と同じようにこの部屋で作業するように。」
確かに理屈は通っているけど、これをやってからユーラの家に行けるのか?
「フリッツ…。」
「何だ?」
フリッツは一体何を考えているんだろう?
僕たちは別れたはずなのに、この感じはまるで何事もなかったと錯覚するほど、以前と変わらない。
「…何でもない。…自分の部屋を片付けたらさっそくとりかかるよ。」
「ああ、頼む。」
「クラウディアは…来た?」
「さあ。興味もないし。」
しまった。無神経だった。
「じゃ、じゃあ…後でね。」
僕がソファーから立った瞬間、フリッツが僕の腕を掴んで僕をソファーに押し倒した。
「…。キスマーク…ついてる。」
「…。」
フリッツが首筋にキスをした。
「…っ。」
「カジノ、成功させたいんだよな?」
フリッツが僕を見て笑った。
「…。」
「じゃあ、ここであった事は秘密にしないとな。」
そういってフリッツは冷たい目で僕を睨んでキスをした。
「…フリッツ…?」
フリッツが壊れた?!なんなんだ、これは…。
「…誰?君は僕の知ってる人?」
僕がフリッツを見るとフリッツがはっとして僕から離れた。
「…俺も知らない。こんな悪い自分がいたなんて初めて知った…。」
「フリッツ、…大丈夫?」
「…大丈夫じゃないかも。悪い…。完全にキレてた。もう部屋を出ていいから。」
「…疲れてるんじゃない?少しは休んだ方がいいよ。」
「休みたくない。…余計な事を考えたくないんだ。」
「フリッツ…。」
「悪いリネア。仕事は明日からでいいから今日は一人にして貰えるか…?」
「…分かった。何かあったら呼んで?」
「ああ。」
心臓がドキドキしている。
フリッツは大丈夫だろうか?
いや…このままだとヤバい気がする。
◇◇◇
「フリッツが?」
僕はさっそく、ヴィッキーの部屋を訪ねてさっきあった事を話した。部屋にはゲオルグさんも来ていた。
「…ヤバい…わね。」
「やっぱり?」
「リネアと別れてから情緒不安定気味だったの。ヴィルフリートの時も、誘拐事件の時もそうだったんだけどね、一見大丈夫そうに振る舞ってるんだけどたまにおかしな感じになるのよ。」
「…どうしよう?フリッツが本当におかしくなったら。」
「まあ、リネアが考える事じゃないわよ。フリッツとあなたはもう別れたんだから、気にしなくていい。…しいていえばミハイルと仲のいいところを見せるのは控えてもらえると助かるかしら。そんなの見たら、何しでかすか分からないから。」
「私からもお願いします。殿下は…殿下にはあなたしかいなかったので。」
「ゲオルグ、リネアを困らせないで。お父様とフリッツが決めた事よ。」
「分かってる。だけど、殿下がそうしたくてした訳じゃないってみんな分かってるだろう?私は、あなたに殿下を諦めて欲しくなかった。そうしたら彼は絶対あなたを手離さなかったんだ。しかも新しい恋人と帰ってくるなんて、無神経だ。」
「ゲオルグ!止めなさい。」
ゲオルグさんの言う通りだ。
自分たちが一緒になるために二人で来るなんて本当に無神経だった。
「…ごめんなさい。」
「リネア、謝らなくていい。あなただって自分の選択した事じゃないところで振り回されているのを知ってるから。ゲオルグはフリッツへの忠誠心が強すぎるの。許してね。」
ユーラと一緒にいれると浮かれていた自分が恥ずかしくなって、僕はどうしていいか分からなくなってしまった。




