皇女クラウディア
ニコライ大統領が到着した次の日、ライヒ王国の国王と皇女クラウディアが到着した。
ついてすぐ、俺たちは会議を始めた。
ライヒ王国の国王は穏やかな人物であったが正直政治に向いていないと感じた。国の問題点や状況を説明したのは皇女と補佐官で国王はただ聞いているだけだった。
ニコライ大統領とリネア、父上と俺は彼らの話を聞き、具体的にどんな手助けができるのか提案をした。
皇女はリスラ共和国に留学していたこともあり、リスラ共和国のIT産業の技術力をぜひとりいれていきたいと言った。
我々には交通網の整備や産業の提携を要請した。
正直、俺は彼女に会って驚いた。俺の一つ下でここまで国の事を考え行動している皇女にあったのは初めてだった。
彼女は他の令嬢とは違い、すでに国を背負っていく覚悟をしている。
「アタシは他にきょうだいがいなかったから、小さいころから自分がこの国の国王になると思っていた。だから、いろんな国へ行ってその国の良いところを取り入れていきたいと思ってたんです。」
彼女はそう言った。
補佐の男は我々より10くらい上だろうか?彼もまたとても賢く、彼女に的確なアドバイスをしていた。
「フリードリヒ殿下はすごいですね。アタシの一つ上でこんなふうに本格的に政治に参加されていらっしゃるなんて。」
「これは昔から好奇心旺盛で、私が駄目だといっても仕事についてきて、10歳の頃にはもう仕事をやりたいと言ってきかなかったんだ。」
父上が呆れたようにそう言って笑った。
「父親…。」
「アタシも本格的に政治に参加していくつもりなんです。殿下、色々教えてください。」
「ああ。」
俺はさっきからニコライ大統領がリネアを見ている事に気づいていた。この男は何を言い出すか予測できない。ハラハラする。
「リネア、お似合いだと思わない?フリードリヒ殿下とクラウディア様。お互い国を思い、大切にしている。フリードリヒには君みたいに自由にあちこち行ってビジネスをしていきたい人より、彼女みたいな人があっているよね?」
…なぜ全員の前でリネアの印象を悪くするような真似を…。
「ニコライ、お前、自分の娘にその言い方は…。」
「フランク、君だってうちの娘より、クラウディア様が婚約者になる方が得だって思ってるよね?うちは共和制だし、国民の感情を考えると、ライヒ王国と縁を結んだ方が安心だよね?」
ニコライ大統領は父上にそう言った。
リネアは黙って聞いている。
ニコライ大統領は、ミハイルとリネアを取り戻したくて、今度は俺とクラウディアを婚約させるつもりか。本当に自分勝手な人だ。
「…ニコライ、自分の子どもは国の駒ではない。彼らの意思を尊重するべきだろう?」
「リネア、フレーデル王国の国王はそう言っているよ?君はどうしたい?」
それをみんなの前でリネアに聞くのか。
父上は、彼女がミハイルを選ぼうとしていた事を知らないのに。
リネア…。
「フリードリヒ殿下」
リネアが俺をそう呼んだ。
「ああ。」
「あなたが婚約した私の父は本当に自分勝手で我が儘な人なんです。」
「…。」
本当に、うんざりするよな。リネアが気の毒になってきた。
「あなたは、この人と、リスラ共和国と親戚になる事を選べますか?私はすでにあなたと婚約した身。私はあなたに従います。」
「リネア…。」
リネアは、俺に決めろと言っている。
「リネアはミハイルが好きなんだよね?」
ニコライ大統領、今それを言うか?!
部屋が静まり返った…。
「お父様、いい加減にしてください。今はライヒ王国の課題を解決する為に国王と皇女に来ていただいているんです。貴重な時間をこのような話に使わないでください。私はフリードリヒ殿下と婚約しました。決定権は殿下にあります。」
「リネア…、君はミハイル様が好きなの?」
「クラウディア…。」
「ねえ、そうなの?ミハイル様と一緒になりたかったの?なのにフリードリヒ殿下と婚約したの?」
「…。」
ニコライ大統領が楽しそうな顔をしている。
リネアが俺を見る。
父上もリネアを見ている。彼女は試されている。
フレーデル王国の皇太子妃に相応しいかどうか。
「リネア、答えろ。」
俺はリネアにそう言った。お前は、どう答える?俺の期待に応えてくれるのか?
「ミハイルは、私にとって大切な兄であり、そういう意味でお慕いしております。フリードリヒ殿下は以前から私の恋人であり将来を約束した方。私はこの婚約を望んでいます。殿下、あなたはいかがですか?この父やリスラ共和国を含め私を選んでくださいますか?」
リネア…俺の婚約者として適切な回答をだして、さらに俺を試すとはいい度胸じゃないか。面白い。
ニコライ大統領には振り回されないって事か。
「私の心はずっと前からあなただけのものです。だから、私はあなたを選ぶ。」
俺はリネアの手を握ってキスをした。
リネアは俺を見て微笑みながらもニコライ大統領から目を離さない。
彼もまたリネアを見ている。
早く…この話し合いを終わらせたい。これ以上この男に話をさせたくない。
「…ニコライ、あまり引っ掻き回すような真似はやめておけよ。私はリネアはいいがお前と親戚になるのは嫌だな。物凄く面倒くさい。」
父上が呆れたようにニコライ大統領を見た。
「ひどいなー。そんな言い方しなくとも。昔からの友達じゃないか。」
「だから嫌なんだ。」
「あの…。国王様。」
クラウディアが父上を見た。
「アタシにもチャンスをいただけませんか?殿下の婚約者になるチャンスを。ライヒ王国とフレーデル王国は言語も文化も同じ。かつては一つの国だったこともあります。私はフリードリヒ殿下にお会いし、お話を伺い、素晴らしい方だと思いました。アタシは、殿下となら国を立て直すだけでなくもっと良い国にしていけると思ったんです。一緒に国を豊かにしていく為のチャンスをください。」
「…君はなかなかの人だね。」
父上がクラウディアを見る。
「フリッツ、お前はどうしたい?実際、周辺諸国からはライヒ王国との話をまとめるよう言われているのだが。」
「父上、私は、リネアを…。」
「チャンスをあげたら?僕はしばらくリネアを預かるから。」
ニコライ大統領はリネアを引っ張って自分の膝の上に座らせた。
何を勝手な事ばかり言っているんだ?!
「フリッツ…。ニコライが義理の父になってもよいかは真剣に考えるべきだぞ?」
「父上…。」
「フリッツ、それに関しては国王様に同意するよ。この人頭がおかしいからね。病気で助けてくれたフリッツの恩とかさらっと忘れて全部自分の気分にあわせて都合のよいように考えるような異常な人だし。」
「リネア…。」
「みんなひどくない?僕はそんなに信用ないわけ?」
「ある訳がない。」
「ニコライ、リネアとの養子縁組を解消しろ。」
「いやだ。僕はリネアがいい。」
「はぁ?!」
父上が呆然としている。
「フランク、僕はリネアを誰かにあげるのがおしくなったんだ。だから、フリードリヒはクラウディア様と婚約したらいい。リネアはうちのミハイルと婚約して、うちの国で家族みんなで暮らして欲しいと思ってる。」
「ニコライ…。お前、リネアを?」
「うん、可愛くて仕方ないんだ。だけどリネアはミハイルが好きだから、ミハイルにあげる。そしたら僕も一緒にいれるだろう?僕は彼女が側にいるならそれでいい。」
ニコライ大統領はそう言って父上を見た。この人…。みんなの前でそれを言うか…。わざとか?わざと父上に警戒されて婚約をやめさせるようにしてるのか?どちらにしてもリネアの言う通り異常だ。
父上はため息をつきながら俺を見た。
俺の希望、リネアとの将来の夢が音をたてて崩れていくような気がした。
「フリッツ…クラウディア様に婚約のチャンスを…。私からの命令だ。リネア、申し訳ないが理解してもらえるか。」
「…国王様、この人がいかれているのは分かっていますから、親戚になりたくないのは当然です。私も死ぬほど嫌ですが、契約によりもう逃げられません。」
「リネア…君は気の毒だなあ。悪霊に取りつかれたも同然だ。」
「国王様、悪霊に失礼です。」
「だな。」
「では、婚約の件はいったん白紙にさせてもらうとする。フリッツはクラウディア様とも交流を深めた上で結論をだすように。これは王命だ。ニコライも、それでいいな?」
「うん、じゃあ冬休みはリネアを預かるから。」
「リネア、私たち家族は君が好きだし、君が婚約者になったことをとても喜んでいたのに…。」
父上がリネアの頭を撫でた。
「国王様…光栄です。私もフリッツの家族が大好きです。」
ニコライ大統領がリネアの手をとり部屋を出ようとした。
「じゃ、リネア、行こうか。フランク、また来るね。ライヒ王国支援はちゃんとやるから。」
「…しばらくくるな。胃が痛い。」
もう、滅茶苦茶だ…。
「ニコライ大統領。お待ち下さい。少し、お話を。リネアと3人にしてください。」
「うん?」
こんな事、ありえない…。




