冬休みの計画
フレーデル王国の城にニコライ大統領が到着した。
「リネアは?」
「彼女は今仕事で外に出ていまして、もうすぐ帰ってくると思います。」
「仕事?」
「ええ。今いくつかの国の事業に関わってもらっています。」
「ふうん…。君らしいね。」
「おっしゃる意味がよく分かりませんが?」
「まぁ、敢えていう必要ないよね。」
「…ええ。」
「それで、私に頼みとは?」
「うちの子たち、マルクとレナートをこちらの寮にいれてもらえないかな?今、彼らはリスラ共和国の全寮制のプリスクールに通っているんだけど、僕は彼らに君の存在を間近でみてもらえたら、と思ってるんだ。こっちにはリネアもいるから彼らも安心するし。」
「…あなたは自分の子どもが近くにいなくていいんですか?」
「僕は…正直子どもとの付き合い方が分からないんだ。自分も幼い頃から寮に預けられ、たまに会う父はとても厳しかった記憶しかなくて。」
父として子どもと触れあう貴重な時間を放棄していいのか?と言いたいが余計なお世話だよな…。俺が返答に悩んでいると、仕事から戻ったリネアがドアを開けた。
「ユーラが愛想をつかしてでていったら、今度はフリッツと私に子どもの世話をさせようとしてる訳?マルクかレナートをフリッツのような仕事大好き皇太子にする為?冗談じゃない!」
「…リネア、いつから聞いてたの?」
彼女は部屋へ入ってきた途端凄い剣幕で大統領におこりだした。本当に親子か、それ以上かと思うくらい彼女は彼にはっきり物を言う。彼にこんな事を言えてしまうのはリネアくらいだろう。
「さっきだよ。」
「盗み聞きは良くないよ?」
「どっちが!マルクたちが可愛そうだ。母親もいないのに、父親が愛情と時間をかけてあげるのを放棄して。いつも自分で言ってるよね?育て方が悪かったって。ニコちゃんさ、はっきり言うけど子どもとの関わりを避け続けてきたよね?初めてまともに向き合ってくれようとした長男を道具扱いして、次はそれ?ふざけてんの?」
う、めちゃくちゃきつい。
「…リネア、お前ちょっと言い過ぎ…。」
「じゃあさ、リネアが僕とリスラ共和国に来てよ。」
「はあ?」
「だってマルクたちはリネアに一番なついてるし。僕だってリネアがいてくれたら、ちょっとは父親らしくなれるかもしれないし。」
おいおい、この人、滅茶苦茶な事言い出したな。
「…あのさぁ、あなたは私に親の言うことに従えって言ってフレーデル王国に置いていきましたよね?」
「うん。」
「で、今度世話係だったそちらのご長男がいなくなったので私にシッターをしろと?」
「そう。何か問題?」
「…あのさ、本気で再婚考えたら?まじでウザイ。」
…リネア…こいつ切れるとこんな感じなのか。気をつけよう。
滅茶苦茶怖い。
「フリードリヒ、聞いた今の?」
「…私は部外者ですのでコメントは控えさせていただきます。」
「リネア、父に向かってその口の聞き方はどうかと思うよ?」
「どこが父親だ?!僕はあんたの都合のいい駒じゃないんだ!マルクもレナートも、みんなちゃんと意志があるし、心があるんだ。いつになったらそんな簡単な事に気づけるんだ、この馬鹿!!」
…なんていうか、親子以外の人間が見てはいけないものを見てしまった気がする。物凄く気まずい…。
「フリードリヒ…悪いけど彼女と二人にしてもらえる?」
…ニコライ大統領の目が笑ってない。
「…承知しました。」
この人リネアに何かしたりしないよな…?
部屋の外に誰か控えさせるか。
「リネア…」
「フリッツ、心配ない。」
俺は静まりかえった部屋をあとにした。
リネアのあんな顔を見るのは人身売買の時以来だ。小さな子どもが理不尽な目にあうのを彼女は人一倍嫌う。彼女が怒るのも無理はないが…。
◇◇◇
「…本当に生意気だ。」
「気に入らないなら縁を切ればいい。」
僕がそう言った瞬間、ニコちゃんが僕の腕を掴みそのまま引き寄せ抱き締めた。…凄い力…。
「ちょっと…。」
「言うことを聞かない生意気な子には分からせてあげないとね。」
「…あなたはおかしい。」
「自覚はある。」
「…お願いだから、みんなを自分の都合で振り回さないで。フリッツだって困る。」
「じゃあ来てよ。君がリスラ共和国に。」
「勝手すぎる。」
「…僕も正直後悔している。ミハイルと君を引き離した事。君がうちの家にいてくれて、彼が私の跡をついでくれたらそれでよかったんだ。リネア…ごめん。僕が悪かったよ。」
「はー…。冬休みだけなら。」
「本当に?」
「その間に誰か再婚相手探して。頼むから。」
「やだよ、面倒くさい。」
「私はいやだよ?!絶対にニコちゃんは嫌だから、ないから。」
「…年の問題?」
「性格の問題。イーチェンの次に無理。」
「うわっ!それ底辺だよね?」
「そうです。義理の父でも大変なのに、妻なんてストレスでおかしくなるに決まってる。ニコちゃんの見た目に騙されそうな優しい素敵な女性を見つけて、早くみんなを安心させてください。」
「…ねえ、じゃあ君との契約を反古にして、ミハイルをリスラ共和国に呼び戻そうか?君が彼と婚約してくれたら、みんな一緒にいられるし。」
ニコちゃんは僕の耳元でそう囁いた。
「今更?」
「まだ間に合うよね?」
なんて卑怯で自分勝手なんだ…。
「断る。」
「何故?」
「自分の言った事には責任を持つべきだよ。みんなが自分の思いどおりに動くと思ったら大間違いだ。」
「真面目だなあ。」
「ニコちゃんが適当すぎるんだよ。」
僕たち二人は話を終えて、再びフリッツと話を再開した。
「…という訳でリネアは冬休み僕の所へ来るから。」
「お断りします。」
え…?フリッツ今、なんて…
「ん?僕の聞き間違えかな?」
「お断りします。リネアをリスラ共和国へは行かせません。」
「フリードリヒ?彼女は僕の娘だし里帰りさせる事に何の問題が?」
「今までそう言ってリネアがどこかへ行く度に彼女は帰ってこなかったんです。スモーランドのクリスマスの里帰りは認めますが、それ以外は認めません。あなたの息子さん達が心配なら彼らをこちらに呼んだらいい。」
「フリッツ…。」
「リネア、俺はお前の婚約者だよな?」
「うん?」
「将来義理の父になる方にも婚約の了解を得ている。今回、その方は息子さん達を私に託したいと言った。私はそれを受け入れるつもりだ。」
「…。」
ニコちゃんが不満そうに笑っている。
「自信がないのかな?僕にリネアをとられると思ってる?」
「もしくはミハイルを呼び出す可能性も。あなたは手段を選びませんからね。」
「…信用されないのは寂しいな。」
「そんな事はありませんよ?ただ、私も少し学習したんです。」
「…。じゃあ君も来たら?」
「は?」
「冬休み、君もうちに来たら?カジノの視察もできるし。」
「ニコちゃん…。何を言って…。」
「行く、行きます。」
「フリッツ?!」
「だってお前、考えてもみろ?こんな機会なかなかないぞ?」
「私は何回もリスラ共和国へ行ったし…。」
「俺はない。よし、クリスマスはスモーランドへ行って、それから新年をリスラ共和国で過ごす。」
「楽しみになってきたなぁ。あ、チェスもやろうね。」
「…今度は負けませんよ?」
「…ニコちゃん、自分のこどもは?」
「セルゲイは公演で忙しいし、ミハイルは私に会いたくないに決まってる。アリーナはスモーランドで会うから。」
「…はー。面倒くさいことになりそう。」
「一番トラブルをおこしているお前がいうな。」
フリッツがそう言って僕の頬をつねった。




