料理教室
「リネアさん」
「…何ですか?フリッツ君。」
「…もう腕が疲れてきたから変わってください。」
「またー?!…もう早くない?フリッツがケーキ作りたいって言ったんだよね?さっきから卵白の泡立ても交代して今度はクリーム?」
「俺、こういう単純作業苦手だし。」
「うわっ。じゃあもう作るのやめる?昔からフリッツはすぐ人にやらせてたよね?」
フリッツが僕を後ろから抱き締めた。
「だってリネアと一緒にいたいし、リネアが料理をしているの見るの好きだし…。」
「…もー。ヴィルやユーラなんか少し教えたら私より上手になったんだよ?」
「…あの二人は陰気でネチネチしているから、こういう地味な作業もできるだろうが俺には向かない。俺はもっと豪快な作業の方があってるんだ。お前も普段適当なくせに意外に我慢強いな。」
「…フリッツ君。口じゃなくて手を動かしてください。」
「厳しいな。」
「どこかの上司には負けますよ。最近書類仕事がが多すぎます。」
「感謝してます、リネアさん。おかげでこうして休めます。」
最近フリッツは毎週日曜日に休むようになった。土曜日の夜から日曜日夜まで僕と一緒に過ごすと決めたらしい。
仕事が終わると僕の部屋へきてコーヒーを飲みながら今週あった事や来週の予定を確認する。日曜日は共通の趣味を作るべく仕事以外の事をするらしい。ユーラに対抗しているみたいで、そんなフリッツが可愛くて面白い。
今日は、昨日決めた通りケーキ作りをしているのだがさっきからフリッツはサボってばっかりだ。横で味見をしたり、冷蔵庫にあるお菓子を食べたり、まるで小さなこどものようだ。
フリッツと一緒にいて今まで知らなかった事がたくさんあったと知った。推理小説や歴史小説が好きな事、単調な作業が苦手な事、暗闇やお化けが怖い事、甘え上手な事…。
彼は僕が思うほど完璧なんかじゃなくて、年相応の少年みたいな所やそれ以下の所がある事も分かった。
「俺だって知らないことあったぞ?」
「何?」
「服を選ぶのが苦手で干してある物を着ている事、食い意地がはっていて他の人が好物を残しているとくれないか見ている事、くしゃみがおっさんみたいな事、あとは…。」
「あ、もう結構です。」
フリッツがケーキのデコレーションを始める。
豪華な盛り付けでなかなかセンスだ。
「リネア、食べさせて?」
「もう。仕方ないなあ。」
僕はフリッツにケーキを食べさせる。
「…ん、やっぱ自分が作ったケーキはうまいな。」
僕がほとんど作ったケーキを食べながらフリッツがそう言った。
◇◇◇
場所はエンゲル王国に変わって…
「シャーロット様、分量は正確に図ってください。」
「すでに適当にいれてしまった。」
何故か私は休日にシャーロット様とエンゲル王国の城でケーキを焼いている。いきなりシャーロット様に呼び出され、来たらケーキ作りが始まった。
どうしてか分からないが私は彼女のこの強引な呼び出しや小間使いを断れない。
「こういうのはきちんとやらないと失敗するんです。本当にあなたは…。だいたい、自分のホテルで出すケーキを自分で試作する事自体間違っています。そういうのはプロに任せてあなたは別の事をするべきです。」
「スコーンも前回うまくいっただろう?」
「あれは私が作ったんですよ?!」
「まあ細かいことを言うな。」
彼女は本当に必死で菓子や料理を作ろうとしているのだが、残念ながら全く才能がない事が分かった。
先日は私とセルゲイに料理を作ったと言ってスクールに持ってきてくれたが、まず匂いからしてヤバかった。
練習後、腹が減っていたせいで何か知らずに冷蔵庫にいれてあった'それ'をまともに食べたセルゲイは次の日腹痛になった。
私は怖かったので最初から薬を飲んで気持ち程度に食べた為、難を逃れることが出来たが、セルゲイで試して正解だった。
なんでも器用にこなせてしまうリネアとは違って彼女は本当に不器用だ。店でも定期的に皿を割ったり会計をミスしている。
それでも彼女が真剣にやっているのを知っているからみんなも怒ることもできず、失敗して落ち込んでいる彼女を励ましたりなだめたりしているのが面白い。
彼女は特に明るくもなく社交性も低いキャラクターながら店のみんなに可愛がられるようになった。
私やセルゲイも例外ではない。
「リネアとは全然違うんだけど、憎めないんだよね。」
あの人見知りのセルゲイがそう言ってシャーロット様をサポートしている。
彼女は本当に不思議な人だ。




