フリッツとお出かけ
街の郊外にあるビオトープを見学した。
環境破壊により失われた貴重な生態系を取り戻すためフレーデル王国ではあちこちにビオトープが作られている。
今日はその計画と作り方を担当の人に教えてもらった。
見学が終わってから僕たちは郊外を散策した。
「そういえば、お前と出かけた事ってあんまりないな。」
「たいてい週末も仕事してたしね。」
「ミハイルとはあちこち行ってるよな。」
「そうだね。美術館と博物館巡りが共通の趣味だからね。」
「俺とも共通の趣味を作って欲しい。」
「仕事」
「お前は…。」
フリッツが僕の頬をつねった。
「フリッツの仕事以外の趣味は?」
「そうだなあ。昔はサッカーもしてたし、登山とか釣りとか、スキーもするし…。」
「私も釣りはするよ。狩りも。」
「姉上に聞いたな。魚や兎をとってきてさばいたって。」
「そうそう、ヴィッキーと行ったんだ。」
「みんな俺以外お前と出かけてて、俺はクラブとカフェくらいで…。」
フリッツが寂しそうな顔をする。
僕は広場にブランケットをひいて用意してきたサンドイッチとコーヒーを出した。
「フリッツ、ランチにしよう。」
「ああ。」
季節はいつの間にか秋から冬に近づいていた。
寒いけど、暗くないだけましだな。
「うん、旨い!お前の作ったの久しぶりに食べた。」
「そういえばフリッツはあのキッチン使ってるの?」
「たまーに。」
「もったいない。」
「じゃあ今度何か教えてくれるか?」
「いいよ、何にしようかな。シアナ料理とか…。」
「いいな。」
フリッツが僕の横で寝転んだ。
以前のように膝じゃないのは気を使っているからなんだろうな。
あれからフリッツは僕にキスもしない。
彼の気持ちを思うと心が痛む。
「リネア。」
「何?」
「俺さ、心のどこかでリネアは俺以外選ばないって安心しきってて、忙しいのを理由にお前とこうやって時間をつくって出かけたり一緒に何かをしてこなかったのがいけなかったのかなって思った。」
「そんな事言わないで。私も自分勝手だから仕方ないよ。」
「お前はお前、俺は俺、お互いがタイミングが合った時に会えればそれでいいし、お前もそうなんだと思ってた。だけど…、お前はそうじゃなかったのかもしれないな。」
「いや、フリッツの考えであってるよ。私もそう思っていたもん。シアナ共和国にいた時も、楽しすぎて残りたいって思ったし。」
僕はコーヒーのおかわりとクッキーを出した。
フリッツが僕の手を握る。
「…やり直したい。形だけの婚約者なんかじゃなくて、また前みたいにお前と好き同士になりたい。お前が俺と我慢して一緒にいるんだったら意味がないんだ。…だからってお前を放してやれないし。俺はワガママだ。」
「…フリッツ。私もフリッツは仕事が一番だって思ってたし、フリッツの事をもっと知ろうとしなかったって思ったよ。…正直、今すぐ元に戻るのは難しいけど。」
「お前は俺との将来を望んでいないしな。」
フリッツが悲しい顔をしたと思った瞬間、彼の瞳から涙が溢れた。
「フリッツ…。」
胸が痛い。
僕は、自分の大好きだった人にこんな顔をさせてしまうなんて。
ワガママで俺様で、明るくて楽しくて、僕の尊敬する人に…。
「…お前をミハイルに渡したくない。俺はお前に会った時からお前しかいない。自分勝手で、他の男を好きになっても、別れるなんて絶対に嫌なんだ。…許せ、リネア。お前が好きだ。」
フリッツが僕にキスをした。僕の知ってるキス。
フリッツの気持ちが痛いほど伝わってくる。
初めてフリッツに会った時
フリッツとケンカした時
初めてキスをした時
初めて一緒に朝を迎えた時
エンゲル王国に来てくれた時
いろんな出来事を思い出した。
フリッツは僕を抱き締めたまま、何度も優しいキスをした。僕は彼を拒むことができなかった。




