シャーロット様と私
エンゲル王国に戻った私は店を経営しながらスクールへ通い始めた。
エンゲル王国のスクールには同じ研究室にシャーロット様がいて、私は何かと小間使いのように利用されている。スクールへ復帰した途端、またあれこれやらされていたが、ここ数日彼女の様子がおかしい。
「シャーロット様、どうしたんですか?」
「なんだ、ミハイルか…。」
「なんだとは何ですか。」
「リネアがいたら話ができるのに…。君はいつになったら彼女をこちらに呼び戻せるんだ?君は今も全く彼女に相手にされていないのか?」
「…余計なお世話です。」
「まあこの際君でもいい。少し、私に付き合ってもらえるか?」
「…分かりました。」
私がシャーロット様専用のスクールにある客間へいくと、彼女は自らお茶を入れてくれた。
彼女は男性のような口調で話すし、態度も女性らしくないが、所作は本当に綺麗で美しい。
「今日の紅茶は?」
「私が最近はまっているブレンドで、リョクチャを少し入れたのがポイントなんだ。」
「…面白い味ですね。」
「ティーポッとも西側っぽい雰囲気だろ?リョクチャ仕様だ。」
「リョクチャはヤーパンから。このティーポットの図からはシアナ共和国をイメージしてつくられたものです。ごちゃ混ぜにしないでください。」
「君がそういう細かい事に拘るからリネアがこっちにこないんじゃないか?」
「シャーロット様、あなたが大雑把すぎるんです。」
「…そうかもしれないな。」
シャーロット様が急に元気をなくして黙りこんでしまった。
「私で良ければ聞きますよ?口外はしません。」
「聞いてくれるか?他言無用だぞ?」
「もちろん。」
私は一体こんな所で何をしているんだ…?
ついつい気になって来てしまったが。
「…先日、婚約を破棄されたんだ。」
「…シャーロット様のですか?」
「そうなんだ。」
「確かお相手は遠縁の公爵の方と聞いていましたが。」
「うん、私とハリーは幼い頃から親同士が決めた婚約者でな、お互いほとんど会ったこともなかったし、別に知っての通り彼が好きだった訳ではないんだが…。ハリーがどこかの令嬢と駆け落ちしてしまったんだ。私の地位は面倒だし、令嬢らしくないから無理だって言ったそうだ。」
「…それは…あのなんて言ってよいか。」
令嬢らしくないのは間違いないが…。
「私はハリーと結婚し、王位を継ぐつもりで今まで生きてきたから、いきなりこんな事になってどうしたらいいかわからなくなってしまったんだよ…。」
「…。」
彼女はエンゲル王国の皇女として生まれ、その将来に女王になる以外の選択肢はない。しかもこの国の女王への要求や期待は他の国の国王よりはるかに大きい。
そのプレッシャーを常に感じながら今まで生きてきた訳だから婚約破棄は彼女にとって辛いに決まっている。
「…またすぐに貴女に相応しい方があらわれると思いますよ。」
「私は…私だって自分の望んだ相手と将来を生きていきたい。」
シャーロット様が涙目になった。
不謹慎だがその泣くのをこらえている横顔が綺麗だと思ってしまった。
「…ルイーズですか?」
「…不自由だな。身分なんて。私もリネアみたいに、自分のやりたいことを自由にやってみたかった。店で働いたりもしてみたいし、色々な国へ行って学んでみたかった。」
「…やってみたらどうですか?」
「…どうやって?」
「チャーリーズで働いてみますか?」
「無理だろ…。」
「護衛をつけて変装して。」
「…やれると思う?」
「バイト代は払いますよ?」
「…頼んでみる。社会見学だ。」
ついつい気の毒な彼女を見兼ね、私はとんでもない提案をしてしまった。以前の私なら絶対にこんなことは言わなかっただろう。
リネアが言いそうな事を私がいってしまうなんて…。
「…それで、シャーロット様がチャーリーズで働いているの?」
「そうなんだ。変装してアンという名前で一昨日から店に来ている。」
「…誘拐とか大丈夫?心配なんだけど。」
「私も定期的に確認するようにするから。」
「うん。…シャーロット様か…。」
「彼女が君に会いたがっていたよ。」
「私も会いたいな。」
「伝えるよ。」
「うん。イーチェンは?連絡とれた?」
「とれたよ、来週来る予定。」
「…私も行きたいな。」
「イーチェンがいない時にして。」
「…はい。」




