リネアのスクール生活
スクールでの生活がまたこんなに楽しくなるとは思わなかった。
リネアが工学部の研究室に入ってきた。環境税を払わなくていいクリーンエネルギーを使った飛行機に乗りたいという理由で代替エネルギー研究に関心があるらしい。
外交官になりたいという希望は今はそれほどないようだ。
ビジネスをしていたらいやでも外国と取引があるから、政治よりそっちが自分にはあっている、と言っていた。
もうすぐ17歳になる彼女は見た目も年頃の令嬢らしい雰囲気になってきたし、何より持ち前の明るさと面白さで男女問わず好かれている。
彼女は俺の婚約者であることを予め俺が公言しているからさすがに手を出してくる者はいないが、この研究室にも数名彼女を気にしている奴がいる。
「フリッツの牽制がすごいって噂になっていたよ。殿下にあんなところがあったのかって。」
「ルイ、当たり前だろ?リネアは可愛いし、無自覚に愛想を振り撒くから勘違いする奴がでてくるからな。」
「あまりしつこくすると嫌われるよ?彼女は猫タイプだから。」
「…犬だろ?」
「いや、猫だね。」
リネアは今、以前使っていた寮に住んでいる。
授業が終わると研究室にいるか、スクールが休みの日はスモーランドの貿易とこちらのカジノ建設に終われ、たまにセルとエンゲル王国の店の運営について連絡している。
彼女はいつの間にか衛生を使った電話や通信システムをリスラ共和国から導入してしまったしい。
俺自信も仕事が忙しかったから、リネアが来て以来ほとんどスクールと、仕事以外で顔を合わせていない。
「リネア…。」
「ん?」
研究室から帰る時、俺はリネアに声をかけた。
「あの…さ。久しぶりに部屋に行ってもいいか?」
「…今から?」
「ああ。」
「…。」
リネアが困っているのが分かる。…嫌なのか。
「いいよ。」
久しぶりのリネアの部屋。彼女がいなくなってからずっとそのままにしてあったシンプルな部屋。あの共同製作の壁画も結局そのままだ。
「…コーヒーにする?」
「ああ。」
リネアはコーヒーを入れてくれた。
部屋はわりと片付けられていたが、美術書や建築家、文学、語学の本がテーブルにつんであった。リスラ語のものもたくさんある。
「…シアナ語やキリム語のテキスト?」
「うん、今勉強してて。」
なんだかんだ言って勉強熱心なんだよな。
「なんでキリム語?」
「誘拐された私を拾ってくれた人達が山奥に住んでいてさ、電気も何もない本当に原始的な生活をしていたんだ。」
「あ、聞いたことがある。一切の文明の利器を捨て、昔ながらの暮らしをしている民がいるって。」
「うん。私はそこで3ヶ月くらい生活したんだけどね、縄を編んだり農業を手伝ったりして…。そのシンプルな生き方や暮らしが面白いなって思ってさ、色々しりたくなって村長さんの息子に手紙を書いて送ったんだ。」
「お前は本当に色々人ができない経験をしてるなぁ。」
「そうなんだよね。シアナ共和国も、懲りずにまた行ってみたいって思ったりしてて。イーチェンは、…ちょっとあれだけど、世界中から集まった人材のいる会社で仕事をさせてもらってね、楽しくて実はその時の数人と連絡をとってるんだよ。」
俺と離れている間に、どんどん俺の知らない事が増えていた。
「…これからもずっとそうやって生きていきたいのか?」
俺はリネアの頭を撫でた。
「…どうかな。」
リネアが少し寂しそうな顔をした。
俺のせいか。
その時、電話の着信音が部屋の片隅から聞こえた。
リネアが俺から目をそらす。その時点で相手が誰か想像できてしまった。
「…出ろ。」
「…今はやめておくよ。来客中だし。」
「俺は客じゃないから気を使わなくていい。出るんだ。お前が出ないなら俺がでるぞ?」
「…。分かった。」
リネアが電話をとった。
「もしもし。」
リスラ語だ。
「うん、あのね、今フリッツと話をしているから、後で…。」
「代われ。」
電話の相手は、予想通りミハイルだった。
「お前、どこにいるんだ?」
「…君に言う必要はない。君こそリネアの部屋から出ていって欲しいな。」
「自分の婚約者の部屋にいて何が悪い?」
「私は君に用事はないから切るよ。あ、フリッツが帰る頃、またかけ直すから、そうリネアに伝えて?」
そう言ってミハイルは電話をきった。




