機内にて
フレーデル王国へ行くまでの日もその当日も僕は一言もニコちゃんと口をきかなかった。
「…リネア、いい加減、機嫌をなおしてくれない?これから仕事に行くんだから。」
「…。話すことがないので黙っているだけです。」
本当に何も話すことがなかったし、何を話していいか分からなかった。
「僕を意地悪な奴だと思ってる?」
「仕方ないと思ってます。」
「そう、でも本当は僕にミハイルとの付き合いを認めて貰えると思っていたからがっかりしたよね?僕だって少し前までそれを望んでいたし、なんで?って思うよね。」
「状況が変わったので仕方ないと理解しました。お話は以上ですか?私は仕事は仕事できちんとやります。お父様に恥をかかせるような事がないよう気をつけます。これでいいですか?」
「へぇ…。」
ニコちゃんが僕に顔を近づけ僕の髪に触れた。本当にユーラにそっくりな顔だ。兄といっても違和感がない。会いたかった人に似ている分余計に落ち込む。
「生意気だよね、君は。」
僕は返事をしなかった。
「…可愛すぎて、誰かにあげるのが惜しくなる。」
ニコちゃんが僕を見て笑った。
「…冗談きつい。」
「そう?僕なら君の価値を最大限引き出せると思うけど?」
「私の価値…?」
「うん、そのめちゃくちゃな所。僕は財力もコネクションもあるから君がしたいよう自由にさせてあげられる。君が世界中の有力者と仲良くなってビジネスをしていきたいと考えるなら僕は最良の相手だよ?」
「何がしたい訳?」
「ただ、君を飼ってみたいだけ。僕だけのものにして。」
「悪趣味で吐き気がするよ。私は犬や猫じゃない。」
僕が軽蔑の眼差しでニコちゃんを見た瞬間、ニコちゃんが僕を抱き締めた。僕はあまりにびっくりして身動きできなかった。
「…なんで?」
「君を気に入っているから。」
「…」
心臓がドキドキする。なんなんだ?何故この人はいきなりこんな事を言い出した?
「困ります。」
「嫌?」
「嫌です。誰かと再婚したいのなら、あなたが皇女と再婚したらいい。」
「…それは無理でしょ。彼女が気に入ったのはミハイルだし、僕は君がいい。」
「私はあなたの娘ですし、あなたの事はそれなりに尊敬しているんです。ですから、そういうのは冗談でも困ります。」
「それなりに…、か。君のそういう所がね…。他の人に言われたら絶対に許せない事も君だから許せるし可愛いと思う。」
「私で遊ばないで!」
「僕を選んだらミハイルの近くにいれるよ?」
「…言っている事がめちゃくちゃだ。私はあなたとの約束は守るからエンゲル王国へ行く。あなたも自分の年齢に合う令嬢らしい女性を見つけてさっさと再婚したらいい。あなたと結婚したい女性は山のようにいるはずだからね。」
ニコちゃんがさらに僕を強く抱き締めた。
「…リネア…。久しぶりだよ。こんな気持ちになったのは。」
…駄目だ。この人はめちゃくちゃ自分勝手な人なんだ。ひとの都合なんてお構い無しだし、自分の望みを叶えるためならどんな手も使うし、ゲーム感覚でなんでもやってしまう。
この人は今、冗談じゃなく本気で僕を飼うつもりだ。
この人に不快な事を言っても逆効果だ。
…とにかく大人しくしていよう。適当に対応して帰国したらさっさと離れよう。
僕はフレーデル王国へ到着するまで、ニコちゃんにずっと抱き締められたままだった。
僕はフリッツに会うのが正直怖かった。
別れを告げて彼を傷つけるのがつらい。
僕たちの楽しかった時間を終わりにするのが寂しい。
「私は…優柔不断だ。」
「フリードリヒと別れたくないとか考えてた?」
「別れたくないんじゃないけど…。」
「…僕が君ならフリードリヒを選ぶね。あ、僕以外なら。」
「何それ。」
「言ったよね?彼は君より国が一番の人だから君に合わせたりしないし、君の生き方には合ってるって。」
「私もずっとそう思っていた。だけど私は、私を一番に思ってくれるユーラといたい。」
「…フリードリヒが皇女を選ぶよう説得してみたら?」
「鬼だね。」
「何故今回君をフレーデル王国へ同行させたかわかる?」
「仕事だからでしょ?」
「それもある。だけど本音は違う。」
「…何?」
「君を失うと思ったフリードリヒがどう行動するか見てみたい。僕の予想通りだとしたら…。」
「…何?」
「…秘密。楽しみはとっておこう。」




