強敵
ユーラが迎えに来てくれるはずだったが、急遽出張の仕事が入ってしまったらしく一人で来るよう電話で連絡があった。
その電話の話で、ユーラに婚約を打診した皇女の話を聞いて驚愕した。
なんと僕がスクールで仲良くなったライヒ王国のクラウディアだったと言うのだ。ユーラに一目惚れして、それ以来積極的に話しかけてくるようになったらしい…。
ライヒ王国はフレーデル王国に隣接する大国だが、資源が枯渇し、主要産業を東や南の国に奪われ、経済的に危機的な状況に陥っているようだ。
婚姻を条件に、併合に近い形でライヒ王国を立て直してくれる伴侶を探していて、フレーデル王国のフリッツに最初その話が打診されたのだが皇女がユーラを気に入った為に話がややこしくなってしまった、という事らしい。
またフリッツとユーラなんだ…。
「ライヒ王国は地理的にも政治的にも重要な位置で、国土も広い。あの国が王政を続ける事を望む国が大半だからフリッツにも今物凄いプレッシャーがかけられているはずだよ。」
「で、ニコちゃんは、面白そうだ…と。」
「お察しの通り。」
「おかえり!」
リスラ共和国へ到着するとすぐ、ニコちゃんが出迎えに来てくれた。ユーラはいない。まだ仕事かな。早く会いたい。
「…ただいま。」
僕はニコちゃんに抱き締められた。
マルクたちはスクールかな?彼らに会えるのも楽しみだ。
「記憶はちゃんと戻ったの?」
「うん、ほぼ戻ってる。ニコちゃんの体調は?」
「うん、定期的に検査を受けているけど、今のところ再発していないよ。」
「よかった!私、ニコちゃんに話があってきたんだ。」
「へえ?楽しみだね。」
ダイニングにニコちゃんと私が座り、さっそく話を始めた。
「ニコちゃん」
「はい」
「ユーラを、私にください。」
ニコちゃんは目を丸くして、笑った。
「…理由は?」
「ユーラがいいから。」
「…ミハイルは君が好きだから、君の為なら命を捨てることも厭わない。危なっかしい君にはぴったりだよね。」
「うん。」
「だが…、今ミハイルには魅力的な話がきている。聞いたかな?」
「ライヒ王国の件だよね?」
「そう。あの国を支配できることは、君と婚約する事より政治的には、はるかに価値が高い。君は大国に匹敵するような価値を僕に提示できる?」
「…できない。」
「そう、残念だな。」
「でも私はユーラを幸せにできる。そしてユーラを幸せにできるのは私しかいないと思ってる。」
「そんな自分勝手でめちゃくちゃなのに?」
「…それでも。」
「リネア、個人的感情や恋愛の情だけでは僕が動かないのは知っているよね?君は明るくて可愛い、優しくて強い。僕も君が大好きだし、養子にして本当によかったと思ってる。だけど僕は一国の大統領だ。その立場からいくとライヒ王国の件を簡単に諦める訳にはいかない。」
「…。」
「君はミハイルが僻地まで助けに来てくれた感動で一時的に恋に落ちているだけかもしれない。ミハイルだってリネアと一緒に家族のようにいたから情が移っただけかもしれない。恋とか愛とかそんな不確かなものより僕は具体的に数字化できるものを提示してほしい。」
「…じゃあ条件をだしてよ?それが達成できたら私を認めて欲しい。」
「いいだろう。」
ニコちゃんは嬉しそうに笑った。
「まずはエンゲル王国へ戻ってスクールへ通いながらチャーリーズの店舗を約束通り3店舗成功させる事、それからメルア大陸へ渡ってフランチャイズや他のビジネスを成功させる事、フリードリヒのカジノ、スモーランドの貿易、すべて結果をだすこと、元々君が僕と話していたことばかりだ。」
「…分かった。ニコちゃんは病気が治った途端いつもどおりなんだね。もう少し情があってもいいんじゃない?」
「なぜリネアを養子にしたと思う?僕がこの国をより繁栄させる為に君が役立つと思ったからだよ。ボランティアで養子を増やした訳じゃない。リネア、僕はね、君がフリードリヒやイーチェンを選んでくれても構わないと思ってる。どちらもメリットがあるからね。君がエンゲル王国に戻るならイーチェンにもそう連絡するつもりだよ。彼もきっと君といたいだろうし。」
「…元々私がやりたかった事ばかりだし、誘拐されなかったらやっていた事ばかりだからね。ちゃんとやりとげるよ。」
「よく言った。じゃあミハイルの婚約話しは保留にしておこう。フリードリヒが皇女を先に選択したら、この話しはなくなるからそしたらミハイルと好きにしたらいい。ただ、君も1つ注意が必要だ。ミハイルが皇女を選んだ場合、君は伴侶をイーチェンかフリードリヒから選ぶ可能性が高い。これまでの流れからいけばフリードリヒだから、彼に別れを切り出すタイミングは見極めた方がいいよ。イーチェンはなかなか危ないからね。」
「ニコちゃん…。」
「何?」
「あなたは、私に感謝してるから私の気持ちを大切にしたいって言ってなかった?」
「言ったよ。そしたら君はシアナ共和国にいることを望んだじゃないか。」
「…。」
「君はね、恋愛よりも自由に行動できる事が重要で、それに付き合ってくれるミハイルは都合がいいんだ。だけど、彼は君に何かある度に君に合わせなくてはいけない。ミハイルは僕の重要な跡継ぎだからそんなふうに世界中君と一緒にフラフラしていてもらっては困る。シアナ共和国の件は僕にも責任がないわけではなかったからミハイルを行かせたけど次はない。君は自分の行動は自分で責任をとるべきだ。」
「…ニコちゃんの指摘はもっともだ。私はユーラに甘えていたし、利用しようとしていたんだと思う。」
「そうだね。その点フリードリヒは自分の立場を分かっているからぶれない。ミハイルもその点は見習うべきだし、リネアにはフリードリヒのように君を一番にしない人の方があっていると思う。君とミハイルは一緒にいて安らげる存在になれると思うけど、ミハイルは君の良さを活かせないし君もまた同じだ。ミハイルは君といると優しくなりすぎる。」
「…。」
「リネア、僕の息子を好きになってくれてありがとう。ただ、彼はただの一般人じゃなく、大統領か国王になる人だという事を理解して欲しい。君はミハイルといたいのならそれに相応しい存在になるよう努力するべきだ。その点皇女なら生まれつきそう教育されているから問題ない。君だって私の娘なんだからいつまでも不用心な行動はとらないで欲しい。」
「…気をつけます。」
「さっそくだけど、フリードリヒから先日連絡があってカジノ建設の目処が立ったから一度来て欲しいとの事だった。私とセルが行く予定だったから君も同行するように。飛行機もここにあるし、僕の時間もちょうどあいているから今から出ようと思う。」
「ユーラは?」
「彼は今少し離れた街に行っているから帰ってきたら会えるよ。」
「…そう。」
ユーラ…。早く会いたい…。




