メイユイとの約束
「来てくださって嬉しいわ。」
「…こんな美しい女性に誘われたら断れませんよ。」
「ふふ…お上手ね。」
私は今、ビルの最上階にある有名なレストランに来ている。イーチェンの所に滞在する間に何度か顔を合わせたメイユイという女性に食事に誘われたからだ。彼女は自称イーチェンの婚約者らしい。胸元が大きく開いていて、丈の短いドレスを着ている。
彼女の家は裏社会に属していて、リー家と同じように危ない仕事をしている事が分かった。
「…それで?相談て、イーチェンの事ですか?」
「ええ、あなたはエンゲル王国でイーチェン様のご友人だったと聞いたものですから。…お名前をお呼びしても?」
「ええ、ミハイルと呼んでください。」
「ミハイル、素敵なお名前ね。リスラ共和国の大統領のご長男なんですって?」
「ええ。…で?イーチェンについての相談とは?」
「私、昔から親にイーチェン様と結婚するよう言われていましたの。彼はこの国一の財閥の御曹司で、彼と結婚する事は家の繁栄につながるから、と。」
「大変ですね。」
「そうなんです。私は親に小さな頃からそのように洗脳されていました。私はイーチェン様と結婚しなくてはいけない、そう思っていたからお付き合いもしました。…でも、最近私は分からなくなってしまったんです。…彼を本当に好きなのか。」
そう言ってメイユイは私の手を握ってきた。
私は彼女の手を振りほどかなかった。
…私は今回の誘拐事件に彼女が関わっているのではないかと疑っている。リネアがいなくなって得をする人間の筆頭が彼女とその家族だからだ。だからこそ、こんな呼び出しにも対応したわけだが…。今回呼び出された理由はイーチェンが自分の思うようにならないと愚痴りたいのかと思っていたのだが、この女、私の地位を聞いて相手を代える事にしたのか?
面白い…。
今回、私が彼女と会うことはあらかじめイーチェンに知らせてあり、今私と彼女の会話と映像をイーチェンが自宅で見ている状態だ。
この女はそのような事を想定できるほど頭は良くないらしい。
「…あなたはお寂しいのですね。私にもその気持ち、分かりますよ。私もあなたと同じように親に洗脳されてやりたくないこともやってきましたからね。」
「そう、分かってくださる?嬉しいわ!私…」
メイユイが頬を赤くして私を見つめる。
幾度となくこのような目を女性に向けられたが私が本当にそうして欲しい人からは一度もこんなふうに見てもらった事がない。
「私、あなたを初めてお見かけした時から今迄に感じた事のない気持ちになってしまったんです。これは…一体なんなんでしょうか?」
「残念ながら私には分かりません。私に何かできる事があればよいのですが…。」
「ミハイル様…、あなたがここへ来た理由を伺っても?」
「私はここへ義理の妹を探しに来るよう父親に頼まれてきました。」
「…リネア様の事ですか?」
「ええ。私自信、彼女の事はどうでもよいのですが、父親が彼女を気に入っていましてね、早く見つけて帰らないと跡を継がせないと脅されまして。」
「それは…ひどいお話ですね。」
「そうなんです。父は本当に自分勝手な人でして、私の気持ちは全く考えてくれません。リネアはこちらで仕事をしたいと言っているようなので私は彼女を見つけたら帰国するつもりです。」
「あなたはリネア様の事はなんとも思っていらっしゃらないのですか?」
「まさか。私はあんな男のような人より…」
そう言ってメイユイを見つめ手を強く握った。
メイユイは顔をさらに赤くした。
「メイユイ、頼みがあります。私に協力してくれませんか?」
「…なんでしょうか?」
「リネアを見つけることに協力していただけませんか?彼女を見つけないと私は跡も継げませんし、好きな女性と一緒になる自由もなくなってしまう。」
「それは…いけませんね。私にできることがあらりましたら協力させていただきますわ。ただし私もお願いがありますの。」
「なんでしょう?」
「私が彼女を見つけたら、私をあなたの婚約者にしてくださりませんか?」
「…私なんかがあなたみたいな素敵な女性と…?」
「ええ。私はあなたがいい。」
「嬉しいです。私も一目見た時からあなたが気になっていました。」
そう言って私は彼女の手の甲にキスをした。
「さっそく父にお願いして私たちのつてを使い彼女を探してみます。このお話は二人の秘密ですよ。」
「もちろんです。」
食事を終えたメイユイは嬉しそうに帰宅した。
イーチェンの屋敷に帰宅した私は物凄く不機嫌になった。
目の前にいるイーチェンは笑い転げ、回りにいた者もなんとも言えない表情で私を見ていたからだ。
「さて、これからメイユイがどう動くかが見物だ。すでに屋敷にはスパイも送り込んである。盗聴の用意もできたから、あとは待つだけだ。…それにしても…。」
イーチェンがまた笑いだす。
「イーチェン、覚えていろ。」
「お前が女性をあんなふうに口説いているのかと思うと…。」
「私は一度も女性を口説いたりはしない。勝手に向こうから来るからそんな手間をかける必要はない。」
「…。リネアがいるだろう?」
「リネアにあんな事を言ったって無駄なのは君も知っているはずだ。甘い言葉より、甘い菓子につられる人間だからね。」
「…確かに。うまいこと言うな。…あ、メイユイが帰宅したみたいだぞ。録音の準備を。」
さて、どうなる事か…。




