フリッツとヴィル
最近殿下がずっと塞ぎこんでいる。
以前ヴィルフリート殿下がリネア様を婚約者にしてしまった時も落ち込んでいたが、今回はその比ではない。
あれだけ仕事人間だったのに片付いていない仕事が山のようにある。
リネア様がシアナ共和国で誘拐をされた。誘拐から3ヶ月以上も立つのにいまだに見つかっていないのだという。
殿下はミハイル君から連絡を受けて以来ずっとこの調子だ。
あまりにも辛そうなので見かねてヴィルフリート殿下に手紙を書いた所、わざわざ馬車でこちらに来てくださった。
「…フリッツ、ひどい顔だ。」
「…リネアの話…。聞いたか?」
「アリーナから聞きました。スモーランド大使館も必死で捜索していますがまだ何の情報もでてきていません。」
「殿下、お忙しい所来てくださりありがとうございます。」
ヴィルフリート殿下はフレーデル王国に留学していた時と比べすっかり青年らしい雰囲気になられた。
「いえ、連絡してくださってよかったです、ゲオルグさん。少し…二人にして貰えますか?」
「はい。」
◇◇◇
「フリッツ…大丈夫?」
「はっきり言って全く大丈夫じゃない。あれ以来まともに寝られなくなったし仕事も手につかない。ミハイルとも定期的に連絡をとっているがまだ何の手がかりも見つかっていない。」
少し見ない間にすごく痩せた気がする。
あのフリッツがこんなふうになってしまうなんて…。
「俺が落ち込んでいる理由はリネアが見つからない事もあるんだが、ミハイルの事もあるんだ。」
「ミハイルがシアナ共和国へ行ったこと?」
「そうだ。あいつは国や立場を捨て、命を失う覚悟で行ったんだ。何かあったら俺にリネアを頼むとまで言った。俺は…自分の皇太子の立場を離れる事ができなかったのに…。」
「フリッツ、彼は皇太子じゃないし、国の為に生きるよう育てられていないから、僕たちとは違うんじゃないですか?僕だってクーデターがおこりそうになった時、ニコライ大統領から国かリネアを選ぶ選択を迫られたけど、選択肢なんかないと思った。」
「俺はミハイルの決断を知った時点で…認めたくないけど負けたと思った。俺はリネア以外の女性は考えられないが、国や立場を捨ててまで、彼女を選ぶなんて勇気はない。ミハイルは確かに皇太子じゃない。だが、あいつは父親がヤバかった時は必死で跡を継ぐ事を考えていたんだ。だからあいつは、何があっても一番がリネアなんだって分かった。…俺は、こんな時にそんな事を考えている場合じゃないのは分かっているんだが、自分の不甲斐なさや、リネアを想う気持ちがミハイルに負けた事が悔しくて…。リネアは俺の運命の相手だと思っていたがミハイルにとっても同じだったんだな…。」
フリッツが泣いていた。初めて見たフリッツの涙…。
「リネアが最後に誰を選ぶかなんて分からないじゃないですか。」
「俺には分かる。リネアは…」
「フリッツ!見損ないましたよ。僕が憧れていたあなたがこんなことでくよくよしてしまう人だったなんて。僕だって今もオスカルを大切に思っている。僕は彼の親友だし一番大切な人だ。だけど家でメソメソしていて何になると言うのです?仕事も手につかないくらい彼女が心配なら何か見つかるよう少しでも動いたらどうですか?僕たちは皇太子だし、それをやめるなんて事リネアは望んでいない。あなたはあなたのやれる事をして、帰りを待つしかないんじゃないですか?」
「ヴィル…まさかお前にそんなふうに怒られるとは…。」
「今のフリッツならリネアもお断りだと思いますよ。彼女は自信家で格好いい皇太子のフリッツを好きになったんだ…。」
「ヴィル…。抱き締めていいか?」
「やめてください。」
「彼は殺されたにも関わらず妹に転生した強運の持ち主なんです。今頃どこかでそれなりに楽しくやっているんじゃないかって思うんですよね。」
「彼女はシアナ語はろくにしゃべれないんだぞ。どうやって楽しくすごせるんだ!?」
「例えばリスラ語が使える地域にいたら?」
「しかし話せるなら警察に連絡できるだろう?」
「…また誰かに気に入られた、とか。」
「はー…考えたくないがありうる。」
「フリッツ…、とにかく諦めて落ち込んでいるくらいなら、いっそミハイルを出し抜くくらいの事を考えたらどうです?別に正攻法でいくばかりが勝負じゃないでしょう?」
「…お前は、ミハイルみたいだな。」
「そうですか?僕はフリッツの正直で真っ直ぐな所が好きですが、それだけではミハイルには勝てませんよ。僕からオスカルをとったのはあなたです。責任をとってリネアと一緒になってください。僕はリネアはあなたが合っていると思う。」
フリッツが僕を抱き締めた。
「…泣きそう。」
「…泣いてもいいですが、泣き終わったら何か対策を考えましょう。」
「そうだな。」




