レフの望み
「冬は畑の仕事は少ないが、春に備えて準備をしたり、薪をあつめたり、手仕事をしたり、それなりに忙しくしているんだ。」
僕は怪我が治っても街まで連れていってくれる人がいなかったからこの村の仕事を手伝う事にした。
この小さな村は昔ながらの暮らしを営んでいて、電気もガスも使わず必要な物を必要なだけ自分達で生産し消費しているらしい。
自給自足、地球に優しい暮らしだと感心する。
「それにしてもオスカルの刺繍は見事ね。」
ローラが僕を誉めてくれた。
僕も何故刺繍がこんなにできるのか良くわからないが、リネアのをよく見ていたせいかもしれない。
リネアも父上も母上も、ヴィルも、僕を心配しているだろうなぁ。冬の暗くて寒いスモーランドが恋しくなってきた。
寂しさでスモーランドに何度も帰りたくなったけど、この村の人達は暖かく外国人の僕を受け入れてくれたから救われた。
僕は何故か女の子になっていたから力仕事はあまり手伝う事ができなかった。その変わり、料理や裁縫、家の修理を手伝う事にした。
季節はいつの間にか春になり、僕は畑で野菜を作り始めた。まだ山を下山する人も馬や牛も手に入りそうもないらしい。自分で降りてみる事も考えたがあまりに危険な気がしたのでチャンスを待つことにした。
レフは落ち着いているが実は歳が17歳と意外に若かった。僕は自分が11歳で来月12歳になるという意識ではいたけど見た目からするともう少し年齢が高そうでレフとあまり変わらないみたいだ。
最初はリスラ語で話していたけど毎日キリム語で話しを聞いているうちにいつの間にかキリム語が少しずつ分かるようになってきた。
たまにレフとリスラ語を話すと何かぼんやり思い出しそうな気もしたけど結局分からないままだった。
◇◇◇
「最近楽しそね、レフ。」
「ローラ…。」
レフが赤くなった。
「オスカルが来たせいよね?」
「…。」
「来月街に行く用事が数人できたから、オスカルの捜索願いを出そうと思うの。スモーランド大使館宛がいいかしら?」
「…このままじゃ駄目かな?僕はこの村の村長を継ぐつもりだけど私と結婚できそうな年齢の女性はいないし…。長老達もそう言っていた。」
「…でも本人はずっと不安な気持ちを抱えているのよ?」
「…婚約者のいるローラに僕の気持ちは分からないよ。オスカルは可愛らしいし、働き者だし、村の役にも立つ。彼女を逃したら僕にはもう次の候補はしばらく見つからないかもしれない。」
「レフ…。お父様に相談してみましょうか。」
「うん…。」
そう、オスカルを初めて見た時、僕は本当にびっくりした。こんなに綺麗な人がいたんだって…。
明るい栗色の髪、透き通るような白い肌、整った顔立ち。
目を覚ますとエメラルドグリーンの大きな瞳が僕を見つめた。
僕は一瞬で恋に落ちた。
この村から離れ街のスクールに通っていた時もあるがこんなに素敵な人を見たことがなかった。
彼女は何故か自分を男だと思っていたが、僕は気にしなかった。彼女は明るくて村の人の仕事をよく手伝ってくれている。最近はキリム語も話し出したから驚きだ。
見た目だけでなく人柄も良い彼女。僕はオスカルといるうちに、ずっとこのままだったら、と思うようになってしまった。
彼女がそれを望んでいないのは分かっているのに…。
もう少し、このままでいたい。




