シアナ共和国での生活のはじまり
シアナ共和国につくとそこは僕の見たことのない近未来のような場所だった。建物の高さが半端なく高く、その高い建物が視界から途切れることなく続く。そして、車やバイクがたくさん走っていた。
「イーチェン…私はシアナ共和国は古い小さな建物がたくさんあって、みんな自転車に乗っているんだと思っていたよ。」
「お前、いつの時代の話をしているんだ?」
「リスラ共和国より都会じゃないか。」
僕はスモーランドから、フレーデル王国、エンゲル王国、そしてシアナ共和国へきて、徐々にタイムスリップをしている気分だ。
ついに未来に到達した、そんな気がした。
「おい、キョロキョロしてあちこち行くな。」
イーチェンが僕の手を繋いだ。
「あれ何?!」
「スタジアムだ。」
「じゃああれは?」
「あれは美術館…あのなぁ、また案内してやるからまずは大人しくついてこれないのか?」
「だって…。」
「とりあえず、家に行くぞ。」
イーチェンの家は、僕のイメージしたシアナ建築をモダンにした建物で、池を囲み瓦屋根と漆喰壁の建物が配置されていた。
「うわー、やばい。格好いい!」
「…楽しそうだな。完全に立場を忘れてる。」
僕がはしゃいでいると、池の反対側から女性が走ってきた。長い黒髪に切れ長の瞳。物凄い美少女だ。
「イーチェン様っ!」
美少女はイーチェンに抱きついた。
「…メイユイ、止めろ。」
「ずっと帰りをお待ちしておりました。…そちらの方は?」
「俺の婚約者だ。」
「そんな…。私が婚約者のはずです。」
綺麗な少女が僕を睨んだ。
「それはお前の父親が勝手に言っているだけだろう?俺はそんなふうに思った事はない。」
「では何故私を…。」
彼女がそう言った瞬間にイーチェンが彼女の口を塞いだ。
「黙れ。不快だ。リネア、行くぞ。」
「うん…。」
イーチェンが僕に用意してくれた部屋はイーチェンの隣の部屋で、部屋から池が見え、インテリアは何故か僕たちの国のお城のような雰囲気だった。どうせならインテリアもシアナ共和国の雰囲気の方があっていると思うんだけど…。
「どうだ?」
「窓からの景色がきれいだね。」
僕がソファーに座るとリンがお菓子とお茶を用意してくれた。
「ありがとう、リン。」
「さがれ。」
「はい。」
イーチェンが僕の口にお菓子を運ぶ。僕はそれを食べてみた。
「うわっ!おいしいっ!」
「ゲッペイというんだ。」
「この中に入っているのは何?」
「餡だ。」
「んー、おいしいっ!」
イーチェンの顔が赤くなった。
「どうしたの?」
「いや…。お前が…可愛すぎて。」
そう言って僕から目をそらした。
なんなんだ?このツンデレは?!
…イーチェンて一体どういう性格をしてるんだ?
本当に僕が知っているイーチェンは偽物なんだろうか?
もしかしたら、僕に意地悪なイーチェンは他に誰か人がいる時の顔なのか?
僕はイーチェンを凝視した。
「…。見るなっ。」
「ねぇ。」
「なんだ?」
「本当に、ユーラとセルの事、友人だと思ってなかったの?私にはその言葉が信じられなくて。一緒にいて楽しくなかった?」
「…もちろん楽しかったに決まってるだろう。特にセルとは一緒にいる時間も長かったしな。ただ俺はこの国では人前で絶対に素を見せないって決めてるんだ。」
「じゃあ…。」
やっぱり私の知っているイーチェンは偽物じゃなかったんだ…。
よかった…。
「今は二人だからいいが、他の人間の前で弱みや優しさは見せない。お前もそれには慣れて欲しいし、人前では嫌かもしれないが俺をたてて欲しい。お前が対等でありたくとも、俺は次期当主としての俺を演じなければならない。女にやられてるなんて所を見せる訳にはいかないんだ。」
「分かった。それならそうと最初にいってよ。あの飛行機の中でのやり取りは大丈夫だったの?私思い切り叩いちゃったけど。」
「ミオンとリンは俺とお前をエンゲル王国で見ているからな。ただ口止めはしておいた。俺の方こそ叩いて悪かったな…。」
「まぁ私も叩いたからお互い様ってことで。」
「あぁ、あれはビックリした。」
イーチェンは思い出したように笑い出した。
「でもなぁ、あれがみんなの知っているイーチェンなんだ。なんかもったいないなぁ。」
「なんで?」
「だって、私の知ってるイーチェンは優しいし楽しいのに、あのイーチェンは意地悪で暴力もふるうし、全然好きになれない。」
「悪いがお前はその意地悪なイーチェンの婚約者になってもらわないと困るんだ。」
「まぁ仕事だと思ってそのへんはやる事にするよ。それにしても、まさかイーチェンに誘拐されるなんてなぁ…。」
「だってお前、心の中ではミハイルとリスラ共和国にいるのを決めていたじゃないか。」
「そんな事ないよ。どうしていいか分からなくてフリッツに会いに来たんだもん。」
「そしたらフリードリヒがキレてお前をフレーデル王国から出ないよう説得にかかるだけだ。どちらにしろメルア大陸のルートはない。」
「なるほど。それもないとは言えないか…。フリッツもたまに強引な時があるしね。」
「お前を無理やりここへ連れてくるは俺の最終手段だった。でも悪いが後悔はしていない。こうするよりお前といるチャンスは他になかったからな。」
「…まあ留学したとでも思って諦めるよ。私は逃げないからうちの両親を殺したりしないで。」
「しない、そんな気始めからない。」
「よかった…。」
少しすると、イーチェンは自分の部屋へ戻っていった。
やっと気がぬける…。僕はソファーに寝っ転がった。
とりあえず、イーチェンの気持ちと状況は分かった。
どこまでが本気で嘘か分からないしまだ全面的に信用する事はできないけど、とりあえず日常的に威圧的な態度をとられる訳ではないようで安心した。
マルクやレナートが寂しがっているだろうな。ユーラは呆れていて、凄く心配をしてるだろうな。
フリッツは自業自得だって言いながら本当は心配して、
それからニコちゃんはこの状況を少し楽しんでいて、セルはただあわてて心配している…みんなのそんな様子が想像できる。
でも、もしかしたらユーラと離れて自分の気持ちを確かめるいいチャンスになったかもしれない。
それに、せっかくシアナ共和国に来るなんて特別な機会を得たんだから有効に活かしてみたいとも思う。
イーチェンの婚約者になるのはあまり気が乗らないけど、スモーランドにいて知らない男に嫁ぐくらいならはるかにこちらの方が楽しそうだ。
まずはやれる事をやってみよう。




